神が与えたもの

アリネさんは30代後半のホンジュラス出身の女性の方でした。

 

骨盤底筋リハビリに通いだした理由は骨盤、下腹、おしりの痛み。MRI、CT、エコ―など様々なテストをしても異常は見つからず、困った産婦人科の先生が骨盤底筋リハビリの処方箋を書いてくれました。

 

彼女の痛みの症状は、毎日低レベルでおこる鈍い痛み。朝起きてから寝るまでおなかの底にズキズキする痛みがあると言います。この鈍い痛みの上に、雷が落ちるような激しい痛みが1日に2-3回あると言います。おなかをナイフで刺されるような、鋭い痛みで何もできなきなると言います。

 

過去の病歴、手術歴で関係ありそうなものが一つ。現在中学生の一人娘さんの出産時に大量出血があり、一時意識不明になったことです。

 

彼女は今、保育園で3-5歳の子供さんたちのお世話をする仕事をしており、子供と一緒に走ったり、床で這うような動きをすると痛みが増してそのあとは動けなくなると言います。ある日、男の子がドンッと後ろからかなりの勢いでぶつかった時、腰、骨盤底に鋭い痛みがはしり、病院に運ばれたこともありました。

 

アリネさんとの治療の中で私がまず取り組んだことは彼女とのRapport(信頼関係)をつくること。アリネさんは今まで原因不明の骨盤の痛みをありとあらゆるお医者さんに相談してきたのですが、その中には” It's in your head”(痛みは自分の頭にあるだけ)、とか” You are faking the pain to get benefit from the government" (痛みがあるなどとうそを言って政府の生活保護を受けようとしているだけ)などありえないような扱いを受けたことを一番初めの治療の日に淡々と語ってくれていたからです。

 

アリネさんの痛みの原因は腹筋・背筋の弱さ、骨盤底の筋肉の常時緊張、不規則な排便、食生活にあるのではと治療を続けるうちにわかってきました。

 

①アリネさんは腹筋・背筋1回もできませんでした。これはきっと慢性のおなかの痛みのために長年筋肉を抑制していたため弱くなったのかと。姿勢も前かがみで骨盤後傾でした。

 

②骨盤底の筋肉は体の中の尿やウンチを誤って外に出さないように普段締まっていますが、骨盤底の慢性の痛みがあるアリネさんはよくこの筋肉を緊張させすぎて骨盤、下腹部に痛みを伴うようになっていました。

 

③アリネさんの排便の習慣は不規則で、便秘が5日続いた後浣腸で排便を促したりしながらの毎日でした。

 

④油を使った料理と甘い飲み物が大好き。加工食品、甘味料を使った食べ物は身体に炎症を起こします。

 

 

アリネさんの痛みは90%ほどよくなりました。上記の原因について介入し、食生活、排便のリズム化、体幹を鍛えて、骨盤底の緊張をほぐすようにしました。

 

アリネさんとの治療の中で今でも心に残っている会話があります。痛みとは何かについてカジュアルにお話していたのですが、アリネさんはこのように言っていました。

 

”骨盤やおなかが痛い時は私の体の中が戦場のよう。まるで自分の体が自分の体と闘っているよう。”

 

そして彼女の生い立ちや、信仰についても語ってくれました。

 

”私が生まれたホンジュラスは神への信仰が厚く、痛みは神によって与えられるもの。痛みに耐えることは神様の教えを受けることと同じ。痛みに耐えることで自分は神に近づけるとずっと教えられてきたの。”

 

”私の父は厳しくて私に体罰を与えてしつけをしてきたの。私はそれが嫌でホンジュラスから母と逃れてきたの”

 

”今は父に教えられたことは全く信じていないけど、今でも思い出すの。”

 

アリネさんは無事クリニックでの治療を終えた後も順調に生活しているようでした。でも彼女との会話、身体の痛みと心理的な痛みのつながりについて考えさせられました。

 

痛みのある患者さんには本当に色々なことを教えてもらいました。物理的な痛みと精神的な痛みはつながりがあり、そこに介入していくには、患者さんとの信頼関係がまず第一です。

 

作業療法、理学療法セラピストの特権ですね、身体の痛みも心の痛みも同時に介入できる職って他にないんじゃないだろうか。