バフェットもアメリカの財政は持続不可能だと指摘している。
トランプ政権は財政健全化を進めているが、バフェットが提唱していた輸入証書による貿易赤字の解消と、トランプ政権の関税政策による歳入拡大は全く異なるという。
【参考】2025年5月4日の動画(一部抜粋)
関税について
インタビュアー「2003年のフォーチュン紙の記事で、貿易赤字を抑えるためのインポート・サーティフィケイト(輸入証書)をバフェットが提唱し、これは実質的に関税と同じだと述べていました。しかし最近、あなたは関税を経済戦争の行為と呼びました。貿易障壁に対するお考えが変わったんでしょうか?それともあなたが提唱していた輸入証書は関税とは別物だとお考えですか?」
という質問ですね。まずね、輸入証書って何なのかっていうことなんですが、これが2003年にフォーチュン紙にバフェットが寄稿した記事で、バフェットが提唱した制度ですね。関税と似てる部分も確かにありますよと。輸出額=輸入額に近づけようとするもので、アメリカの恒常的な貿易赤字を抑えるための制度をバフェットが提唱した。これは輸入コストを引き上げるという点で関税に似ているんですが、関税は政府に課税収入が入るのに対し、この輸入証書制度では収入が輸出企業から輸入企業間で移転するため、政府歳入にはならないという点で異なっているんですが、質問者の内容はですね、今回の関税はこれとは根本的に異なるものなんですかっていう、そういう質問ですね。それに対して
バフェット「そうです。私が提唱した輸入証書と関税は全然違うもの。ただ目的は輸入と輸出を均衡させるという同じ目的。要は貿易赤字がこれ以上巨大化しないようにする仕組みなんですね。さらに当時の言い方で言えば、第3世界の国々が少しでも追いつけるよう配慮するなど、いくつかの条項を盛り込みました。(途上国のことですね) 基本的には貿易を均衡させることが世界にとっていいという考え方です。貿易が均衡していれば、ガーナでカカオが、コロンビアでコーヒーが育ち続けるように、各国が得意分野で繁栄できます。米国も過去250年前は農業国に過ぎませんでしたが、今や工業国です。だからこそ赤字を膨らませて負債を積み上げる状況にはしたくありませんでした。そこで私は輸入証書という案を設計したのですが、チャーリーには複雑な仕掛けの妙案だなと言われました。確かに小細工かもしれませんが、少なくともいま議論されている案よりはずっとマシだと思います。確かに貿易は戦争の手段になり得ますし、米国内でも好ましくない感情を生みました。本来、私たちは世界と自由に貿易し、お互いが得意分野を担うべきです。250年前、アメリカはタバコや綿花の生産が得意で、それを輸出して繁栄しました。今や核兵器を保有する国が8カ国あり、その中には不安定な国もあります。そんな状況で『俺たちが勝った』と一部の国が誇示する世界を作るのは特策ではありません。だから私は輸入証書案、当時ですね、実際には全く採用されませんでしたが、この主眼は貿易を武器にしないということです。アメリカは既に勝ち組です。ゼロから出発して250年でこれほど重要な国になった例はありません。しかし世界にはまだ71億人がいて、アメリカの3億人が勝ち誇るのは賢明でも正義でもありません。世界が繁栄すればそれは決して米国の損にはならず、むしろ私たちも豊かになり、子供たちもより安全に感じられるでしょう。とはいえ、私の輸入証書案が国富論と肩を並べることは期待しないでくださいね。」
という風に言っております。この回答については関税政策について批判をしつつ比較優位、その世界各国得意なものをね、世界で作り合って貿易した方が世界の発展につがるよねということを述べているのかなと思います。
米国債務は維持不可能水準へ
インタビュアー「政府効率化省(DOGE)の取り組みは米国の長期的な範囲にプラスでしょうか?マイナスでしょうか?」
また、ドルの将来についての質問もありました。これについて
バフェット「官僚制は驚くほど蔓延しやすく感染力があります。巨大企業でさえもっとうまく運営できるのではと感じるほどで、バークシャーも例外ではありません。そして政府は究極の官僚組織です。チェック機能がほとんど効かないため、将来の通貨価値が心配になるのです。政治家は選挙で人々にバラ色の約束をします。彼らが誠実であっても。つまり、歳入と歳出のコントロールは永久に解決されない難題であり、多くの文明を衰退させてきました。米国も例外ではありません。現在、米国は持続不可能な財政赤字で運営されています。これが2年で破綻するのか、20年持つのかは前例がないので誰にも分かりません。ハーバート・スタイン経済学者の言葉に、『永遠に続けられないものはいずれ終わる』というものがあります。私たちがいま行っていることは持続不能で、ある時点で制御不能になります。ポール・ボルカーはかつて暴走を阻止しましたが、我々は何度も危ういところまで近づきました。米国は大きなインフレを経験してきましたが、ハイパーインフレには陥ったことがありません。1度暴走すると自己増殖しますから、そんな実験はすべきではありません。現在、歳入歳出のギャップは約7%。持続可能なのは3%程度でしょう。差が広がるほど制御不能ゾーンへ近づきます。私はこの問題を正す役目を引き受けたくありませんが、誰かがやるべき仕事です。議会はあまり得意ではないようですが。米国には常に課題がありますが、これは自業自得の問題です。私たちは世界最高の収益力、資本生産力、頭脳生産マシンを持っています。それを台無しにする方法を選ぶとすれば通貨を壊すことになるでしょう。問題を起こした人に罰がなく、むしろ報酬が与えられる。それが現実です。米国は世界史上、最も成功した国ですが、この問題を解決する余地はまだ残っています。」
ということで現在の財政赤字はもう持続不可能なレベルにかなり近いというような感じの話ですね。
【5/3株主総会】関税批判!五大商社投資の展望!現金ポジションの意図、米国債務問題など【ついに年末CEO退任へ】
※一部ではバフェットの父親は金本位制支持者であり、実はバフェットはひそかにゴールドを買い進めているのではないかといった憶測が飛び交っている。(真偽不明)
【参考】2025年5月5日の動画
バフェット「もちろん私たちは価値が大暴落しそうな通貨で資産を持ちたいとは思いません。それが米ドルについて私たちが最大の懸念を抱いている理由です。政府というのは長い目で見れば、自国通貨の価値を毀損したがる傾向があり、それを抑える仕組みは存在しません。独裁者を選んでも、選挙で選ばれた代表者を選んでも、結果は同じです。しかし、政府や中央銀行だけでなく、国民の側にも通貨の価値が下がることを受け入れやすい空気や力が働きます。(人々はインフレによってバラマキを望む傾向にある) 実際、年次報告書でも少し触れましたが、私が米国で最も恐れているのは政府の財政政策です。現在のアメリカの政治制度や政策決定の仕組みにはどうしても選挙目当てのバラマキや財政拡大を促す動機が組み込まれていて、そうした動きが通貨に悪影響を与える可能性があるのです。ただ、それはアメリカに限ったことではありません。世界中で見られる現象であり、国によっては定期的に制御不能になっています。そして、驚くほど速いペースで通貨の価値が下がることがあり、それが続いているのです。つまり、人々は経済学を学んだり、いろんな仕組みを作ったりできますが、結局のところ、通貨を管理する人々が紙幣を発行したり、昔のように貨幣の縁を削って量を増やすようなこともできます。そうした行為を働く人間は常に存在します。それ自体が特別悪意のあることではなく、政府の”本質的な役割”とも言えるでしょう。ただ、政府の自然な流れとして、時間をかけて通貨の価値を下げる傾向があり、それが重大な結果をもたらします。しかし、それを防ぐための堅牢なチェック&バランスを制度として組み込むのは、極めて困難なのです。」
米ドル以外の通貨とは一体何を指しているのか?ゴールドを指しているのではないか?と推測されたり、暗号通貨投資家の間ではビットコインのことだ!と色々憶測がありますね。実際、世界で最も中立的な通貨とされるゴールド、過去1年で41%上昇しています。見方を変えればドルは金に対し、購買力が30%程度減少しているとも言えます。もちろんこれは米ドルだけの話ではなく、バフェット氏の言うように世界中で起こっていることであり、主要通貨の中で特に安全資産として好まれるスイスフランでさえも、金に対して購買力は22%減少しています。米ドルが減少しているからと言って、他の通貨に資産を逃しても、法定通貨では資産価値が目減りしていくということです。しかし、なぜ法定通貨の価値は年々目減りしていくのか?バフェット氏が言うように通貨を管理する人々、つまり各国の政府や中央銀行が紙幣を増刷することでインフレが発生し通貨価値が減少してきます。これは米国のM2マネーと金価格を表しているグラフです。
M2マネーとは簡単に言えば市場に流通する通貨の総量です。その年代のインフレやデフレなどによって左右されますが、紙幣増刷に伴って金価格も上昇しています。少し分かりにくいのですが、リーマンショックやパンデミックショックなど経済危機が発生するたびに紙幣増刷ペースが上昇し、金価格も急激に上昇しています。
(中略)
バフェット氏自身は金に批判的ですが、彼の父ハワード・バフェット氏は熱狂的な金本位制支持者でした。ハワード氏は1940年代から50年代にかけて米国下院議員を務めてましたが、彼の政治的立場は”小さな政府と健全な貨幣”を重視する保守的な立場で、中央銀行による印刷機によるマネーシステムに批判的でした。ハワード氏は1948年に「人間の自由は金兌換通貨に依存する」というエッセイを発表し、金本位制の復活を強く主張しました。
「自由な国では通貨単位は政治家の支配から独立した金、または金と銀の固定された基盤の上に成り立っている。1933年以前の我々のドルはそのような通貨だった。金本位制は無制限の政府支出を防ぐ無言の番犬として機能し、紙幣制度のもとでは個人は政治家の気まぐれに依存することになり、自由を失うだろう。もしあなたが子供たちや国を急激なインフレ、戦争、奴隷状態に委ねるつもりがないなら、この運動を支持しなければならない。人間の自由がアメリカで生き残るためには、正直な貨幣を取り戻す戦いに勝たなければならない。紙幣制度の実験は常に崩壊と経済的混乱に終わるだろう。」
また、エッセイだけでなく議会においても「子供や国をインフレにさらしてよいのか。国民の自由を維持する唯一の手段は金に裏付けられたお金である」このように、父ハワードは金をただの投資対象ではなく、「人々の自由維持の要」と考えました。77年も前ですが、現在のインフレ、無制限な政府支出、終わらない紛争、現在起っている問題を全て予言しているかのようですね。さて、ここで気になるのは息子のバフェット氏は密かに父の意思を継いで、金に強気なのでしょうか?それとも父と仲違いし、真逆の道を歩んだのでしょうか?正解は神のみぞ知るですが、少なくとも仲違いの可能性は少なさそうです。というのもバフェット氏はインタビューなどで「父から多くの良い教えを受けた。世界がどう思うかより、自分の内なる評価を大事にしろと教わった」と語っており、父の誠実さを尊敬していました。また、ウォーレンの自伝的伝記「The Snowball」では、ウォーレンが父を深く尊敬していたことが強調されています。父ハワードを「正直で高潔な人物」と見なし、その影響を強く受けたと繰り返し述べ、父が1964年に亡くなった際、ウォーレンは深い悲しみを覚え、父の死を人生の大きな転機として振り返っています。またウォーレン氏には息子がいますが、息子の名前もまたハワード・バフェットと名付けています。父と同じハワードの名前を息子につけたのは、父への敬意の表れでしょう。父と仲違いによって投資思想が別の方向に行った可能性は低いように見えます。これほど父を尊敬しているのであれば、金を批判しているのはあくまでも現在の不換紙幣という金融システムに適応しているだけなのかもしれません。
【バフェット引退と警告】「米国財政赤字が最大の懸念だ」実は金に強気なのか?銀を大量に買っていた過去とは?
※一見すると、トランプ政権がやっていることは重商主義そのものであり、バフェットが主張している考えは国富論や比較優位説に似ているように思える。しかし、バフェット本人は「とはいえ、私の輸入証書案が国富論と肩を並べることは期待しないでくださいね」と語っており、実のところ、自分は貴金属の蓄積等を否定しているわけではありませんといった解釈もできなくもないのかもしれない。(単に、アダム・スミスのような影響力のある考えではないと謙遜しているだけの可能性もある)
【参考】
アダム・スミスは、18世紀前半まで西ヨーロッパを中心に採用されていた重商主義を批判したことでも知られています。重商主義とは、国家が豊かになり繁栄するためには、輸出を積極的に進めて金銀を自国に流入させるべきとの考え方です。
アダム・スミスは、国の豊かさは貴金属の蓄積で決まるのではなく、労働者が生産する生活必需品や便益品の蓄積で決まると考えました。そのために、国際的な分業や自由貿易を展開して労働価値を高めていかなければならないと主張しています。
リカードの代表的な主張のひとつが「比較優位説」です。比較優位説とは、各国が得意とするものの生産に特化し、他は貿易によって調達することでより多くのものを得られるという考え方を指します。そのため、リカードは自由貿易に賛成の立場でした。
https://money-bu-jpx.com/news/article047350/
※今もバークシャー・ハザウェイの現金保有高は過去最高を維持しており、慎重姿勢を崩していない。
【参考】2025年5月4日の記事
[オマハ(ネブラスカ州) 3日 ロイター] - 米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる米投資会社バークシャー・ハザウェイ(BRKa.N)は3日、第1・四半期決算を発表した。
現金保有高は過去最高の3477億ドルを記録した。
営業利益は前年同期比14%減の96億4000万ドルで、1月に南カリフォルニアで発生した山火事による保険損失が響いた。
ガイコを含む保険事業は昨年非常に好調だったが、バフェット氏は今年には同じような状況は再現されないだろうと予想。「今年は価格が下がり、リスクが高まっている」と語った。
第1・四半期純利益はアップル(AAPL.O)などの株式の未実現損失を反映し、64%減の46億ドルとなった。
バークシャーは昨年5月以降、株式を買い戻さず、10四半期連続で売り越している。
この日、最高経営責任者(CEO)を年末に退任する意向を明らかにしたバフェット氏は、バークシャーの現金保有急増を巡る懸念には取り合わず、同社は最近100億ドルの支出に「近づいた」が、買収の機会は秩序だった形で訪れるわけではないと述べた。
次期CEOのグレッグ・アベル副会長は、現金を蓄え、それをバークシャーの文化に合った事業に賢く使うというバフェット氏の哲学を共有していると発言。多額の現金は「戦略的な資産であり、これによって困難な時期を乗り切り、誰にも依存せずにいられる」と語った。
https://jp.reuters.com/markets/japan/5H2XJ37TVNPTRLNMQEQCY7RN6E-2025-05-04/
【参考】2025年5月4日の記事
[オマハ(ネブラスカ州) 3日 ロイター] - 米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏は3日、自身の投資会社バークシャー・ハザウェイ(BRKa.N)年次株主総会に登壇し、自由貿易を擁護し、関税は「武器」であるべきではないと語った。他の国々がその繁栄を分かち合えば、米国はより良くなると述べた。バークシャーが投資する日本の5大商社にも言及した。
バフェット氏はこの日、60年にわたってかじ取りをしてきたバークシャーの最高経営責任者(CEO)を年末に退任する意向を明らかにした。
表明に先立ちバフェット氏は「バランスの取れた貿易は世界にとって良いことだ」、「貿易は武器であってはならない」と語った。
「我々の勝ちだ、と一部の国が言うような世界を構築するのは良い考えだとは思わない」とバフェット氏は強調。「世界の他の地域が豊かになればなるほど、我々も豊かになる」と話した。
バークシャー自身は市場に対して慎重な姿勢を崩していない。第1・四半期の現金保有高は過去最高の3477億ドルに膨れ上がった。
バフェット氏は株主総会で、次期CEOのグレッグ・アベル副会長らと4時間以上にわたって質問に答えた。バフェット氏は、米電気自動車(EV)メーカーのテスラ(TSLA.O)のイーロン・マスクCEOが率いた政府効率化省に関する質問をかわしながら、連邦政府の財政赤字は「持続不可能」であり、政府は財政再建をすべきと警告した。
「私は望まない仕事だが、やるべき仕事であり、議会はそれをやっていないようだ」とバフェット氏は語ると、聴衆から拍手が起きた。
バフェット氏はまた、米国経済や国自体の方向性を心配する投資家たちに忍耐を促し、突然の市場下落で落ち着かないのであれば、投資へのアプローチを考え直すべきだと述べた。一方で、長期的に米国を楽観視する姿勢を崩さなかった。
「我々は常に変化の過程にある」とバフェット氏は語った。
同氏とアベル氏はバークシャーが投資をしている日本の伊藤忠商事、丸紅(8002.T)、三菱商事(8058.T)、三井物産(8031.T)、住友商事(8053.T)にも触れた。バフェット氏は、日本の5大商社を強く支持しているとし、今後50年は売却を考えないだろうと発言。アベル氏は、50年あるいは永久に株式を保有することを想定していると述べ、「私たちは関係を築いている。彼らと一緒に大きなことを成し遂げたいと願っている」と語った。
バークシャーは3月、5大商社の持ち株比率を最大で9.8%まで引き上げたと発表した。5社への総投資額は2024年末時点で総額235億ドルに上る。
https://jp.reuters.com/markets/japan/ADLUP2I6XNJZNLOZ573TZBOTVA-2025-05-04/