関税をかけるとまず輸入業者がそれを負担することになるが、それによるコスト増を価格にそのまま転嫁してしまうと今までと同じ物が高い値段になってしまうため、物が売れなくなるおそれがある。
そのため、「最終的に関税を負担するのは米国民だ」といった主張には一部誤りがあるのではないかと思う。
確かに高い関税率になれば価格に転嫁せざるを得ない分もあるが、関税の負担をそのまま価格に上乗せするわけではなく、あまり高くなり過ぎない程度に値上げするはず。
そのため、最も大きい負担があるのは企業であり、関税分をそのまま価格転嫁できない分は損失になるし、今までと同じ物が値上がりすることで売れなくなる分も企業の損失になる。
また、アメリカに輸出する企業にとっては自国通貨安であればいくらか関税の負担を相殺できるため、さらなる通貨安競争につながりやすくなる。
アメリカ政府は中国に対して125%もの関税をかけるとしているが、それはアメリカの輸入業者が今までよりも2倍以上の価格で仕入れることになってしまうため、中国の製品、部品、資源を大量に輸入しているアメリカにとってかなりの経済的ダメージがある。
「サプライチェーン全体を再構築するきっかけとなり 企業のグローバル戦略に直接影響を与える」と言われており、「超高関税」によって世界経済にかなりの変化があるようだ。
【100%関税とは?日本への影響は?】米中摩擦と日本の輸出産業への影響、そして未来の物流戦略
中国側もアメリカに対して84%もの関税をかけるため、これまで中国に輸出していたアメリカ企業(特に農業)は中国での販売が減ることになる。
なぜ、中国の報復関税は「農産物」に焦点を絞っているのか | BrainDead World
さらに、中国はただ報復関税をかけるだけでなく、アメリカに輸出している資源(レアアース)の一部を供給停止にするため、アメリカの様々な製造に影響が出るらしい。
中国が「米国への希土類鉱物の供給の停止」という強力な報復を実施 | BrainDead World
恐らくこれはアメリカと中国が近い将来、戦争になることを想定し、中国への経済的な依存度を極力減らそうとしてのことなのだろう。
ベッセント財務長官の発言から、「米国は同盟国と貿易協定結び、集団で中国に臨む」という内容の記事が出ているが、この関税はそのような意味もあってのことらしい。
米国は同盟国と貿易協定結び、集団で中国に臨む-ベッセント財務長官 - Bloomberg
アメリカへの莫大な投資額(約5兆ドル)によってアメリカで雇用が創出され、産業も育成されるため、長期的に見ればアメリカ経済に大きいプラスになると言われている。
【何が起きてる?!】株価暴落にインフレ、長期的な経済効果 - youtube
「アメリカにこれだけ大量の仕事を持ってきましたよ」と急に言われても、それに対応できるだけの人材を確保できなければやはりまずいことになってしまう。(特に半導体工場)
TSMC、米先端半導体に15兆円を追加投資 3工場新設 - 日本経済新聞
そのため、やはり短期的にはかなりの痛みがあるのだろう。
【参考】2025年4月9日の記事
関税が引き上げられると、その分、輸入する際のコストが上がることになります。
各事業者にとってみると、関税の引き上げ分を現地での販売価格に上乗せすることも考えられますが、値上げになるため販売の減少につながるおそれもあります。
一方で、販売価格に転嫁しなければ、その分、利益が圧迫されることになります。
関税の引き上げは、アメリカ国内では引き上げ分が輸入品の販売価格に上乗せされ、物価の上昇につながるおそれがあります。
アメリカ政府にとっては関税の引き上げ分が関税収入の増加につながることにもなります。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250409/k10014774061000.html
【参考】2023年5月16日の記事
台湾がマイクロチップの世界最大の受託生産国となっている理由のひとつは、ロイヤル・リー(31)のようなエンジニアにある。
勤務先の台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)の機械がコンピューターウイルスによって麻痺したとき、リーは問題を解決するため48時間態勢で働いた。
昼も夜もなく電話対応に追われる生活が何年も続き、5年間の自己犠牲の末、2021年の暮れには電話の呼び出し音に恐怖を覚えるようになった。10万5000ドルという台湾では人もうらやむ年収も、リーを会社にとどまらせるには十分でなくなった。
TSMCは過去10年で、世界最小かつ最速のマイクロチップの製造競争でインテルやサムスンといったライバルを引き離す存在となった。TSMCが世界でも地政学的に最も重要な企業のひとつとなった理由としては、同社のエンジニアの創意工夫によるところが大きい。
だが台湾半導体業界の上層部では今、新世代エンジニアの需要増に採用が追いつかなくなるのではないかといった懸念が強まっている。減少する人口、ハードな仕事文化、IT関係の求人が大量に競合し合う状況で、業界の人手不足がかつてないレベルに達しているためだ。
台湾にとって、その意味は重い。軍事戦略家の中には、マイクロチップ供給でTSMCが支配的な立場を築いているからこそ台湾は中国の侵攻から守られている、と論じる向きがある。アメリカが台湾を守る必要があるという立場をとっているのはサプライチェーンにおける重要性ゆえ、という見方だ。
台湾の人材危機はTSMCの成功と絡み合っている。TSMCの従業員数は過去10年で約70%増加したが、その間に台湾の出生率は半減。人工知能(AI)のような将来有望な領域のスタートアップ企業がトップクラスのエンジニアを引きつける中、TSMCは人材採用でグーグルやオランダのASMLをはじめとする外資系企業とも競争しなければならない。採用競争におけるこうしたライバル企業は、概してワーク・ライフ・バランスがよく、無料で食事が提供されるなど給料以外の特典も手厚い。
TSMCの経営陣はハードなことで知られる同社の仕事文化を守ってきた。TSMCが7万3000人の従業員を擁する4400億ドル規模の巨大企業へと成長できたのは、ハードな働き方によるところが少なくない。
創業者のモリス・チャン(張忠謀)は最近、自身が当然のものとして期待する軍隊的な規律を擁護する発言を行っている。従業員が真夜中に会社から呼び出されても配偶者はまたすぐに眠れる、とチャンは言った。ただ、会長のマーク・リュウ(劉徳音)は近年、台湾の半導体業界が直面する最大の課題は人材不足だと繰り返し認めるようになっている。
https://toyokeizai.net/articles/-/672865
【参考】2024年11月22日の記事
トランプ次期大統領は一言でいうと「米国ファーストで、米国内の雇用創出」を意図している。ただし、ある人が言っていたのだが、「トランプ氏の米大統領就任をきっかけに米国内で工場を新設しようかとフィージビリティースタディーをしたが、結局、米国では人手不足により十分な人材が集まらないと判断した」とのことだった。もしかすると他の日本メーカーも米国進出を諦めたかもしれない。
そもそもトランプ次期大統領の目標は国内産業の保護だったはずだ。それでも中国などからの輸入品に莫大な関税をかけるのであれば、米国内の輸入企業は壊滅的な状況になる可能性が高い。もっと言うと、米国内のメーカーでも中国からの調達品抜きで製品を造れるところはほぼない(直接調達しているか、間接かはともかくとして)。しかも関税のアップはさらなるインフレをもたらす。
中国は当然ながら報復措置に出るだろう。例えば「特定材料について米国への輸出を禁じる」といった措置だ。実際に中国政府は米国次期政権の出方を様子見しているだろう。そして実際に中国が輸出禁止措置をとると、米国企業は立ち行かなくなる。中国以外に高い関税をかけられた国も、追随して報復措置をとる可能性がある。
「それらの国をなだめる」という雰囲気を醸成して、トランプ次期政権は高関税の政策をやめるかもしれない。という読みもあって、サプライチェーン関係者は次期政権が高関税を特定国に課す可能性を否定はしていないが、その可能性はさほど高いわけでもないだろう、と思っている。また、例えば中国からの完成品には関税をかけても、電気自動車で使用する部品には関税をかけないなどの「ザル関税」になるのではないかと見る向きは多い。
読者の属する企業でも、大幅なサプライチェーンの組み換えは準備していない、というのが実際のところではないだろうか。
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01268/00118/
【参考】2025年1月20日の記事
[ロンドン 17日 ロイター] - 通商や債務、インフレなどさまざな懸念材料がある中、大西洋の両側に位置する欧州、米国ともに今年は労働力不足が経済の主要な課題となりそうだ。
トランプ次期米大統領が政策の柱として打ち出したのは移民規制と不法移民の強制送還。トランプ氏がこれらを実行に移せば、向こう2年で最大100万人の不法移民が送還され、米国の人口増加率は鈍化しかねない。
一方、欧州ではウクライナとロシアの持続的な停戦が実現し、欧州全土にいる多くの避難民や移民がウクライナ本国に帰還するのではないかとの観測が強まりつつある。
ロシアによる2022年の侵攻以来、ウクライナから430万人余りが国外に脱出し、ドイツだけでも100万人強が生活している。欧州では多くのウクライナ人が生活や仕事をする法的権利を付与された。少なくともそうした働き手の一部が失われるとの見通しを受け、一部の中欧諸国では懸念が広がっている。
多くの国で過去2年にわたって大幅な利上げが実施されたにもかかわらず、労働市場は熱を帯び続ける。そんな状況で労働力人口が著しく減ることで、一部の国ではスタグフレーション的な供給逼迫に直面するのではないか、との不安が再燃してきた。
賃金上昇率が再び上振れすれば、そうでない場合に22年と23年の利上げを熱心に巻き戻そうとしているように見える各中央銀行にとって頭痛の種が増えてしまう。
<熱が冷めない労働市場>
国際労働機関(ILO)は16日、24年の世界全体の失業率が5%と過去最低を維持し、今年も同水準にとどまった後、26年にはさらに4.9%まで下がるとの見通しを示した。
JPモルガンのストラテジストチームは、国連の予測に基づいて、先進国の生産年齢人口が23年に7億4600万人でピークに達し、50年までに4700万人減少すると指摘した。
これは今年、欧米の企業が新型コロナウイルスのパンデミック時に経験した深刻な人手不足にまたさらされる可能性を意味する。
実際、米国の労働市場は24年を通じてそれほど勢いが弱まらなかったようだ。
全体的な採用難の度合いこそパンデミック前の水準に落ち着いたとみられるが、米国の零細企業を対象にした調査では、輸送や建設、製造といった重要セクターで重大な人手不足に警鐘が鳴らされ続けている。
向こう3カ月で採用拡大を予定している零細企業は全体の2割で、そのうち約90%は条件に見合う応募がゼロかほぼゼロだった。労働コストが個別事案で最大の問題だと解答した割合は、極端に跳ね上がった21年よりわずか2ポイント低い水準に迫っている。
そうなるとトランプ氏が提案した移民規制と不法移民強制送還に注目を向けざるを得ない。22年時点で、米国で働く不法移民は推定約830万人とされる。
<物価押し上げ、成長下振れ>
米国では移民が過去2年の経済をけん引する重要な役割を果たしてきたし、物価高騰を引き起こさずに多くの新規雇用を創出し続けられた大事な理由とも考えられている。
米議会予算局(CBO)は24年2月、23年の移民純流入推計値を急激に引き上げ、エコノミストらは24年の持続的な雇用の伸びに関する予想の修正を迫られた。
ところが23年末以降、移民流入は著しく減速している。それはバイデン政権が24年半ばに難民申請の大幅な制限を導入したことも影響したのは言うまでもない。この措置で毎月の移民純流入数は23年に比べて3分の2になったと試算されている。
そしてトランプ氏の強制送還計画は労働需給をさらに引き締めかねず、だからこそ投資家はこうした移民政策が関税や減税よりも経済的に重大な意味を持つと考え始めた。
モルガン・スタンレーは、トランプ氏の計画に基づくと向こう1、2年で約100万人の不法移民が送還され、今年の人口増加率見通しは1.2%から1.0%に下振れるとみている。
シュローダーズのエコノミストチームは、移民規制と強制送還が人手不足を通じて最終的には賃金上昇とサービス物価押し上げにつながるとすれば、恐らくより大きなインフレ要素だとの見方を示した。
ピーターソン国際経済研究所の推計を引用したシュローダーズのチームによると、大量強制送還と一律10%の輸入関税の物価押し上げ効果を比較すれば、前者が3ポイントだが、後者は1ポイントにとどまる。またこうした供給ショックは、米国の潜在成長率を現在の2%強から1.5%に切り下げてもおかしくないという。
インベスコは、強制送還が経済成長にマイナスとなり、スタグフレーション的環境をもたらすなら、株価は大きく下落すると主張している。
強制送還の穴が、高い技能を持つ移民へのビザ発給である程度相殺されるかどうかを含め、この問題を巡る議論は多岐にわたる。
だが移民流入と労働力減少への懸念はもはや重要なマクロ投資の変数となっているのは明らかで、トランプ次期政権に対する市場の考え方を支配する要素になるはずだ。
https://jp.reuters.com/opinion/forex-forum/6CEJUGAW6BOV3CFKWGZ3KRBCEE-2025-01-20/
【参考】2024年9月19日の記事
米国では10年以内に約600万人の労働者が不足することが、新たな調査報告で明らかになった。
労働市場データを提供するライトキャストの分析によると、退職に加え、雇用のミスマッチ、男性の労働参加率の低下がその主な要因だ。予想される人口増加に基づき、2032年までに労働者が現在より600万人不足すると同社では予測している。
ライトキャストのエコノミスト、ロン・ヘトリック氏は「今後5年から7年の間に、労働力人口の増加は人口の増加に追いつかなくなる。生産者よりも消費者の方が多くなり、価格高騰と製品不足を引き起こすだろう」と指摘した。
その一因は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前の20年間とは異なり、高齢労働者がもはや雇用の伸びをけん引しないことにある。同調査によると、2020年以降に引退した500万人のうち、約8割が55歳以上だった。
2027年には、典型的な定年退職年齢である65歳になる米国民の数が、16歳になる米国人の数を初めて上回る。つまり、定年退職者に代わる潜在的な新規労働者が十分に確保できない可能性があるということだ。
もう1つの問題は、雇用のミスマッチだ。労働力人口はより若く、より高学歴で、より女性が多くなると予測されているが、これらのグループは医療や建設、配管工事、自動車整備の職業など、多くの需要が見込まれる産業に必ずしもマッチしていない。
一方で、働き盛りの男性の多くが雇用市場から姿を消しつつある。ライトキャストの調査によると、薬物乱用や収監の増加が一因で、460万人に相当する労働力が奪われている。しかも、男性優位の重要な技能職の求人が増加している時期にだ。
この調査によれば、薬物による死亡や中毒の大半は若い男性の間で起こっており、アルコールは約2億3200万日分の欠勤の原因となっている。これは11万2000人の正規労働者が1年間欠勤することに相当する。パンデミック以降の米国では、職がなく、職を積極的に探していない人の数が約9500万人から1億人に増加した。
同調査によると、米国生まれで働き盛りの男性の不足を補うには、移民が必要になる可能性が高い。すでに、移民なしでは機能しない産業もある。ライトキャストによれば、医療従事者の18%が外国生まれで、医師は4人に1人、正看護師は5人に1人の割合だ。
人手不足を解消する選択肢として注目されているのが、人工知能(AI)だ。しかし、ライトキャストは、必要とされる実務的で実践的な役割をAIやオートメーションが果たせるかどうかについて懐疑的だ。実際、労働者を最も必要としているのは、まさにAIが人間の従業員に替わる可能性が最も低い産業だと、この調査報告は指摘している。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-09-18/SK0D2KT1UM0W00
株価とビットコインが暴騰しているが、これは「トランプ大統領が9日、中国を除く複数の国・地域を対象に相互関税の一部を『90日間停止する』と発表した 」という報道を受けてのことらしい。
しかし、「一方、報復関税を上乗せした中国に対しては関税を125%に引き上げると表明した」とあり、よく読むと決して株式市場にとって好材料とはいえない内容になっている。
中国側もアメリカに対して84%の報復関税を課すと発表し、4月10日から発動される。
これはアメリカと中国の双方にダメージがあるため、今回の発表を受けて株式市場は安堵しているような雰囲気になっているが、恐らく実態を無視している。
【参考】2025年4月10日の記事
トランプ大統領が9日、中国を除く複数の国・地域を対象に相互関税の一部を「90日間停止する」と発表した。米株式相場が急伸し、低リスク通貨とされる円の売りが広がった。
トランプ大統領は自身のSNSで9日、一部の国に対して相互関税の上乗せ部分の一時停止を許可したと発表した。その間の関税率は10%となる。一方、報復関税を上乗せした中国に対しては関税を125%に引き上げると表明した。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFL09DW10Z00C25A4000000/
【参考】2025年4月9日の記事
中国は、トランプ米大統領が課した新たな関税に対して報復した。米中間の貿易戦争はエスカレートした。 中国政府は 9日、米国から輸入する製品に対する関税を84%に引き上げると発表した。この対抗措置は 4月10日より発効する。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-04-09/SUG6X6DWLU6800
・追記
中国に対する関税率は合計で145%とのこと。中国以外の国も合意に至らなければ大幅な上乗せ関税が適用されるらしい。
【参考】2025年4月11日の記事
ホワイトハウスは中国からの輸入品に対して賦課している関税は合計で少なくとも145%に上昇すると明確にした。これは米中貿易に壊滅的な打撃を与え得ると考えられている水準をはるかに超えるレベルだ。
145%には「相互関税」としての125%と、合成麻薬フェンタニルの流入を理由に課している関税20%が含まれる。