最近は太陽フレアが話題になっているが、本当に社会インフラなどに重大な影響を及ぼすのはコロナ質量放出(CME)の方らしい。

これは特に高緯度の地域で影響を受ける。

コロナ質量放出(CME)による磁場が地球を包み込むと地磁気がじょう乱されて磁気嵐が発生する。

大規模な磁気嵐が発生すると停電や人工衛星の故障などを引き起こす。

 

【参考】

オーロラの世界的な広がりは、太陽風と呼ばれる、太陽から地球に吹き付けるプラズマの流れの影響を受けて大きく変わります。特に、太陽風中に地磁気と逆向き(南向き)の強い磁場が含まれ、地球がその磁場に包まれると、地球の磁場(地磁気)が大きく乱される「磁気嵐」が発生します。

太陽風の磁場は、普段は主に東西方向を向いていますが、大きな磁気嵐を引き起こす南向きの磁場は、「コロナ質量放出」によってもたらされます。

磁気嵐:地磁気が、世界規模で数日間弱くなる現象。大規模な磁気嵐では、活発なオーロラ活動によって地上の送電網に誘導電流が流れて停電が発生したり、人工衛星の故障が引き起こされたりする場合がある。

https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20160215.html

 

【参考】

地磁気じょう乱により送電線に準直流電流が流れて電力システムに障害を及ぼすことがある。このような現象は地磁気誘導電流(GIC)と呼ばれている。高緯度の地域でその影響が顕著であるが、中低緯度の地域でも電力システムの障害の発生が報告されており、日本においてもその測定や影響の評価が必要となっている。

https://www.nict.go.jp/publication/shuppan/kihou-journal/houkoku67-1_HTML/2021S-03-05.pdf

 

 

地磁気誘導電流(GIC)によって変圧器などが破壊されて停電になることがある。

それがもしキャリントン級の太陽フレアやCMEの直撃によるものだった場合、大災害どころの被害では済まされず、文明が崩壊するとまで言われている。(ロシアンルーレットなどと言われていることもある)

https://wired.jp/membership/2022/08/12/sun-storm-end-civilization/

これまでのところ、大規模な太陽フレアによって保護リレーの不要動作(事故区間の切り離し)が起きることは何度かあったが、CMEの直撃によって送電網が地面から電流を拾ってダメージを受け、長期に及ぶ大規模停電になったという被害はなかったらしい。

 

※どうやら「地磁気擾乱」が活発になっている時、停電リスクが高いらしい。

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以下の動画によれば現時点で発生している黒点はキャリントン・イベントの時の黒点に匹敵する規模になっているとのこと。

また、一時的ではあるが磁気嵐の中でも最大スケールのG5に到達していたとのことであり、それは2003年の「観測史上最大のフレア」が発生した時以来だった。(つまり、滅多にないことが起きている)

そして今がピークなのではなく、これからさらに活動が活発になっていくと言われている。

 

【参考】2015年9月2日の記事

現代の計器で捉えた観測史上最大のフレアは2003年の太陽活動極大期に起こりました。あまりにも巨大だったため衛星のセンサが振り切れてしまいました。記録できた等級はX-28X128 倍。X1M110倍)。

これはそのときの写真です。

https://www.gizmodo.jp/2015/09/post_18168.html

 

 

極大期は2025年だと主張する専門家もいるが、CNNの5/11の記事を見ても、やはり極大期は今年であると書かれている。

https://www.cnn.co.jp/fringe/35218788.html

(以前、極大期は2025年だとされていたが、NOAAの最新予測では20241月~10月に変更されている)

https://magazine.saiboupark.jp/technology/108/

今年半ばから後半にピークを迎える見通し」と言われているが、ロシアは高緯度に位置しているため、もしかしたら今年の夏から冬にかけて太陽の活動が戦争にも影響するのかもしれない。

(もしロシアで大規模停電が起きれば著しく継戦能力が損なわれることになり、ウクライナの奇跡的な勝利が現実味を帯びてくる。また、ロシアには多くのパイプラインが敷設されているため、もしかしたらそれが問題になる可能性もある。)

https://www.nict.go.jp/publication/shuppan/kihou-journal/houkoku67-1_HTML/2021S-03-05.pdf

また、ピークを越えても5年程度は警戒した方がいいという警告をしている専門家もいる。

https://sdgs.yahoo.co.jp/originals/188.html

(太陽フレアを伴わないCMEもまれに観測されることもあります」「太陽フレアは常にCMEを伴って発生する訳ではなく、CMEを伴わない太陽フレアも一定数存在する」とも言われている。しかし、「深刻な宇宙天気じょう乱を引き起こす高速で強い磁場を持つ大規模なCMEは、大規模なフレアに伴う」とのことであり、警戒するべきCMEが放出される時は大規模なフレアも同時に発生しているらしい。)

https://swc.nict.go.jp/knowledge/solar.html

https://www.nict.go.jp/publication/shuppan/kihou-journal/houkoku67-1_HTML/2021S-04-01.pdf

 

 

小惑星の衝突は非常に稀なことだが、大規模な太陽フレアが地球に影響することは数十年に一度ぐらいの頻度で起きているらしい。

2012年にも大規模な太陽フレアを伴うCMEが発生し、地球方向に向かっていたが運よく直撃せずにかすめただけだった。

2012年に起きたCMEのニアミスは1859年のキャリントン・イベントと同程度の磁気嵐だったらしい。(キャリントン・イベントのフレア規模はX45だったようだが、恐らくこれは推定値なのだろう)

https://www.soumu.go.jp/main_content/000791938.pdf

また、775年にはキャリントン・イベントを遥かに超える規模の「メガストーム」が発生したことがあり、これはスーパーフレアだったと言われている。

https://www.nikkei-science.com/202204_035.html

遅かれ早かれ、電力に頼る現代社会は大惨事になることが予想されるが、それは太陽フレアやCMEによって引き起こされるようだ。

(大規模噴火、核戦争、小惑星衝突などもあり得るが、今の状況を見ればフレアやCMEが最もリスクが高いのだろう。しかし、日本の場合は首都圏に危険な火山があり、いつ大規模噴火してもおかしくないと言われている。その時は停電ぐらいで済むことはなく、降灰によってどうしようもない状態になってしまうのかもしれない。)

https://ameblo.jp/oswalduck/entry-12829842873.html

 

 

電力に頼る社会になってから大規模なCMEが地球に直撃したことは一度もなく、まだ現代人は誰も「オフグリッド」(電力会社の送電網につながっていない状態)を経験したことがない。

1989年に地磁気誘導電流(GIC)によってニュージャージー州の発電所のトランス(変圧器)が焼かれたことがあったが、これはCMEによって引き起こされたようだ。

しかしこれはキャリントン級の大規模CMEの直撃によるものではなかった。

https://www.jaxa.jp/article/interview/vol65/index_j.html

 

【参考】

1989年3⽉に発⽣した過去50年間で最⼤級の強い地磁気嵐伴う誘導電流のために焼損した⽶国ニュージャージー州の発電所のトランス(変圧器)

 

https://seg-www.nict.go.jp/event/oh2022assets/pdf/1.pdf

 

【参考】2024511日の記事

現在の太陽は太陽活動の極大期にあり、今年半ばから後半にピークを迎える見通し

https://www.cnn.co.jp/fringe/35218788.html

 

【参考】

コロナ質量放出( CME ) は、磁場とそれに伴うプラズマ質量が太陽のコロナから太陽圏へ大量に放出されることです。 CME は太陽フレアやその他の太陽活動と関連付けられることが多いですが、これらの関係について広く受け入れられている理論的理解は確立されていません。

CME が惑星間空間に入ると、それは惑星間コロナ質量放出( ICME )と呼ばれます。 ICME は地球の磁気圏に到達して衝突する可能性があり、そこで磁気嵐やオーロラを引き起こし、まれに電力網に損傷を与える可能性があります。

https://en.wikipedia.org/wiki/Coronal_mass_ejection

 

【参考】

「1859年9⽉の磁気嵐が再来した場合、NERCの基準(225A)を⼤きく超えるGIC(地磁気誘導電流)が流れることが想定される。送電網への影響が懸念される。」

https://www.soumu.go.jp/main_content/000791938.pdf

 

【参考】

https://seg-www.nict.go.jp/event/oh2022assets/pdf/1.pdf

 

【参考】

保護リレーとは、送電線など電力系統の設備に発生した事故(落雷など)を瞬時(数十ミリ秒)に検出し、事故区間を切り離し、停電時間を極小化するものです。電力の安定供給のために大変重要な役割を担っています。

https://www.global.toshiba/jp/products-solutions/transmission/products-technical-services/protection-relay.html

 

【参考】

宇宙天気の影響の一つとして、地磁気じょう乱により地上の送電線やパイプラインのような長距離にわたって敷設された導体に誘導電流が流れることが知られている。これを地磁気誘導電流(GIC)と呼んでいる。高緯度の地域では、オーロラ活動に伴う強い地磁気じょう乱により大きなGICが流れることが知られており、電力システムやパイプラインへの影響についての研究が以前から行われてきた。

https://www.nict.go.jp/publication/shuppan/kihou-journal/houkoku67-1_HTML/2021S-03-05.pdf

 

 

※太陽フレアによって低軌道上の人工衛星が落下することもある。現在、SpaceX社のStarlinkは約5000基打ち上げられているため、もしそれらの多くが落下した場合、軍事行動にも支障をきたすようだ

https://www.cnn.co.jp/tech/35208940.html

(・追記 starlinkは2024年5月現在、約6000基存在している。)
 

【参考】

https://www.vixen.co.jp/lp/so-ten-ken/vol89/main/

 

【参考】2022年2月16日の記事

高度80500km付近は熱圏、高度5001km付近は外気圏と呼ばれる地球の大気圏の一部で、希薄ながらも大気が存在しています。つまり、地球低軌道(高度2000km以下)を飛行する人工衛星は、熱圏や外気圏を飛行していることになります。

希薄といえども大気が存在するわけですから、地球低軌道を飛行する人工衛星は抵抗を受けます。大気から抵抗を受ける人工衛星は少しずつ減速し、高度が徐々に下がっていきます。そのうえ、太陽フレアや地磁気嵐が生じると、地球の大気は加熱されて膨張します。すると、地球低軌道でも大気密度が上昇するため、人工衛星は大気からより強い抵抗を受けるようになってしまうのです。

アメリカ海洋大気庁(NOAA)によると、今回の磁気嵐の規模は5段階(G1G5)のうち一番低いG1で、人工衛星の運用には軽微な影響が及ぶ可能性があると同庁は解説しています。しかし、打ち上げ直後のスターリンク衛星が投入されたは高度210kmという比較的低い軌道だったため、磁気嵐の影響を強く受けることになってしまったようです。スペースXによると、今回打ち上げられた衛星は、過去の打ち上げ時と比べて最大50パーセント強い大気抵抗を受けたといいます。

https://sorae.info/space/20220216-spacex-starlink.html

 

【参考】2024113日の記事

これまでも衛星通信はありましたが、スターリンクが従来と異なるのは、衛星の高度と数です。通常の静止衛星は高度約36000キロメートルの軌道上にありますが、スターリンクは約65分の1にあたる高度約550キロメートルの低軌道上に位置しています。地球との距離が近いため、低遅延での通信環境を地上で提供することができます。

通常、低軌道の衛星は地上でのカバー範囲が狭くなってしまいますが、スターリンクは桁違いに多くの衛星を打ち上げることで、幅広い地域で高速・低遅延の通信を実現しています。例えば、代表的な静止衛星通信の「インマルサット」は4基、スターリンクと同じ分野の低軌道周回衛星(高度780キロメートル)を使う「イリジウム」でも66基で運用しています。一方、スターリンクのスペースXはすでに約5000基の衛星を打ち上げており、将来的には42000基の体制を予定しています。

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/78866

 

 

 

 

 

※アメリカも日本と同じぐらいの緯度に位置しており、高緯度というわけではないが、キャリントン級の太陽フレアの影響を受けたり、それに伴って放出されたCMEが地球に直撃した場合、かなりの被害が想定されている。

 

【参考】2015年9月2日の記事

太陽にフレアが立ち昇ると、磁気プラズマのとてつもない大きな雲が宇宙に放射されます。これがコロナ質量放出(CME。太陽の天気では最も発達が遅いもので、地球に到達するまでに12時間から数日間もかかります。危険レベルは最大です。

CMEは太陽から真っ直ぐ飛びます。その直線軌道上に地球がなければセーフです。それも十分ありえることです。 逆にCMEが真っ直ぐ地球目がけて飛んできた場合、最初にタッチダウンするのは NASAの太陽風観測衛星「ACE」です。場所は地球より約100万マイル(160km)太陽側のL1ラグランジュ点(日本語解説)。そこを通過して、さらに30分から1時間でプラズマ雲は地球に降り注ぎ、磁気圏がじょう乱され、磁気嵐がトリガーされます。電力網に影響が出始めるのは、この段階です。

「これで大気高層に巨大な電流が生まれます。地面がどれだけ導電性が高いかに応じて、地面を伝わって発電所に大量の電流が拾われ、それが送電網にフィードされます。が、いかんせん、送電網は地面からくる大量の電流を処理できる仕様にはなってないんですね」(Berger所長)

キャリントン級のイベントが今起きたらどうなるのか? 米国科学アカデミーの報告によれば、世界のほぼあらゆる面に影響が出るといいます。 大型の磁気嵐で大地に誘導される地電流は、配電システムの臓部にあるトランス(変圧器)の巻銅線を溶かし、大型停電をもたらします。今の送電線は互いに繋がり合っているので、 1ヶ所で停電が起こると、それがもっと広い範囲に拡がる恐れもあります。

その混乱は筆舌に尽くしがたいものがあります。電気はもちろん消えます。ネットも落ちる。充電する電子機器は全部パー。水道が電気制御の市町村(今はほとんどそう)はトイレも流せない、下水処理も停止です。ヒーターとエアコンも冷蔵庫もただの箱になって、傷みやすいナマ物や薬品はみるみる腐っていきます。ATMもユースレス。ガソリンポンプも1滴も出ない。まさに生き地獄。 GPSもやられます。GPSシステムは宇宙船や携帯のような2地点間で行き交うシグナルの本当に微妙なタイミングに依存しているシステムなので、大気中に高エネルギー粒子が大量に出回るとGPSがイカれてしまう。GPS登場前の昔の航空着陸技術に戻るのかと思うと、なんとも言えない気分になるね」 (Grunmanさん) 中には何年も復旧不能な、世界一円を巻き込む障害もあります。「なにしろ地球磁場全体が変わるんですからね。その影響は全地球におよぶんです」(Berger所長)

これだけ電気大食いの人類がオフグリッドになるなんて社会的影響は想像もつきません。経済のダメージは相当のものですよね。

https://www.gizmodo.jp/2015/09/post_18168.html

 

【参考】2022年8月12日の記事

次の太陽嵐が地球に接近して深淵宇宙気候観測衛星が警告を発すれば、おそらく到達の1時間前、あるいは接近スピードが速い場合には15分前ほどに、乗組員のいる宇宙船のアラームが鳴るだろう。

そのころ地球では、電離層にプラズマが流れ込み、この電子衝撃によって高周波無線伝送が遮断される。そのときには、電波を介して伝わるGPS信号も一緒に消えてしまう。携帯電話の受信可能エリアは縮小し、Google Mapの位置情報精度は下がる。大気が加熱されて膨張し、人工衛星は姿勢を崩して軌道から外れ、ほかの人工衛星や宇宙ごみと衝突する危険がある。軌道から完全に落下してしまうものもあるだろう。

新しい衛星のほとんどはいくらかの太陽光線には耐えられるようになっているが、強力な嵐に見舞われればいくら見事な回路基板であろうと高熱に屈するかもしれない。ナビゲーションシステムと通信システムが混乱すれば、常に約1万機が空を飛んでいる民間航空機は一斉に着陸を試みるだろう。パイロットは目測で飛行パターンを調整し、管制官は光信号で飛行機を誘導する。軍事施設の近くの住人は、緊急発進した政府専用機が飛んでいくのを見るかもしれない。レーダーシステムが妨害されると核防衛プロトコルが作動するからだ。

にわかには理解しがたい奇妙な電磁気学の性質のもと、大気中を流れる電気は地表に電流を誘導し始める。そうして電流は地殻を走りながら、最も抵抗の少ない経路を探す。抵抗の大きい岩石がある地域(米国では特に太平洋岸北西部、五大湖、東海岸地域)において、最も便利なルートは地上の送電網を通ることだ。

送電網の最大の弱点は中継地点、つまり変圧器である。変圧器は発電所から送られてくる低電圧の電流を安く効率的に輸送できるよう高電圧に変換し、あなたの家の壁のコンセントまで安全に送れるよう再び低電圧に変換する。米国に約2,000台ある大型変圧器は地中にしっかりと固定され、余分な電圧を地殻に吸収させている。しかし、磁気嵐が襲ったときにはその地殻が逆に電圧源となるのだ。ほとんどの変圧器は交流電流を扱うようにつくられているので、磁気嵐による直流電流は過熱、溶融、さらには発火さえ引き起こしかねない。おそらく予想されるように、古い変圧器ほど故障の危険性は高くなる。米国の変圧器は平均して40年前につくられたもので、本来の寿命をはるかに超えている。

キャリントン級の太陽嵐が発生したときに送電網の機能がどのようにして不全に陥るかをモデル化するのは容易ではない。個々の変圧器の製造時期、構造、場所などの情報は通常企業秘密とされている。米国政府と頻繁に取引しているエンジニアリング会社のメタテック (Metatech)による予測はかなり深刻だ。その推定によると、1859年や1921年に起こったような強力な磁気嵐が襲えば、全米で365基の高圧変圧器が破壊されかねないという。稼働中の変圧器のおよそ5分の1を占める数だ。

東海岸の各州では、変圧器の故障率が24%(メイン州)から97%(ニューハンプシャー州)にまで及ぶ可能性もある。この規模で送電機能が停止すれば、少なくとも13,000万人が停電に見舞われることになる。しかし、オーバーヒートする変圧器の正確な数よりも、その場所のほうが重要かもしれない。2014年に『ウォールストリート・ジャーナル』は、送電システムの安全性に関する米連邦エネルギー規制委員会の未発表報告書の内容を報じた。その報告書によると、場所によっては変圧器が9基壊れるだけで、全米が数カ月間停電する可能性があるという。

長期にわたる全国規模での送電障害は人類にとって未知の領域だ。さまざまな政府機関や民間団体が発表した文書には、米国で起こりうる惨状が描き出されている。家庭や職場では冷暖房が使えなくなり、シャワーや蛇口の水圧は低下する。地下鉄は線路上で停止し、クルマは信号が機能していない道路をのろのろと走る。石油の生産も、海運などの輸送もストップする。スーパーが数日分の商品しか在庫保管しなくてよくなった現代の物流システムの恩恵は、逆に大きな問題の種となる。食料庫は数日でほとんど空になる。

しかし、最大の被害を生むのは水だ。米国では水処理施設の15%が人口の75%を支えており、それら施設は大量のエネルギーを要するポンプシステムに依存している。このポンプはきれいな水を供給するだけでなく、病原体や化学物質に汚染された汚泥を下水処理施設に送って除去し続けている。電力がなくなると、こうした廃水処理設備から汚水が溢れ出して地表の水を汚染する恐れがある。

また、停電が続くと医療現場が逼迫し始める。滅菌用品は不足するのに患者数は急増する。予備電源や発電機が動かない、あるいはその電気を使い切ってしまうと、インスリンなど変性の起こりやすい医薬品がだめになる。透析装置、画像診断装置、人工呼吸器などの大型医療機器は機能しなくなり、病棟はまるで野戦病院と化す。死者の数は増えるが安置所の冷蔵機能は失われ、自治体は遺体を安全に処理する方法について苦しい決断を迫られる。そして最悪の場合、このころに原子力発電所でメルトダウンが始まる。原発は炉心や使用済み燃料棒を冷却するために何メガワットもの電力を必要とする。現在、米国のほとんどの原発はディーゼル発電機を非常用電源として備えている。MITで原子力の安全性を専門に研究するコルーシュ・シルヴァンは、停電が数週間以上続くと多くの原子炉で問題が起きると警告する。

──米国の送電網は大規模な磁気嵐に対する備えが著しく不充分であり、事業者は変圧器を強化するための措置をただちに取るべきである──

幸い、技術的な解決策はすでに存在している。直流電流を遮断する比較的安価なコンデンサーを、故障のリスクが高い変圧器に取り付けるだけで脅威は軽減されるのだ。1989年に磁気嵐がケベック州を襲ったときには、早いうちに送電がストップしたことで電流によるダメージは広範囲に及ばずに済んだ。危機一髪の事態だったが、これが大きな教訓となった。その後数年かけてカナダは信頼性向上のために10億ドル以上を費やし、特に脆弱な変圧器にコンデンサーを設置するなどした。「米国全土をカバーするには数十億ドルほどかかるでしょう。しかしそのコストを利用者1人あたりで割れば、負担は年間で切手1枚分です」とカッペンマンは言う。レジリエント・ソサエティ基金 (Foundation for Resilient Societies) 2020年に行なった調査においても、送電網の包括的な強化には年間約5億ドルのコストが10年間かかるという同様の数字が導かれている。

しかしこれまでのところ、米国の電力会社は電流遮断装置を実際の送電網に広く配備していない。「電力会社は、(安く送電するために)さらに送電電圧を上げていくなど、むしろ磁気嵐に対する脆弱性を増大させることばかりしています」とカッペンマンは言う。

米政府機関である宇宙天気予報センターの元所長トム・バーガーも送電網の運営について疑問を呈する。「事業者と話をすると、自分たちは宇宙の天気について理解しているし準備もできていると言います」と彼は語る。しかし、212月にテキサス州の送電網がダウンし、数百人の死者を出して数百万の家庭や企業が暖房を使えなくなり、およそ2,000億ドル(28兆円)の被害が出たとき、バーガーはもはや事業者を信用できなくなった。この危機をもたらしたのは、大寒波という米国にとって充分に経験のある事態だ。「このときも同じ言葉を聞きました。『冬については理解しています、問題ありません』と」

電力会社がやる気のないままでいるなら、われわれ人類が大規模な磁気嵐に耐えられるかどうかは破損した変圧器を交換する能力にかかっている。米国商務省が2020年に行なった調査によると、米国は大型変圧器とその部品の80%以上を他国から輸入している。通常の需給状況下において、変圧器の発注から納品までには2年かかることもある。「業界外の人にはこの製品の製造の難しさがわかりません」とカッペンマンは言う。

業界関係者なら、設立から少なくとも10年経っている工場でつくられた変圧器しか買ってはならないと知っている。「不具合を解消するにはそれくらいの時間がかかるのです」。太陽嵐の危機下では、たとえ地政学的な同盟国であっても外国政府は重要な電気機器の輸出を制限しうるとカッペンマンは指摘する。この10年、さまざまな災害シナリオに対応すべく、参加者がリソースを共有できる予備品プログラムがいくつか生まれてきた。しかし、そのために用意されている予備品の規模や所在を政府は知らない。 業界が教えようとしないからだ。

https://wired.jp/membership/2022/08/12/sun-storm-end-civilization/

 

 

 

 

 

・追記