※間違っていた箇所を削除し、一部追記をしました。

 

 

アメリカ経済の最大のリスクは商業用不動産や景気後退などではなく、IT関連企業の凋落である可能性が高い。

確かに商業用不動産の問題も深刻で、景気後退リスクもかなり高まってきているようだが、中国政府による米国製半導体とOSの排除によって今後、米IT業界が大打撃を受けることになることは恐らく避けられない。

現時点では中国政府使用IT機器と大手通信キャリアに限定されているようだが、これが国全体に広がれば米IT業界にとってとんでもないショックになる。

中国政府がこのような措置を取れるようになったということは、既にある程度の代替手段を持っているということになる。

 

(実際のところ、中国政府が発表したガイドラインは、どの程度までアメリカのIT企業を締め出そうとしているのかについては今のところよく分からない。単なるブラフや駆け引きなのか、それともgigazineの記事にあるように、本当に「置き換えが現実味を持つようになった」ことで弱い立場ではなくなったのか、もう少し時間が経ってみないとはっきりしない。)

 

これまでのアメリカはIT業界で寡占状態が続いてきたことで経済的に成長力が保たれてきた面が大きいが、それが大きく削がれる可能性がある。

アメリカの半導体やOSは単に経済をけん引してきたというだけではなく、他国あるいは世界をある意味で支配してきた力の源泉とも言える。

もし中国製半導体とOSが他の国にも広がり、アメリカに取って代わるようなことになれば「~ショック」ぐらいのダメージでは済まされないのだろう。

日本はアメリカの国債や株式を大量保有しているため、アメリカの経済が低迷すれば日本も大打撃を受ける。

 

最近、欧州はGoogle・Apple・Metaに対して独占禁止規則の順守をしていないということで調査を開始したと報じられているが、「Appleが独占禁止法を遵守していないことが確認された場合、Appleは全世界売上高の10%までの罰金を科せられる可能性があり、違反を繰り返した場合は罰金が最大20%まで増加する」とも言われている。(gigazineの記事より)

さらに、Googleの「google play」やAppleの「app store」が「自社アプリストア外への誘導を禁止する『反ステアリング規則』」に違反しているとのことで、既にAppleには「欧州委員会が約18億ユーロ(約2940億円)を超える制裁金を科す」と発表している。

また、Appleの中国市場における出荷台数はこのところ著しく低下しており、「apple car」や「microLED」の開発中止といった開発面での不調もあり、Appleは様々な面で逆風にさらされている。
「ファーウェイは昨年、国産の先端半導体を搭載した『Mate60』を投入し高級スマホ市場に復帰した。爆発的な人気となりアップルのiPhone販売の急減につながった。」という報道があるが、ファーウェイの復活もAppleには打撃になっている。

中国ファーウェイ、人気スマホの新機種発売間近か | ロイター (reuters.com)

 

 

【参考】2024年04月15日の記事
中国政府は2024年3月に、IntelやAMDなど海外製のチップの使用をやめ、中国企業の製品を用いるようにする方針を表明し、ガイドラインを発表しています。
The Wall Street Journalによれば、工業情報化部は大手通信キャリアである中国移動通信(チャイナモバイル)と中国電信(チャイナテレコム)に対して、中国以外の製品がネットワーク内で使われていないかを精査し、交換に向けたスケジュールを作るように求めたとのこと。
期限は2027年となっており、3年以内に海外製品の排除を実現したい政府の姿勢が表れています
中国製製品への置き換えを政府が推進する理由としては、アメリカとの間の摩擦のほかに、中国製チップの品質向上と安定した性能が実現されつつあり、置き換えが現実味を持つようになったことが挙げられています
The Wall Street Journalは情報筋の証言として、中国や世界のネットワーク機器で使用されるコアプロセッサの大半を供給しているIntelやAMDに大きな打撃を与えるものになると記しています。

 

【参考】2024年4月15日の記事
これまで米国は中国に制裁を加えながらも思騰合力のような協力会社を通じて「抜け道」を与える形で自国の先端チップが中国に販売されるのを黙認してきた。自国主要企業の売り上げの相当部分が中国にかかっているためだ。昨年7-9月期基準でエヌビディアの売り上げの22%、インテルの売り上げの27%が中国から出ている
だがファーウェイなど中国企業が相次いで技術限界を突破して成果を出すと対中強硬派の声が高まり、これ以上この状況から目をそらしにくい状況になった。制裁で苦戦したファーウェイは昨年8月に7ナノメートルプロセスを適用した第5世代(5G)スマートフォン「メイト60プロ」を発売し中国市場で販売台数1位を記録して復活した。今年は最先端極端紫外線(EUV)装備なく5ナノ半導体生産に挑戦する。これは現在業界で最も先を行く工程から1~2年ほど遅れをとった水準だ。
中国外交部は米国の追加制裁に「中国企業を不当に狙うために輸出統制を使っている」と非難した。続けて米国企業が中国で莫大な収益を出す品目を先制的に遮断し対抗した。ウォール・ストリート・ジャーナルは12日、消息筋の話として中国工業情報化部が今年初めにチャイナモバイル、チャイナユニコム、チャイナテレコムの中国3大移動通信会社に「外国製CPUを2027年までに交代せよ」と指示したと報道した。
米インテルとAMDは世界の通信ネットワークCPU市場の95%以上を占めている。これら企業は全チップの半分ほどを中国市場に販売してきた。中国当局のこうした措置にこの日インテルの株価は5%、AMDは4%以上急落し、エヌビディアの株価もやはり3%近く落ちた。

 

【参考】2024年3月25日の記事
[24日 ロイター] - 中国は、政府使用のパソコン(PC)とサーバーから米半導体大手インテル(INTC.O), アドバンスト・マイクロ・デバイセス(AMD)(AMD.O),両社のCPUを段階的に排除することを定めたIT機器調達指針を導入した。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が24日伝えた。
FTによると、この指針ではマイクロソフト(MSFT.O)の基本ソフト(OS)「ウインドウズ」や外国製のデータベースソフトウエアの代わりに、国産の製品を使うことも求められている。
町村単位以上の政府機関はIT機器購入に際して、「安全」かつ「信頼できる」という観点で基準を満たすCPUやOSを選ぶよう指示されているという。
中国工業情報省は昨年12月、CPUとOS、集権的なデータベースについて、それぞれ「安全」かつ「信頼できる」とみなされる製品のリストを記した声明を発表しており、ロイターが確認したところ、該当するのは全て中国企業の製品だった。

 

【参考】2024年03月26日の記事
EUの欧州委員会が、GoogleとAppleのアプリストアにおける反ステアリング規則やGoogle検索での自社サービス優遇など、Google・Apple・Metaがデジタル市場法の独占禁止規則を順守していない疑いがあるとして、調査を開始すると発表しました。この調査により、Appleが独占禁止法を遵守していないことが確認された場合、Appleは全世界売上高の10%までの罰金を科せられる可能性があり、違反を繰り返した場合は罰金が最大20%まで増加する可能性があります。
欧州委員会は、GoogleとAppleが自社アプリストア外への誘導を禁止する「反ステアリング規則」について、デジタル市場法の第5条4項に違反している可能性を指摘しました。特にAppleについては、欧州委員会が約18億ユーロ(約2940億円)を超える制裁金を科すと2024年3月初頭に発表しています。

 

【参考】2024年03月27日の記事
中国における2024年2月のiPhone出荷台数が、前年同月比で約33%減少したことがわかりました。1月にも前年同月比で約39%減少しており、中国では2カ月連続の不振となりました。

 

【参考】2024年03月25日の記事
将来のApple Watchに採用されるはずだったAppleの「スマートウォッチ用ディスプレイ」開発計画が頓挫したと報じられました。増大するコストがネックになったようです。

 

【参考】2024年3月1日の記事
アップルにとっては車の開発は荷が重かったということです。エンジンやギアなどの開発、電池、完全自動運転の技術。こういったものがうまく製品に落とし込めなかったんですね。もうひとつの理由は、EV市場全体の期待が持てなくなっていることがあります。
また、電気自動車市場では、高い車両価格や充電インフラ不足などで、販売が伸び悩んでいることも要因の一つだという。
生成AIなどの人工知能の分野では、アップルは遅れているんですね。AIの開発、そして投資が必要になります。戦略的に車ではなくてAIの方に注力をして、今後のITビジネスの覇権を取り戻そうとしている。

 

 

 

スイスの金融大手UBSは欧米の商業用不動産が同社が直面する最大かつ新たなリスクと指摘しているが、実際にはそんなことぐらいでは済まされず、経済にとって多くの悪材料が年内に噴出することになる。

 

【参考】

UBSは、1年以内に顕在化する可能性があり、グループに大きな影響を及ぼす可能性のあるリスクを「最大かつ新たなリスク」と定義。前回の年次報告書に商業用不動産は含まれていなかった。今回はこの他にインフレや地政学も含まれている。

 

 

今後、アメリカのIT企業の業績悪化が予想されるが、特にApple、Intel、AMDは逆風にさらされている。

中国ファーウェイ、人気スマホの新機種発売間近か | ロイター (reuters.com)

中国ファーウェイ、最新スマートフォン発表-21万円超えるモデルも - Bloomberg

 

・追記 「2021年の全世界の検索市場におけるグーグルのシェアは99%だった」が、「22年初頭から23年後半にかけて3ポイント低下した」と言われている。これは生成AIの出現が影響しているらしい。これまでのIT業界はPCのOSではwindows、スマートフォンのOSではandroidとiOS、検索エンジンではgoogle、オンライン動画共有プラットフォームではyoutubeといった具合に、それぞれの分野で1~2のプラットフォームが独占状態となってきた。これは生成AIでも恐らくそうなる。microsoft・openAI連合のCopilot・ChatGPT、googleのGemini、MetaのMeta AI(Llama3)、AnthropicのClaude(amazonやgoogleが出資)、Mistral AI(microsoftと提携)といった勢力が存在感があり、特にCopilot・ChatGPTとGeminiは既に支配的とも言える地位を築いている。検索エンジンにはかつて様々なものがあったが、最終的にgoogleが支配するようになった理由は「googleだけで十分」になったからであり、以前は何か1つの検索エンジンだけでは満足のいく検索結果にならなかったために仕方なく複数使っていた。googleが登場したことでその煩わしさから解放され、検索結果の満足感からgoogleだけで足りるようになった。このことは生成AIでも同じようなことが起きる可能性がある。いずれ生成AIが完成することによって自分で検索をかけるのではなく、何でも生成AIに尋ねることでこれまでよりずっと楽に知りたかった情報が引き出せるようになるため、google検索のビジネスモデルが成り立たなくなる。短期的・中期的にはgoogleのビジネスモデルは盤石であるように思えるが、長期的に見ればもしかするとAlphabetにとって重要なサービスの1つが失われるリスクがあるのかもしれない。それはGeminiが「連合」等に敗れるようなことがなければ恐らく問題にはならないはずだが、万が一、Geminiが生成AIで支配的地位を維持できないとAlphabetはかなりの損失を出すことになる。2024/04/29

検索連動広告は消滅か 生成AI、3つの破壊 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)

オープンAIとマイクロソフトの提携巡り合併調査の是非検討=英CMA | ロイター (reuters.com)

コラム:グーグル、AI時代の最大リスクは対アップル関係か | ロイター (reuters.com)

メタ、オープンソースのAI「Llama 3」でOpenAIとグーグルに宣戦布告 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

 

 

AIブームによってMicrosoft、Meta、Alphabet、Nvidiaなどはこの半年で株価が大幅に上昇したが、Nvidia以外のAI関連銘柄はAIが業績に貢献しているわけではなく、期待で買われているだけなのだから、AIで上昇した分は帳消しになる可能性がある。

 

最近発表されたスマートフォンの出荷台数を見ると、前年同月比でSamsungが-0.7%、Appleが-9.6%だったのに対し、Xiaomiが33.8%、Transsionが84.9%、OPPOが-8.5%となっており、一部の中国メーカーが驚異的な伸びを示す一方、これまで市場シェアで上位にあったメーカーがやや低迷してきていることが分かる。

やはり、今後は中国メーカーが高級モデルから廉価モデルまで勝ち組となり、アメリカや韓国のメーカーがシェアを落としていくことが予想される。

 

 
 

中国は最先端チップを製造するための研究開発センターを建設中であり、ASML抜きで独自に開発したリソグラフィー装置を開発・製造する準備を進めている。

既にHuawei Mate60シリーズには"HiSilicon Kirin 9000S"という7nmのSoCが搭載されていて、その性能は「Google Pixel 7などに採用されるTensor G2より高いスコア」であるとのことであり、高価格帯(11万円~19万円)でありながら飛ぶように売れているらしい。

中国企業はTSMCなどに引けを取らない製造プロセスのチップを開発できる環境を整えているらしく、中長期的にはファウンドリーもOSも中国は自前で最先端且つ最高品質のものを持つことを目指している。

Huaweiはアメリカからの制裁を跳ねのけて名実ともに復活し、また世界シェアで上位に入る可能性が十分考えられる。

 

 

 

 

※ 恐らくHuawei Mate60シリーズに使われている"HiSilicon Kirin 9000S"という7nmのSoCは以下の記事にあるように、EUV露光によるものではなく、ArF液浸露光を重ねるように繰り返すことで実現したものなのだろう。そのため、HiSilicon Kirin 9000Sを搭載した端末は数がそれほど多くなく、クロック周波数も低めになっているように思える。しかし、Huaweiの端末に使われるSoCが低品質であるとは思えないため、SMICはArF液浸露光を何度も繰り返しても問題が起きないように生産技術を独自に発展させたようだ。

 

【参考】
中国のSMICが実際に7nm世代の半導体製造能力を獲得したというもので、この場合はArF液浸のクアッドパターニングで実現したと推定されます。
というのもSMICは過去にArFのダブルパターニングで14nmのチップを製造出来たのではないかと言われていました。
これはArF液浸露光による28nmを重ねるようにもう一度繰り返す事で14nmを実現したもので、それを発展させて更にもう一度重ねるとその半分の7nmを達成する事が出来るとされています。
実際、この手法で台湾TSMCは初期の7nmチップを製造していましたしSMICが導入していた当時の輸出管理に掛からかったASMLのArF液浸露光装置TWINSCAN NXT:1980Diでも良品の歩留まりはともかく、マルチパターニングの性能は有しています。
しかしこの手法では一つの層に何度も処理を繰り返す事からパターンの再現性が低くなり、そうなると電気的特性が悪化してしまうので動作を安定させるためには性能を下げざるを得なくなります。
この為、高度な重ね合わせ制御が必要になる他、「感光」させるレジストの改善や結像をシャープにする光近接効果補正などを再現できるマスクパターンの設計など各工程ごとに高度な生産技術が必要とされる割には採算性は高くありません。
更に、単純に繰り返した分の工程が増える事から一枚のウェハを製造するのにかかる各コストが増大し、また製造するのに掛かる時間が増大してしまうので全体での生産性も低下します。この為ArF液浸のクアッドパターニングで製造された製品は実用的ではなく競争力も低いとされてきました。

 

 
 

※ 日本とアメリカは妙に先端半導体工場に投資し続けているが、パンデミックによって一時的に急増したコンシューマー製品の需要は既にピークを超えていて、家電、スマートフォン、PC、ゲーム機などは品薄状態にはなっていない。半導体製造現場での従業員の出勤制限や部品供給の遅れなども最近では解消されていて、生産量は増えている。そのため、どういう理由でそこまで生産能力を高めているのかよく分からない。「AI、ビッグデータ、5G通信、電気自動車、自動運転で使用するセンサー、などで大量に必要」といった話なのであれば、違和感がある。

なぜ半導体が不足しているの?半導体不足の原因や影響、今後の見通しについて分かりやすく解説 (rs-online.com)

【半導体市場の動向】これまでの動向と2024年以降の予測を含めて解説 | ストックマーク株式会社 (stockmark.co.jp)

2024年の半導体市場の見通しは?需要や各国の動向について | ストックマーク株式会社 (stockmark.co.jp)

台湾有事でTSMCなどの半導体工場に被害が出るとか、中国軍によってシーレーンが封鎖されるといったことを想定してのことなのかもしれないが、もしかしたらアメリカ政府は既に台湾が中国に併合されることを想定しているのかもしれない。今となっては半導体は戦略物資となっているため、単にこれから予期される戦争に備えてミサイルやドローンなどに限らず「あらゆる産業で不可欠」とされる半導体を今のうちに十分に確保しようとしているのかもしれない。しかし、戦争やAIなどの新技術による半導体特需が空振りに終われば大量に生産された半導体は供給過多となり、過剰投資によってまた大打撃となるのだろう。いくら「経済安全保障上極めて重要な物資」として位置付けているにしても、そこまで大量に必要になるものなのかどうかが不明。

攻めの政策で「産業のコメ」半導体を確保する | 経済産業省 METI Journal ONLINE

また、ウクライナは半導体製造で必要になるネオン、クリプトン、キセノンなどの希ガスの主要生産国であるため、「産業のコメ」とも言われる半導体の安定供給のためにウクライナの資源と生産設備を押さえておきたいという狙いもどうやらある。その資源を有利な形で確保するために欧米側の勢力はウクライナから手を引けないという事情もこの紛争が長引いている一因なのだろう。

ウクライナ侵攻が半導体生産に影 原材料不足の懸念 - 日本経済新聞 (nikkei.com) )