一部報道では5月~6月にかけての米国株上昇は、「数千億ドルの資産を運用するヘッジファンド」が下落に賭けたが失敗し、ショートカバーを大量に入れたせいだと書かれている。(真偽不明)


最近の株高もそのヘッジファンドによるものだと書かれているが、どうも胡散臭い。
常識的に考えて、この状況と水準でそこまで大規模な損切りをするとは思えないし、新規ポジションを構築するとも思えない。
それをやるということは、これからどんどん株高になっていくことを予想していたということになるのだから、「数千億ドルの資産を運用するヘッジファンド」が余程のバカでもなければそんなことをするはずはない。
 

 

米国株だけではなく、なぜか日本株の方も5月と6月に急騰している。
TOPIXは5~6月の上昇で2057→2311(4月終値→6月終値)まで上昇し、2か月で12.3%高となっている。

米国株はS&Pが4169→4450(4月終値→6月終値)まで上昇し、2か月で6.7%高となっている。

ダウは34098→34407(4月終値→6月終値)まで上昇し、2か月で0.9%高となっている。
つまり、日本株の方が米国株よりもなぜかそのショートカバーが大量に入ったとされる時期に急騰している。

(昔から日本株は米国株とある程度の連動性はあったが、米国株のショートカバーなのに日本株の方が上昇率が高いというのが不自然)

 

・S&P500

 

・ダウ

 

・TOPIX

 

 

日銀は2021年3月23日に「ETFの買入れの運営について」でETFの銘柄別の買入額を見直しをし、それ以降はTOPIXに連動するETFのみを購入している。

 

https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2021/rel210323d.pdf

 

 

日本株の5~6月における急騰の原因も、ヘッジファンドのショートカバーによるものだったのだとすれば、本当にそんな有難いことをやってくれているのであれば、日銀はそのタイミングで大量保有しているETFの利益確定をし、大きく下落したタイミングで再び買い入れをすればいいはずだが、それを処分したという報道は全く見ない。(個人的には、本当に日銀による買いで上昇したのでなければ利益確定していればよかったんじゃないかと思う)

日本株はTOPIXで言えば5~6月だけではなく7~9月にかけても今のところ上昇が続いており、7月と8月を見ると下がったら誰かが買うという動きになっている。(下髭がついて陽線になっている)

以前から「バフェットが買っている」などと言われていたり、最近でも「巨大ヘッジファンドのショートカバー」とか、「巨大ヘッジファンドが先物買いポジションをパンデミック前以来の最高レベルに拡大」とか、「海外のツーリスト投資家による買い」などと言われているが、個人的にはどうにも噓くさい感覚がある。

 

しかし、「指数連動型上場投資信託受益権(ETF)および不動産投資法人投資口(J-REIT)の買入結果ならびにETFの貸付結果」を見ると、実際、5月と6月に日銀はETFの買い入れをしていない。(じゃあ誰が買ったんだということになるが、「海外投資家だ」と言われても釈然としない。「海外投資家」が犠牲になり、有難くも日本株を爆上げしてくださったのだろうか。)
指数連動型上場投資信託受益権(ETF)および不動産投資法人投資口(J-REIT)の買入結果ならびにETFの貸付結果

 

 

日銀の植田総裁は「大量に買ったものを今後どうしていくかは大問題だ」と発言する一方で、ETFを持ち続けることも「1つの選択肢だと考えている」とも語っており、出口が近づいてきたときに「(ETFを)どういう方法で処分してくのか、しないのかはきちんと政策委員会で議論した上で公表していきたい」としていることから、今のところ、含み益が16兆円以上あるというETFを処分するのか、それとも約1兆円の分配金を収益として確保する方を選ぶのか、どちらになるのかが分からない。

(しかし、表に出ている話だけでは本当のことは分からないため、日銀や専門家の話を見ていても釈然としない)

 

【参考】

日銀の保有ETFは3月末時点で37兆1160億円、時価は53兆1517億円で16兆0356億円の評価益がある。2023年3月期決算では保有ETFからの分配金が1兆1044億円に上った。

緩和の出口局面でETFの保有続けることも選択肢=植田日銀総裁 | Reuters

 

【参考】

「日銀は今や国内上場株式の時価総額の約7%を握る、日本企業の最大の株主なのだ。」

2023年3月末時点で「日銀のETF保有総額53兆円に」

 

 

日銀には含み益があるため、ETF保有総額=ETF購入資金ではなく、保有総額よりも小さい金額を使ったことになるが、日銀は既に当座預金に入っている金額の10%近い資金をETFの購入に当てたことになるのだろう。(2023年3月末で簿価は37兆円)
法的にいくらまで使っていいのかは分からないが、変動の大きい株式(ETF)取引で当座預金のカネを使っているのだとしたらもっと説明が必要ではないかと思う。(実際のところ、何のカネを使って購入しているのかは不明だが、恐らく当座預金なのだろう。)

 

(追記:日銀がETFの買い入れで使っている資金は当座預金ではなく、政府保証付きでの銀行からの借り入れや、銀行等保有株式取得機構債の発行で調達しているらしい。しかしそれが何なのかはよく分からない。)

 

日銀が国債を購入すると日銀のバランスシートでは資産が増加するのと同時に負債となる当座預金も増加し、バランスシートが拡大してきたと言われている。
日銀ETF買い入れ政策は持続可能か?

 

つまり、日銀がETFの購入資金として当座預金を使っているのであれば、主に国債を購入する際に新規に発行した通貨(円)を原資にし、準備預金を使っているのとは違うのかもしれない。

しかし日銀当座預金残高のグラフを見ると550兆円付近で天井を打っており、意外と増えてはいない。

日銀当座預金残高は元々400兆円ぐらいだったが、内閣府によれば「感染症対策の金融緩和により市中資金量は増加し、その背景には国債の増加も」とあり、マネタリーベースとマネーストックがその頃から急増し、国債を大量発行したことで当座預金残高も大きく増えたらしい。

 

準備預金額推移 [単位:億円]

統計別検索 準備預金額 (boj.or.jp)

 

 

日銀当座預金残高推移 [単位:億円]

統計別検索 日銀当座預金残高(boj.or.jp) 日銀当預残高/合計(c) (C+E)/平均残高

 

 

マネタリーベース、マネーストック、日銀バランスシートの推移

第1-2-9図 マネタリーベース・マネーストックの推移 - 内閣府 (cao.go.jp)

 

 

【参考】

金融不安などによって銀行など民間金融機関の資金繰りが悪化した場合、日銀当座預金に預けてある準備預金の一部を取り崩して、民間金融機関の支払いが滞るのを回避するために設けられているのが準備預金制度です。また、準備預金はあらかじめ決められた一定率によって、各金融機関が日銀当座預金に準備預金を積み立てていますが、この率を引き上げると、金融機関から日銀に資金が吸い上げられるため、金融引き締めと同じ効果をもたらします。逆に預金準備率が引き下げられると、金融緩和の効果が期待できます。

準備預金 (じゅんびよきん) | 証券用語集 | 乙女のお財布 (tokaitokyo.co.jp)

 

 


日銀のETF購入は信託銀行に委託しており、2021年以降は年間1兆円に満たない金額を買い入れているらしい。(どこの信託銀行に委託しているのかは不明)
 

 

 

日銀は信託銀行と資産運用会社に信託報酬と呼ばれる手数料を支払っており、信託銀行はできるだけ好成績を収めようとし、資産運用会社はできるだけ大量に買わせようとするのだろう。

(しかしこの手数料自体は大した金額ではなく、買い入れ額が2021年以降急激に減っているのに手数料は減っていないことが何なのかよく分からない。)


 

 

日銀は当座預金の付利による赤字が発生していくことでETFの運用益は重要だと言われているが、仮に政策金利が1%上昇すると約5兆円の利息支払いが生じるらしい。

国債の利息収入が約6000億円、外国為替収益が約1.5兆円、ETF分配金が約1兆円あり、ETFを大量に保有し続けるメリットがあるが、時価が簿価を下回ると損失引当金を積むことになっているらしい。

日銀の損益分岐点は日経平均株価ベースで19,891円と言われており、普通に考えれば日経2万割れというのは可能性が低いのかもしれない。

つまり、日銀が保有するETFが簿価を下回らないのであれば、日銀はETFをずっと保有し続ける可能性が高いようだ。

また、日銀は去年の時点で国債の保有残高が561.4兆円あり、8749億円の含み損があるようだが、償却原価法を採用しているために国債に関しては評価損が生じないらしい。

問題なのは当座預金の付利の方であり、今後、金利が上昇していけば日銀としては何かしら収益を確保したいということになってくる。

どうやらETFはその収益の柱の一つとして考えられているらしい。

日銀ETF買い入れ政策は持続可能か?

 

JBPressではアメリカのさらなる金利上昇によって巨大ヘッジファンドの投げ売りが出て株価が暴落すると書かれているが、個人的には本当に暴落するのであれば別の理由なのではないかと思う。

日銀や信託銀行や巨大ヘッジファンドやバフェットやブラックロックなどが実際に何をしているのかは、はっきりしたことは分からないが、恐らくまた何かしら大惨事になり、それがきっかけで暴落するのだろう。

そしてそれで儲かるのはアメリカの金融機関であり、日銀やGPIFなどではないように思える。(日本から海外にカネが移動するように仕向ける動きがありそう)

メディアはしきりに「海外投資家が買ってる」と喧伝するが、この状況と株価水準で「そんなはずないだろ」と思ってしまう

(つまり、ペテンくさい。マッチポンプくさい。一言で言えば、日本に株を吊り上げさせて、「海外投資家」が売り玉を仕込んでいるのではないかという思いに駆られる。そしてまた何かやらかして大暴落させ、売りで入っていた「海外投資家」が大儲けするというパターン。)

 

 


こういったことは誰かが政府や日銀を監視し、国民に報告しているというわけでもないため、モラルハザードが起きやすく、国民が気づいた時には大変なことになっていた、なんていうことも今後あるのかもしれない。

 

【参考】

1.プリンシパル=エージェント理論

・外回りの営業マン(エージェント)が、上司(プリンシパル)の目を盗んで、勤務時間中に仕事を怠る場合。

・医師または薬剤師が不必要に多くの薬を患者に与え、利益を増やそうとする場合。

会社の株主(プリンシパル)が経営者(エージェント)を、業績に連動する報酬で任用した場合、経営者は会社に大きな利益をもたらせば高額の報酬を得るが、多額の損失を会社に与えても(あからさまな過失・故意が立証されない限りは)損失を負担する義務はなく、最悪でも解任されるのみである。このとき経営者の収入期待値を最大化する経営判断は、会社にとって最も合理的な判断よりも、よりハイリスク・ハイリターンなものとなる。しかし、株主は経営判断のための十分な情報をもたないため経営者の判断に任せるほかない。

 

2.保険におけるモラル・ハザード

・自動車保険において、保険によって交通事故の損害が補償されることにより、「軽度の事故なら保険金が支払われる」という考えが醸成され、加入者の注意義務が散漫になり、かえって事故の発生確率が高まる場合。

・金融において、金融機関の倒産に伴う連鎖倒産を防ぐため、あるいは預金保護のために行う政府の資金注入を予見し、金融機関の経営者、株主や預金者らが、経営や資産運用等における自己規律を失う場合。この実例がコスモ信用組合である。

・医療保険において、診察料の半分以上が保険で支払われるために、加入者が健康維持の注意を怠って、かえって病気にかかりやすくなる場合。

 

3.倫理の欠如 (「バレなければよい」という考え)

保険に加入して自らが火災を起こす保険金詐欺

・給食費を払わない親の増加

 

モラル・ハザード - Wikipedia