中央銀行に景気回復や経済の牽引役などを引き受けさせるという態度は、本来の中央銀行の役割である物価の安定から逸脱させるだけではなく、特定の業種だけを儲けさせ、それ以外の人々を犠牲にすることに繋がるため、貧富の格差を拡大させる不公平政策と言わざるを得ない。

最悪の場合、出口戦略にすら責任を持たなくなり、政府は国債をこれまで以上に大量に発行し、中央銀行にそのほとんどを引き受けさせ、仕舞いには自国通貨の新規発行を大規模に行うようになることでインフレが加速し、多くの者を極度の貧困状態へと突き落とす。結局は増税し続けることにもなり、経済全体をさらに失速させることにもなる。

貧乏人にとって最も困るのは物価の上昇であり、物が安く買えるうちはまだなんとか堪えていられるが、実際にインフレになってくると生活状況が悪化していき、大人しく耐え忍ぶなどということが不可能になってくる。

それは単に勝ち組と負け組の差がより深刻になるというだけでなく、生活困窮者が溢れかえることによって社会秩序が崩壊し、いくらカネを持っていたとしても誰も幸福でも安全でもなくなるのだろう。

 

 

 

 

【参考】
中央銀行が、いったん国債の引受などにより政府への直接の資金供与を始めてしまうと、その国の政府の財政規律を失わせ、通貨の増発に歯止めが効かなくなり、将来において悪性のインフレを招く恐れが高まる。これは過去の歴史の教訓によるものである。
中央銀行による国債引受は麻薬に例えられる。いったん踏み入れてしまうと常用することになり、元には戻れず最後に身を滅ぼすことになる。先進主要国が中央銀行による政府への信用供与を厳しく制限しているのは、こうした考え方に基づく。
中央銀行による国債引受が禁じられているのは日本だけではない。米国では連邦準備法により連邦準備銀行は国債を市場から購入する(引受は行わない)ことが定められている。また、1951年のFRBと財務省との間での合意(いわゆるアコード)により、連邦準備銀行は国債の「市中消化を助けるため」の国債買いオペは行わないことになっている。
欧州では1993年に発効した「マーストリヒト条約」およびこれに基づく「欧州中央銀行法」により、当該国が中央銀行による対政府与信を禁止する規定を置くことが、単一通貨制度と欧州中央銀行への加盟条件の一つとなっている。ドイツやフランスなどユーロ加盟国もマーストリヒト条約により、中央銀行による国債の直接引受を行うことは禁止されている。
日銀が金融政策の手段として民間から国債を買い入れて資金を供給するのであれば、それは金融緩和手段のひとつとなる。ところが財政の穴埋めを目的としてしまうと、日銀がまさに政府の打ち出の小槌となってしまう。
戦前、高橋是清蔵相による高橋財政と呼ばれた政策で、日銀による国債引受を行った際には、そのリスクも当然把握していたと思われる。しかし、いったん甘い汁を吸ってしまった政府、というよりも特に軍事費の拡大を望んでいた軍部は、この打ち出の小槌を離そうとしなかった。それにより、二・二六事件で高橋是清蔵相が暗殺され、その後の日本のハイパーインフレーションの原因となった。このため、戦後に財政法で日銀による国債引受は禁じられたのである。