2026年10月のテーマ

「不安と戦うための本」

 

第二回は、

「生贄探し 暴走する脳」

中野信子、ヤマザキマリ 著、

講談社+α(プラスアルファ)新書 2021年発行

 

 

です。

 

前回おすすめした「不安の哲学」と同様に、この本もコロナウィルスのパンデミックを契機に書かれた本です。

 

 

タイトルに"不安"という言葉は使われていませんが、内容は"不安"を扱っています。

コロナウィルスのパンデミックでそれまでの日常が崩れ人々が不安に陥った結果、社会では様々な混乱や対立が起こりました。"マスクをする・しない"、"ワクチンを打つ・打たない"、"外出をする・しない"…人によって抱えている事情が違い、価値観も違い、どこまでなら他人の迷惑にならずに自分の行動が許されるラインなのかも定かではなく、"各々の判断基準の差"が深刻な分断を引き起こす場合もありました。

 

そういった社会の在り様から、

 

・不安が集団に広がるとパニックのもとになる

・集団の安定が脅かされると、人は生贄を求める(生贄とは不安を転嫁するための存在)

・生贄を追放したり罰したりすることで集団の安定を取り戻そうとする

 

という人間の性を脳科学の観点(脳科学者・中野信子さん)と文化的・歴史的視点(ヤマザキマリさん)からひもといていくという本です。

要するに、"人間は不安を感じると周囲を攻撃してしまう"という自身のこととしては受け入れがたい事実を、

 

・脳の仕組みがそうさせている

・集団を維持するためという"正義"が攻撃の理由になる

・歴史的な事例がいくつもある(魔女狩りとか)

・"失敗が許されない時代"という背景

 

などの説明をすることで、読者が徐々に受け入れられるようになっています。

 

"人間は不安を感じると周囲を攻撃してしまう"→"自分も不安を感じると周囲を攻撃してしまう"可能性がある

 

と気づいて受け入れるために様々な角度から「人はなぜ生贄を求めるのか」という話をされているのだと思います。

 

構成としては、

 

・第一章「なぜ人は他人の目が怖いのか 中野信子」

・第二章~四章 → お二人の対談

・第五章「想像してみてほしい ヤマザキマリ」

 

となっていて、半分以上は対談形式になっています。

 

私は漫画「テルマエロマエ」の作者であるヤマザキマリさんが結構好きです。テレビ番組にも時々出演されているのをお見掛けしますが、芯の通った明快な話し方をされるので、漫画だけでなく作者自身にも興味をひかれるようになりました。

ご本人の声やしゃべり方がインプットされているおかげで、この本の対談部分は割と楽に読めましたし、国際結婚をされて海外で長く暮らしておられる方だからこそ、コロナ禍の日本国内の様子を外側からの目線で見ることができた方だったんだなあと思うと、読んでいて説得力も感じました。

 

この本は「"不安"をどのように退けるか」ということが書いてある本ではありません。「"不安"はパニックを誘発し、人を暴走させうる」ということに気付き、自らも例外ではないと受け入れて己の"不安"と向き合うように促してくれている本だと私は思います。(人によって解釈は違うと思います。)

 

タイトルをみるとちょっとぎょっとする本ですが、中身はぎょっとするような内容ではなく身近なあるあるを分析していく感じの話が多いです。おすすめいたします。(*^▽^*)