2025年9月のテーマ
「警察官が主人公の小説」
第三回は、
「鬼平犯科帳15 特別長編 雲竜剣」
池波正太郎 作、
文春文庫、 1985年発行
です。
火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)長官、長谷川平蔵。
江戸時代に実在した人物であり、池波正太郎さんによって江戸のヒーローとして小説で描かれています。
(大河ドラマの「べらぼう」でも登場してましたね。私が観たのは初回で吉原に遊びに来た本所の銕(てつ)としての平蔵くらいですけども…。)
火付盗賊改方は江戸時代の警察組織の一つで、奉行所とは別の機動隊。凶悪犯罪を取り締まる部隊です。
というわけで、現代ミステリー以外からも今回のテーマの作品として取り上げさせてもらいます。
ちなみに、私が持っているのは上に貼ったPickの一番下の版のものです。
私が買い集めていたころ、上の二つの方が新装版で、下のデザインのものが旧版でした。
古本屋さんで一気買いしたため、私が持っている鬼平犯科帳は旧版と新装版が入り混じった状態です。
シリーズの最後の方は古本屋さんにはおいていなくて本屋さんで買ったので新装版が多いです。
今は決定版とかもあるので、貼ったもの以外の装丁のものをお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
横に逸れましたがあらすじを…。
火付盗賊改方の同心が連続して何者かに殺害された。腕利きの同心を斬った相手の技から、長谷川平蔵は半年前に己を襲ってきた相手の剣を思い出す。腕に覚えのある平蔵が身震いする凄い剣。火付盗賊改方の同心を狙って襲撃するのは、明らかに火付盗賊改方への挑戦であり、彼らを邪魔に思い弱体化を目論む悪党一味の仕業に他ならない。平蔵率いる火付盗賊改方は総力を挙げて凶刃の使い手を探索する。
以前に、鬼平犯科帳の映画のことを書いた記事で、鬼平の魅力についてもいろいろ書きました。
主にドラマや映画化された鬼平のことを書いたので、小説と全く同じというわけではありませんが、イメージのギャップはあまりないと思っていただいていいです。
江戸の町に暗躍する盗賊たちはただ盗むだけでなく、目撃者を残さないために残虐に人を殺してしまう者たちがあまりにも増えてしまった。そうした凶悪犯罪を取り締まる目的で置かれた火付盗賊改方の長官・長谷川平蔵は、凶悪犯罪者を許さず徹底的に捕まえるし、逃がすくらいなら切って捨てる。とても厳しく恐ろしい人。
一方で若いころに悪さをしていていろんな人とかかわってきた経験から、市井の弱い人たちには優しく、ちょっと道を踏み外した若者には更生の機会を与えたりする人情派でもあります。
彼の人柄によって火付盗賊改方は結束固く、一丸となって悪に立ち向かいます。
今回のお話は"特別長編"で、いつもは追われる立場の盗賊が、火付盗賊改方に戦いを仕掛けてきたというのがメインストーリー。恐ろしい剣の使い手が長谷川平蔵にすら襲い掛かるわけで、緊張感たっぷりの展開になっています。
しかしながら、紙数の余裕からか日常の描写もたっぷり入っていて、部下の同心や密偵、息子とのやり取りなど読んでいて楽しい部分も盛りだくさんです。
証拠を集めたり情報を分析して犯人を追い詰めたりする現代の警察組織と違って、密偵や同心たちが歩き回って見たり聞いたりして集めた情報から的を絞って盗賊団のアジトを突き止めるわけで、捜索には忍耐と細心の注意力が必要です。
このお話では、敵方も自分たちのことを調べて狙ってきているため、相手に悟られないようにもしなくてはいけません。
そのうえ、ひとたび捕り物となれば刀を抜いての斬り合いになってしまいます。
何が言いたいかというと、現代の警察ものの小説とは捜査の仕方をはじめ組織としてのしがらみやら何やらまで全然違うっていうことです。世の中の仕組みや市民の暮らしぶりまでもが今とは違う。
時代小説なんで当然ですけど、それでもこれは江戸時代の警察の小説です。
反面、市井の人々が安心して暮らせるように、凶悪犯罪を取り締まるという点では現代だろうが昔だろうが同じです。
前回おすすめした「刑事犬養隼人 切り裂きジャックの告白」では、現代の警察組織の一人として捜査に携わる刑事が主人公でした。
今回は、江戸の警察組織の一部門の長官が主人公ですが、組織を挙げて悪と戦うという点では同じだと思います。
さっきも書いたように、時代は違うし組織としての在り方も全然違いますが、"どちらも警察"という視点で比べてみると面白いと思います。
私の場合、"悪"って何なんだろうとか、捜査のために団結するためには何が必要なんだろうとか、思い浮かぶ問いの答えにはその時代その場所での価値観にも左右されるはずなのに、どちらの小説を読んだ時にも自分が持った気持ちや感想、こうあってほしいという願いにはあまり差がなかったように感じていて、不思議な気持ちになりました。
作品の見どころとしては、"盗賊一味 vs. 火付盗賊改方"の攻防に、恐るべき暗殺剣・雲竜剣の使い手との対決ということになりますが、ただエンターテインメントとして楽しめるだけではなくて、平蔵の弱きを助け悪を挫く姿勢になんだか自分まで市井の町人として守られれているような安堵感を得られたりして…私だけですかね???
というわけで、現代の警察ものとの違いを感じることもでき、長編なのでいつもよりたっぷり鬼平ワールドを楽しめちゃう「鬼平犯科帳15 特別長編 雲竜剣」、おすすめいたします。(*^▽^*)
漫画の15巻は「雲竜剣」とは別のお話だと思いますけど(小説とは進み方や区切りが違うと思う)、漫画の鬼平もビジュアルで見せたいので貼っときます。