2025年8月のテーマ

「夏×ミステリー」

 

第二回は、

「夏のレプリカ」

森博嗣 作、

講談社文庫、 2000年発行

 

 

 

 

です。

 

察しのいい方は前回の記事の時点でお気づきだったと思いますが、今回はS&Mシリーズ7作目「夏のレプリカ」です。

前回の記事で書いた「幻惑の死と使途」と対になっている作品で、同時期に起きた事件をそれぞれ別の本に物語としてまとめてあるという設定…作者の遊び心が感じられます。というわけで、この作品も"夏が舞台のミステリー"

 

 

「幻惑の死と使途」は奇数章のみ、「夏のレプリカ」は偶数章のみの構成になっているのはそのためです。

片方だけ読んでも全く問題ないですが、一方で登場した人物がその後全く出てこなくて何だったんだろう…みたいなことがあるので、読んでいて細かいことが気になるタイプの方は「?」となるかもしれません。

二つの本を章の順に沿って交互に読み進めるということもできるので、一度読んだことある方はそういう読み方をしてみてもいいかもしれませんね。ただ、初読の方には交互読みはおすすめしません。この後書きますが、「夏のレプリカ」はミステリーとしてはちょっと分かりにくいお話なので。

 

それと、今回も私が持っているのは最初に貼ったPickの版で、出版年も最初の文庫本の年になっています。

単行本も、新しい装丁の文庫本も、やっぱりかっこいいな…。

 

前置きが長くなりましたが、あらすじです。

東京の大学に通っている簑沢杜萌は、夏休みに帰省した実家で仮面をつけた人間に誘拐されてしまいます。家族と共に別荘に閉じ込められますが事なきを得るも、自宅にいたはずの兄・素生(もとき)が行方不明に…。

杜萌が兄の行方を捜す一方で、友達の西之園萌絵もこの事件に関心を持ち調べ始めます。

長い間会っていなかった兄を捜す中で、杜萌には過去の出来事が次々と思い出されて…。

 

前回の「幻惑の死と使途」はイリュージョンで読者を翻弄するミステリーになっていましたが、「夏のレプリカ」は杜萌の心の中や記憶を探る描写が多く、ちょっと幻想的な印象も受ける作品になっています。ミステリーなんだけど、「幻惑の死と使途」みたいにトリックを見破るのがキモっていう直球ミステリーではないです。

 

誘拐事件に行方不明、殺人事件も絡んでくるので事件としては複雑で、読者としては"どうやって"よりは"なぜ"のほうが気になってしまうストーリーになっています。

杜萌が封印していた記憶の断片が物語のピースを埋めていく感があり、読んでいる側としては杜萌のモヤモヤが伝染するので、論理的にすっきりさせていって最後に全てがぴったりとはまるパズル的なミステリーが好みの方には相性が良くないかもしれません。

 

「幻惑の死と使途」とセットになっている構成な時点で、普通のミステリー小説とはちょっと違うなというのが明白なので、考察や分析を楽しみたい方は二倍楽しめると思います。

 

また、杜萌視点での語りが多いですが、萌絵もちゃんと主人公の一人です。

杜萌は萌絵と並ぶ才能の持ち主なので、この組み合わせは、萌絵と女友達との絡みとしてこのシリーズでは珍しいシーンになっていると思います。

 

「幻惑の死と使途」と合わせて読んでもいいし、単独で読んでもいい。…でも個人的には合わせて読みたいかな。

二つの作品はカラーがだいぶ違うので、好き嫌いは出ると思うんですけど、森博嗣作品にはまってしまうとどっちも読みたくなっちゃうのよね。

というわけでおすすめいたします。(*^▽^*)