2025年3月のテーマ
「するっと読めちゃう!エッセイ」
第二回は、
「増補版 九十歳。何がめでたい」
佐藤愛子 作、
小学館文庫 2024年発行
です。
2016年に小学館から単行本として出版された「九十歳。何がめでたい」に、未収録のエッセイやインタビュー、対談を加えた増補版です。
私が読んだのは、アフィリエイトで貼ってある上の方、カバーが映画化された際のコラボデザインのものになります。
ノーマルデザインの方もかわいらしくて好きです。
作家、佐藤愛子さんが断筆宣言したのちに、九十歳を過ぎて再び筆をとられた作品で、日々のちょっとした出来事を描いたエッセイ集です。
2016年に単行本がでた時からこの本は人気があって、テレビで取り上げられているのも何度も観たことがあるので、知っている作品ではあったんですが、これまで読んだことはありませんでした。
映画の宣伝を観て、そのうち本を読んで映画も観てみたいかなとぼんやり思っていたとこでしたが、「エッセイ」をテーマにすると決めてから本屋で目に留まって読んだところ、当初書く予定だった本を押しのけて書きたい本に浮上してしまった作品です。
日々のちょっとした出来事と言っても、九十年以上の経験の蓄積がある作者が書くと、一味違います。
何しろ駆け抜けてきた時代が長いので、技術やサービスの変わりようについて、"前はこうだった"が"今はこうらしい"という実体験のお話がたくさん出てきます。
中年以上の年齢層の人は特に共感する部分が多いと思うのですが、作者はそういった変化に不自由を感じた時、不自由に感じるのは自らの年齢からくる体の機能の衰えが原因だと分析することもあれば、これは本当に便利になったと言えるか?昔の方がシンプルで便利だったのでは?と首をかしげることもあり、受け入れるしかない変化だけれどもそれに対する自分の意見は断固として持っている姿勢がうかがえます。
前者の一例として印象に残っているのは、歩いているときに後ろから自転車が来ても気づかないで危ない目にあったことについて、加齢による聴力の衰えが原因としつつも、自転車の性能が良くなり、地面も舗装されて、昔みたいに走っている自転車がギイギイ音を立てなくなったことや、自転車に乗っている人が、歩行者に存在を知らせるためにチリンチリンとベルを鳴らすことをしなくなっているといった指摘がされていて、なるほどなあと思いました。
後者の一例として印象に残っているのは、家電製品の不調で購入した電気屋さんに連絡したら、メーカーに連絡して修理の人をよこすと言われ、来た人はテレビのリモコンをちょこちょこっといじって直してくれたけども出張費として数千円かかった、という話。
昔なら、なじみの電気屋さんに連絡すればすぐに来てくれたし、電話のその場で「ちょっとリモコンいじっちゃったんじゃないですか?ここ押してみてくださいよ。」で直ってしまうこともあって、お金も発生しなかった。
世の中は発展してサービスも良くなっているというが、時間もお金もかかるようになっているのに本当に便利になった、良くなったと言えるのか?…と言われると、それはそうだよねと頷きたくなります。
作者の身近に起こったエピソードに対して、大体の場合、作者は辛辣です。
よく怒ったり文句を言ったりしています。
でもそれが読んでいて逆に気持ちいい。
作者のパワーが伝わってくる気がするのです。
私は実は佐藤愛子さんの作品を読んだことがないのですが、このエッセイを読んだだけでその人となりに魅力を感じました。
先程、中年以上の世代の方には共感する部分が~なんて書きましたが、若い方にも読んでもらいたい作品です。
老害なんて言葉があるように、高齢者のパワーも迷惑な方向に暴走してしまっては問題でしょうけれど、年を取って元気がないという人が増えるより、まだまだ元気いっぱいのお年寄りがたくさんいる方が、素敵な社会じゃないでしょうか。
もちろん元気があるというのはお年寄りに限ったことではなくて、全ての世代においてであってほしいです。
そのためにも、元気が伝わってくる作品は、全ての世代の方に読んでほしい。おすすめいたします。(*^▽^*)