2025年3月のテーマ

「するっと読めちゃう!エッセイ」

 

第一回は、

「ポンコツ一家」

にしおかすみこ 作、

講談社 2023年発行

 

 

です。

 

お笑い芸人のにしおかすみこさんが書かれたエッセイの本です。

2024年に続編の「ポンコツ一家2年目」も出版されましたし、一冊目のこの本もベストセラー。

ご本人も著書もメディアで紹介されることが今現在もあるので(実は私この記事を書いている日にテレビで作者を拝見したばかりです。)、ご存じの方、もう読んだよという方も多いのではないかと思います。

 

内容としては、2020年のコロナ禍に久しぶりに実家を訪ねたところ、家の様子に違和感を覚え、母の様子がおかしいことに気づいた作者が実家に戻って家族と暮らしていく中で巻き起こる日常の事件を記したものになります。

本の帯冒頭にある家族紹介で、

 

母、80歳、認知症。

姉、47歳、ダウン症。

父、81歳、酔っぱらい。

私は元SMの一発屋の女芸人。45歳。独身、行き遅れ。

全員ポンコツである。

 

と書いてあります。

"ポンコツ"という言葉を人を形容する際に使うのはふさわしくないと考える方もいらっしゃるかと思いますが、この本の内容を読んでみれば、この言葉が"普通じゃない"というような人間を格付けするような意味合いで使われているのではないということが感じられると思います。

 

機械がうまく動いてくれない時に、「このポンコツめ!」という場合があると思うのですが、本来、"正常に動いてくれない"という意味で使われたのであろうこの言葉を、"自分が思った通りに動いてくれない"という意味で使う人もいます。

機械のことを隅々までわかって使っている人はそんなに多くないですし、正常な動作としてアラームが出たり途中で緊急停止したとしても、使う側からすれば"うまく動いてくれない"ということになります。

 

この本のタイトルにある"ポンコツ"は、先ほどの例えでいえば"機械が自分の思った通りに動いてくれなかったとき"に近いです。

つまり、"うまくかみ合わない"とか、"物事が予想したとおりに進まない"とか、そういうことで労力がかかって大変だよ~という意味合いをぎゅっと閉じ込めて簡潔に伝えているタイトルになっていると思います。

 

後、私としてはこの本のことをそれだけで語りたくはないのですが、敢えて一言でいうなら、「介護エッセイ」になります。

認知症のお母さんやダウン症のお姉さんを病院に連れていき、診察を受けさせるのだけで一苦労だったり、家での食事作りをはじめとする家事もお母さんだけに任せてはおけないし、酔っぱらったお父さんと家族との喧嘩だったり、ちょうどコロナ禍で芸能関係者は仕事が激減していた時期でもあり、経済的な不安まで…。

にしおかさんがすべて一人でしょい込まなくてはいけないような、たくさんの現実的な問題が垣間見えるのです。

 

ただ、エピソードの一つ一つが、多少自虐的な感じもあるものの、くすっと笑ってしまうユーモアにあふれていて、決して介護の大変さを綴っただけのエッセイではないのです。

頓珍漢な会話のやり取りの中にも、親が娘を想う愛情が伝わってきますし、お姉さんがにしおかさんのことをすごく好きなこと、にしおかさんもお姉さんをすごく好きなことも感じられて、読んでいて涙が出そうになることもありました。

 

介護の大変さを面白おかしく茶化して気持ちを昇華する…というのとも違っていて、大変なんだけど、苦しい時も悲しい時もあるんだけど、この出来事を冷静に外から見てみれば滑稽なんじゃない?…と俯瞰的な目線でみて書いているという印象を受けます。

この本にはたくさんの介護のリアルが詰まっていて、家族の愛も喧嘩もつまっていて、にしおかさん自身の複雑な気持ちも吐露されていて、読みやすくて楽しい本なんだけど、楽しいだけで終わって「ハイ、次の本に行こうか」とは言えないような本です。

ちょっと立ち止まって、もう一回読み返してみたくなるようなそんな本。

まだ読んだことない方、ぜひおすすめいたします。(*^▽^*)