2024年12月のテーマ

「クリスマスにはクリスティーを!」

 

第三回は、

「七つの時計」

アガサ・クリスティー 作、深町眞理子 訳、

早川クリスティー文庫 2004年発行

 

 

 

です。

 

前回の記事でおすすめした、「チムニーズ館の秘密」の四年後の物語です。

ちなみに、「チムニーズ館の秘密」発表からちょうど四年後の1929年に発表されています。

四年という月日は、物語の中での時間の経過というだけでなく、現実世界の時間の経過とも一致しているわけです。

そういう意味では続編と言えなくもないですが、このお話の主人公はバンドル(レディ・アイリーン)なので、「チムニーズ館の秘密」とは主人公が違っており、シリーズものとは言い難い…。関連作品といったところでしょうか。

 

 

 

さて、前置きが長くなりましたが、あらすじを。

ロンドン郊外のチムニーズ館で、滞在していた若者が睡眠中に死亡してしまいます。部屋の痕跡から彼が睡眠薬を飲んだらしいことが分かりますが、本人は睡眠薬など必要としないお寝坊な人物。さらに、遺体のあった部屋には七つの目覚まし時計がおいてあり、誰かが動かした形跡が…。変死した若者の残した手紙にあった<セブン・ダイヤルズ・クラブ>という言葉がさしているものは何なのか、彼はなぜ死んでしまったのか、好奇心旺盛で行動力に富んだ女性・バンドルがその謎に挑みます。

 

このお話も、「チムニーズ館の秘密」と同様に、変死事件、情報を狙う泥棒(スパイと言ってもいいかも)、<セブン・ダイヤルズ・クラブ>の謎、登場人物たちのロマンスと盛りだくさんで、ネタバレしていない読者にとっては、ストーリーが進行する中でこれらの要素のどれかが停滞したとしても、その他の部分で十分退屈しないと言いますか、中だるみしてる暇のない作品だと思います。

変死が起きた場所が"チムニーズ館"ですが、その時、館はイギリスの大富豪に貸し出されていて、持ち主であるケイタラム卿やバンドルは外国に行っていました。

変死事件の直後に館は返却されますが、本来事件とは無関係だったバンドルがどのようにして事件の解明にのめりこんでいくのかというところが不自然に感じられないので、改めてクリスティーの描き方の巧みさを感じます。

 

あと、私が初めて読んだときは、結末に衝撃でした。

ちなみに今回再読いたしまして、物語の登場人物だとか、事件の内容だとかはすっかり忘れてしまっていたので、十分楽しめたのですが、物語の起点となった、遺体のそばにあった七つの時計の場面と、衝撃的な結末については割と鮮明に記憶に残っていたので、今回の読書では読んでいく中で二つの場面をつないでいくという感じでした。

 

スパイ物でもあるし、ミステリーでもあるんですけど、この作品についてはバンドルというキャラクターの持つ性格のせいか、"冒険もの"という印象が強いです。

「チムニーズ館の秘密」と共に読んでいただきたい作品です。おすすめいたします。(*^▽^*)