2024年12月のテーマ

「クリスマスにはクリスティーを!」

 

第二回は、

「チムニーズ館の秘密」

アガサ・クリスティー 作、高橋豊 訳、

早川クリスティー文庫 2004年発行

 

 

 

です。

 

まずはあらすじを。

バルカン諸国の一つとされる架空の国、ヘルツォスロヴァキアは革命で国王が殺された後、政治が混乱。王政復古の気運が高まっています。その国の石油利権をめぐる交渉がロンドン郊外のチムニーズ館にて秘密裏に行われようとしていました。

緊張感漂う館で、秘宝を狙う泥棒まで暗躍するなか、殺人事件が起こります。

アンソニーは友達に頼まれてある原稿を期日までに出版社に届けることになりますが、原稿をきっかけにこの国際的な争いに巻き込まれていきます。

 

この作品は、前回の記事で書いた「ビッグ4」の少し前、1925年発表の作品で、シリーズ物ではない、いわゆる、ノン・シリーズの作品になります。ジャンルとしては、本の裏表紙によると冒険ミステリーとされていますが、スパイスリラーともいえますし、ちょっと盛りだくさんすぎて分類しにくい内容になっています。

スパイスリラーと言えると判断したのは、国際的な陰謀のお話であることと、クリスティーのスパイ物に何度か登場するバトル警視が登場すること、同じくスパイ物の作品「七つの時計」にも登場するケイタラム卿レディ・アイリーン(通称:バンドル)が主要な役どころで出ているところからです。

クリスティーにとっては同じジャンルの話ということになるのかな、と。

ただ、殺人事件が起きて、容疑者はチムニーズ館の招待客たちというシュチュエーションがもうミステリーの定番で、内容的にはかなりミステリー寄りです。

 

ちょっと名前を挙げたキャラクターの説明をしておくと、バトル警視はスパイ関係の捜査をしているロンドン警視庁の警視。ケイタラム卿はチムニーズ館の持ち主でこの集まりのホストですが、政治には関心がなく頼まれて仕方なく場所を提供しています。その娘のレディ・アイリーン(通称:バンドル)は好奇心旺盛な行動力のある女性です。

ちなみに、秘密の交渉のおぜん立てをしたイギリスの高官・ジョージ・ロマックスは、集まった人々をもてなす役として若く美しく社交的ないとこで未亡人のヴァージニア・レヴェル夫人を参加させます。

また、ロマックスの秘書の若者・ビルはヴァージニアに夢中です。

 

主人公のアンソニーとバンドル、ヴァージニア、ビルの間に生じるロマンスの行方も気になるところです。

アンソニーの側から探偵目線で見ると怪しい人だらけなんですが、逆に、館に集まった人々からすると、呼ばれたわけではないアンソニーは謎の人物であり、極めて胡散臭いわけで(実際に後ろ暗いところもある)、バトル警視からも疑いの目で見られても仕方がないので、読んでいてハラハラします。

 

何より、国際的な陰謀と、宝を狙う泥棒、殺人事件、と盛りだくさんなので、全部の問題が解決していくラストはすっきりします。また、いつもながら登場人物のロマンスが物語に華を添えてくれます。

作者のサービス精神が旺盛すぎて是非とも結末が知りたくなるので、"荒唐無稽なスパイ物"と片づけるのはもったいない作品です。

 

今回記事を書くにあたって調べてみたら、ミス・マープルのドラマで「チムニーズ館の秘密」があるというのを知りました。以前にミス・マープルのドラマでこれまたノン・シリーズの「なぜエヴァンズに頼まなかったのか?」をたまたまテレビで放送していたのを見たことがあるので驚きはしませんが、ミス・マープルがいなくても楽しめる作品を彼女に解決させるなんて、ミス・マープル人気がすごいんだなと思います。

そもそも、ミス・マープル物ってポアロ物に比べてすごく少ないです。

だけど少ない中でもミステリーとして評価が高い作品が多数ある。

もっとミス・マープルに活躍してほしい!ってとこでしょうか。

「チムニーズ館の秘密」をミス・マープルの謎解きで観るのは面白そうですが、本の方では、本来の、若者たちが繰り広げる冒険ものとしてお楽しみいただけると思います。

 

もう一つ、蛇足となりますが、調べた中で2024年8月16日に創元推理社さんから新訳版の「チムニーズ館の秘密」が発売されたことも知りました。

全然知らずに記事に書く本として選んだので、ちょっとびっくりしました。

今が書く時だと、何らかの直感が働いたんでしょうか。第六感てやつ?

 

それはさておき、おすすめいたします。(*^▽^*)