2024年11月のテーマ

「初心者でも面白かったSFの本」

 

第二回は、

「リプレイ」

ケン・グリムウッド 作、杉山高之 訳、

新潮文庫 1990年発行

 

 

です。

 

この本は、SF作品に造詣の深いアメブロガー・ぱいさん様から教えていただいた作品でして、教えていただいたちょっと後に古本屋さんで発見して、これはもう読めという天啓だと手に取った経緯があります。

こういうことがあるから、本との出会いはご縁だなあと思います。

 

さて、あらすじをば。

ニューヨークのラジオ局でディレクターをしているジェフは43歳で死んでしまいます。が、直後に意識を取り戻し、自分がいる場所がラジオ局ではないことに気づきます。そして、周囲の諸々の状況から、自分は18歳で大学の寮にいることが分かってきます。つまり、25年前に逆戻り…死ぬ前までの43年間の記憶や知識はそのままに、人生をやり直すことになります。

彼は死ぬ前とはまるで違う、経済的に成功した人生を送りますが、43歳でまた死んでしまいます。そして再び、人生をやり直すことに…。人生のループの先にジェフが見たものとは…。

 

前述したような経緯で読んだ本なので、作者の方については全く私は知りません。

巻末の翻訳者さんの解説では、あまり表に出ていない作家で経歴などの情報は不明とあり、ミステリアスな方のようです。

(本が出版された時点での話なので、現在ではもっと情報があるかもしれません。ミステリアスな作家さんという方がこの作品の雰囲気に合っているような気がしたので、私は検索等せずにそのままにしてあります。)

 

今日、タイムリープものというのは流行りのジャンルのようで、この作品の主人公ジェフのように記憶や知識を持ったまま人生をやり直すだとか、一定の期間をループし続けるだとかいう設定の作品はたくさん目につきます。

私の場合、最近の作品で観たのと言えば、「MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない」くらいで、あと真っ先に思い出すのが、2004年公開、アシュトン・カッチャー主演の映画「バタフライ・エフェクト」ですかね。

前者は同じ一週間を何度も繰り返す話ですが、ループしていることに気づいていない人には、記憶や知識は引き継がれておらず、何とかしてループを抜け出そうとするお話。

後者は、未来を変えるために、子供時代のあるポイントに戻って過去を変えようと試みるお話。

一言でタイムリープものといっても、内容的にはバラエティがあるなあと感じます。

 

そこで「リプレイ」の話に戻りますが、読み始めてまず思ったのが、一回のループが25年って、長い!

先に挙げた他のタイムリープものの作品では、割と早い段階で主人公の目標がはっきりして、そこに向けてあれこれ行動するわけです。そして最終的にはループから抜け出すことができる。

でも、「リプレイ」の場合、人生をやり直せるとして、新たな目標を設定して25年間頑張って、ある時点ですべて白紙に戻るわけで、私なら心折れます。

 

記憶や知識がそのままに、人生やり直せたらいいなあ…と思うことは誰でもあると思います。

でもこの小説を読んでいる最中、私は以前ほどその設定を魅力的だと感じなくなりました。

中年から大学生に戻ったジェフは、学生時代に楽しかった経験がどれも色あせて見えてしまいます。

彼はとっくにティーンエイジャーを卒業して大人になっています。心は大人になったまま、ティーンエイジャーの娯楽はどれも一度経験したものの繰り返し。新鮮な驚きや喜びは失われているのです。

また、一度の人生では経験しきれなかった様々な経験を積むことができるということは、自分の中に新しいことが知識として蓄積されていくという良い面と、悲しいことや辛いことも記憶に持ち続けることになるという負の面があることに気づきました。(ただし、人間には"忘れる"ということができるので、この負の側面は人によって及ぼす影響の範囲がだいぶ違うかもしれません。)

 

と、ここまで"ジェフのように記憶や知識を持ち越したまま人生をやり直すこと"についてネガティブなイメージしか持てないようなことを書いてしまいましたが、実際、小説を読んでいる時にはそんな風に感じていたのです。

ただ、この時点で物語の序盤も序盤!でした。

本の厚みからいって、起承転結の起…良くても承の序盤。

ここから後、何がどう展開していけば残りの文量になるのか?さっぱりわからないまま読み進めていくと、私には思いもつかない展開の数々で、やっぱり私はSF初心者を返上するのは無理だなと思いましたね。

 

私は、この本が描いているのは人間の心の動きだと思っています。

希望と絶望、愛と孤独、未知と既知…。

人生が一度しかない以上経験しえない感情の数々を、この作品で垣間見させてもらったと思います。

 

私が現在出ているタイムリープものの作品をあまり知らないで書いているので、他の"人生をやり直す"タイムリープものをご存じの方には目新しい話ではないのかもしれませんが、それでもこの作品を通して自分なりに"生きる"ということの意味を考えさせられました。

きっと、読んだ人みんなが自然と自分なりの生への考えが浮かぶことと思います。

小説の出した"答え"と、自分の中に芽生えた考えが近くても遠くてもそれはそれでいい。

普段は考えることもない哲学的な命題(生)について、難しくなく考える機会を与えてくれる本でもあります。

おすすめいたします。(*^▽^*)