2024年11月のテーマ
「初心者でも面白かったSFの本」
第一回は、
「航路」(上)(下)
コニー・ウィリス 作、大森望 訳、
ハヤカワSF文庫 2013年発行
です。
あらすじは…認知心理学者のジョアンナは、マーシー総合病院で臨死体験者の聞き取り調査をしています。そこに、神経内科医のリチャードから、人工的に臨死体験を発生させて、その時の脳の活動を記録するというプロジェクトへの参加を持ちかけられます。この試みがうまくいけば、ジョアンナの研究にも有益なデータが得られるということで、彼女はプロジェクトに協力することになります。しかし、その実験には被験者が不足する事態となり、ジョアンナ自身が被験者になることに…。自らが臨死体験をすることで彼女がたどり着いた答えとは何か、生と死の狭間を探求する物語です。
まず、私はコニー・ウィリスさんの作品が大好きで、SF小説というジャンルの中で、この作家さんの作品だけは作家名で即読書リスト入りさせています。
というのも、この作家さんの小説は、SFなんだけれども身近な題材を取り上げてあったり、歴史の一部としてその時代の人々の暮らしや出来事をとてもリアルに再現して描いたりしていて、自分にとって興味がある内容になっていること。
また、お話の根本にある設定としての科学技術の部分は割とさらっと書いてあるので、私にとっては技術的な部分をあまり難しく考えないで物語にのめりこめること。
毎回、ものすごい量の伏線や謎がちりばめられていって、最終的にすべて回収されてすっきりすること。
などが主な理由です。
ですから、SF小説はあんまり得意じゃない、という方にもお勧めしたい作家さんです。
ただ、どの作品も(短編集は除きますが)ボリュームがあります。
さて、作家さんの話ばかりしていないで、作品の話へとまいりましょう。
この「航路」は、以前に書いた同作者の「ドゥームズデイ・ブック」をはじめとするタイムトラベルのシリーズとは全く関連のないお話です。
臨死体験というと、超自然的な現象と捉えられがちな分野であると思うのですが、それを科学的に検証しようとデータを集めているのが主人公のジョアンナ。
臨死体験者の記憶が鮮明なうちに証言をとりたくて、機会が訪れればすぐに体験者の元へと駆け付けます。なぜなら、体験者の記憶は外部からの働きかけでたやすく変わってしまうからです。
しかしながら、臨死体験をした側からすると、目が覚めたら知らない人がやってきて、突然質問してくるわけで、私だったら結構迷惑な話です。
その点でいうと、人為的に臨死体験を起こすという実験でそれに協力してくれる被験者からデータを得るというのは、研究する側からしても、被験者の側からしても(参加に同意しているという点で)、あるべき姿と言えなくもないです。
ただ、現実的にみると、
・人為的に臨死体験を起こすというのは安全面でどうなのか?人体実験として許される範囲なのか?
→現実に行うならば倫理的、人道的に大問題になる
・生死の境をさまよった人間が全員臨死体験をするわけではないと考えると(私の知る限りでは一部の人に起こる現象)、仮に人為的に人を仮死状態にすることができたとしても、それがそのまま当事者の臨死体験につながるとは限らないのでは?
→得られる結果は期待できるものでないかもしれないのに、人命を危険にさらすような実験を行えるのか?
と、私は考えたので、現時点では科学的に実現しない設定…サイエンス・フィクションとして描かれる"もしも"の設定として納得です。
臨死体験ということから、命について考える内容のお話であることは間違いないのですが、登場人物たちのすれ違いや勘違いからのドタバタ喜劇の展開は、さすがのコニー・ウィリス節となっています。
最終的に、滅茶苦茶に絡まった糸をほぐして結末ではすっきりと整っているのも見事な手腕です。
命というと重いテーマでもありますが、そこを必要以上に重く感じさせない作品になっていると思います。
私がこの作品を読んだときは、予想外の展開にびっくりしてどんどん先に読み進んでいったと記憶しています。(主に下巻。)
個人的にはタイムトラベルもののシリーズの方が好みですが、コニー・ウィリスさんの作品について書かれた記事などを検索していると、"なかでも「航路」が好き"という意見を割とみます。
この作家さんの作品を読んだことない方には、コニー・ウィリス作品に触れるとっかかりとしていいかもしれません。おすすめいたします。(*^▽^*)