十月の閑話休題です。

 

2024年10月のテーマ

「目線で印象が変わる本」

 

でおすすめしてまいりました。

以前に、「指輪物語」の記事を書いた際、アメリカのドラマ「スーツ」の一場面を引き合いに出して、同じ作品でも読む人によって解釈の仕方が違うということを述べたことがあります。

基本的にどんな本も人によって感想は違うものだし、心を打つフレーズやなんとなく印象に残るシーンも、それぞれ。

それが当たり前です。

1つの作品について、感動を分かち合いたいときもありますが、他の人たちとどれだけ気持ちを共有できても、私が作品から受け取った思考や感情は私だけのものだと思っています。

そのうえで、同じ人間が同じ本を読んでも、そのたびに受け取るものは微妙に違うんだなあ、とも思います。

今月は、作品から受け取るものの個人差が激しいんじゃないかと思った本をピックアップしてみました。ちなみにきっかけは「ぼくの小鳥ちゃん」です。いつ読んでもふわふわモヤモヤするんですよね。

私にとって○○な作品!という風に自分の中でラベリングできないし、この作品からは○○を得たというのもはっきりしない…。自分の中でうまく分類できない本なので、いつかブログに書きたいと思いながらずっと寝かせていた本でした。

「フランケンシュタイン」はまたちょっと違っていて、感情の整理がうまくつけられない本、という感じ。

そして今回のタイトルにもあるように銀英伝(「銀河英雄伝説」)は思考も感情も受け取るものが多すぎてわーっとなってしまう感じですかね。

 

てなわけで、タイトルの「銀英伝から統治システムについて考える話」へとまいりましょう。

銀英伝のことを記事に書くとき、何とかその魅力を伝えたいと思って、つい登場人物の話や物語が壮大なことを説明しようとしてしまい、これまで二度記事にしたにもかかわらず、私が"この作品から学んだ"と思っていることについて一言も触れていないことが気にかかっていました。

それが、ラインハルトヤンがそれぞれに適切と考えている統治システムです。政治イデオロギーと言えばいいのかな?

 

<帝国>に生まれ育ったラインハルトは、皇帝による独裁政治の難点は世襲制にあると考えます。一人の優秀な人間が民のための正しい統治をおこなえば、スピーディに民が平和に暮らせる国が作れる。決定権を握っている人間が一人であれば、何事もスピーディに対処できるというわけです。

ただし、決定権を持つ人間が、民のことなど考えずに己の享楽ばかりを考える愚鈍な人間であれば、国は地獄です。世襲制では優秀な人格者ばかりが皇帝となるとは限りません。だからラインハルトは、リーダーに能力がないと判断したら、もっとふさわしい者が力を示してリーダーを倒し交代すればよいと言います。

しかし、私にはこの説はすごく乱暴で、傲慢に感じます。

なぜなら、トップがすげかわる時には、力という名の暴力が横行して民が傷つくからです。

歴史の中では、長く続いた王朝が倒れるとき、内乱が起こって勝ち残ったものが次の王朝を興しますが、リーダーが交代するたびに戦争が起こるような落ち着かない世の中は嫌ですし、一兵卒や民衆の命を軽んじていると思います。

また、力で他を制した人間が、統治において優秀かはまた別の話です。人格者とも限らない。

ただ権力が欲しいだけの人間かもしれません。

ラインハルトが立ち上がった時代は前王朝の末期で、腐敗した政治をみてきた人たちが、理想の政治を胸に抱いて突き進んだわけで、優秀な人材がたくさん育ったということもあるでしょう。

賢帝が良い政治を行えば、その時は素早く世の中を良くできるでしょうが、皇帝個人の資質によっていとも簡単にひっくり返る危うさを孕んでいるのが独裁政治の欠点と言えます。

 

一方、ヤンの所属する<同盟>はもともとは<帝国>から逃げ出した人々が興した国々の集まりで、民主主義をかかげています。一見良さそうに思いますが、政治家は民衆のことなど考えず、人気取りのためのアピールだけはうまい人たちが権力闘争を繰り広げている有様で、たとえ民衆にとって最善の政治を行ってくれる人物が短期間で腐敗政治家たちを押しのけてトップに上り詰めたとしても、決定権が一人の個人にあるわけではない民主制ではよい世の中にしていくには長い年月がかかります。議論を戦わせ、世論を聞いて決定していく世の中では、どんな問題もすぐには解決しないのです。

しかし、人は、問題があれば早く解決してくれることを望みます。

だから優秀なリーダーが一気に解決してくれるという期待に飲み込まれやすいのです。

リーダーを交代させやすい(しかも暴力なしで)、権力を一人に集中しないことで暴走を防ぐ、いくつかの機関で役割ごとに権力を分散させることで互いにチェックしあう…など、民主制には良いことがたくさんある。極めつけは国民の一人一人が投票権という政治に参加できる権利を持っている。歴史家としてのヤンは、制度に問題は多々あるけれども、民主主義の方が相対的に人類にとっては良いと考えています。

ただ、やはり問題解決に時間がかかるというのは、国民に忍耐を強いるわけですし、即対応が必要な問題については決定権が分散していることがマイナスに働くでしょう。

また、民衆に選ばれたリーダーが優秀な人格者とは限らないというリスクもあります。

 

どちらの制度にも一長一短あって、利点と欠点を両方理解してどちらの考え方に賛同するか、作者は読者に問うているような気がします。

アメリカでも日本でももうすぐ選挙があります。

当選した方は、投票で選ばれた民主主義のリーダーになりますが、是非とも民衆が幸せになれるような政治をしてもらいたいです。脳みそ振り絞って、その方法を考えようとする人に当選してほしい。耳障りのいいおためごかしはもうたくさん!

選挙が近づいて政治について考えることが増えると、銀英伝の内容を思い出し、民主主義の長所と短所やリーダーの資質とは何かなんてことをぼんやり思いめぐらしてしまいます。

物語を通して政治について考えることを教えてもらったわけです。

今回やっと書けましたが、ちゃんと言いたいことが書けているのか、読み返してみても自信がありません。

やっぱり私にとって銀英伝は頭がわーっとなる作品です。

 

さて、そろそろ来月のテーマといきましょう。

 

2024年11月のテーマ

「初心者でも面白かったSFの本」

 

でいきたいと思います。

銀英伝の話ばかりしていたら、SF方向に行っちゃったみたい。

しかし、SFの本について書くときにいつまで"初心者"をつけるのかと思わなくもないんですが、他のジャンルに比べてSFの本を読む割合が圧倒的に少ないので、多分私は永遠にSFに関して"初心者"だと思います。

SFの世界はどんどん進化していっている気がしますので…。

では、またご興味ありましたら覗いていただけると嬉しいです。(*^▽^*)