2024年7月のテーマ

「いっぱいある!海外刑事ドラマ」

 

第三回は、

「刑事フォイル」

イギリス、2002年~2015年放送、8シーズン

 

 

です。

 

第二次世界大戦中から戦後のイギリスが舞台の刑事ドラマです。

私はNHK BSプレミアムで日本語吹き替え版を観ました。

記事を書くにあたって調べてみたら、NHKではシーズン4までの放送だったけどシーズン8まであったんだ!と知りました。ジュリー・レスコーの方も後半の半分を観てない回があるし、ミステリーチャンネルまた契約したくなっちゃうよ。

 

それはさておき、あらすじというか概要に行きましょう。

舞台は第二次世界大戦中のイングランド・ヘイスティングス。クリストファー・フォイル警視正と専属運転手のサマンサ(サム)・スチュアートポール・ミルナー巡査の三人が、戦時下の混乱を利用して罪から逃れようとする犯罪者を追いかける物語です。

 

主人公のフォイル警視正は初老のダンディなおじ様(と、私には見えます。好みの問題もあることをご了承ください。)。物静かで几帳面で田舎暮らしが似合う落ち着いた人物で、温厚誠実な人柄です。情に流されそうな優しい人物に見えますが、とても理性的で知的な部分も強く持っていて、正義の追求が彼の指針と言えます。この辺り、ちょっと『相棒』杉下右京と通ずるものがあると私は思いますが、杉下右京の方がスノッブで粋な雰囲気を漂わせているのに対して、フォイルは誠実な田舎紳士といった感じです。

息子が空軍でパイロットをしていて、たまに帰省しますが、妻はなくなっており、一人暮らしで仕事一筋な印象です。

 

フォイルの専属運転手のサムはとにかく元気な若い女性で、制服姿も勇ましく、常に捜査中のフォイルに同行しています。彼と一緒に見聞きした情報について車中で意見したり、おしゃべりしているシーンがたくさんあって、ドラマを明るく支えています。戦時中のイギリスでは、男性が多く出兵して人手不足となり、それまで男性がしていた仕事にも女性が就くようになったことは多くの小説やドラマで描かれています。

サムの運転手という仕事も、その当時、女性がやることになった仕事の代表的なものという感じがします。

前国王のエリザベス女王も戦時中は軍の運転手をされていたそうですし、アガサ・クリスティーの作品であるトミー&タペンスシリーズのタペンスも『秘密機関』の中で第一次世界大戦中に十代で将軍の運転手をしていたと言っています。

私としては主人公のフォイル警視正が物静かな分、元気なサムとの掛け合いを楽しく観ていました。

シリーズが長く続く作品では登場人物の人間関係も必然的に変わっていきます。戦中~戦後でイギリス社会は大きく変化し、サムは社会の変化に対応する意味でも、適齢期の女性としても人生の大きな選択を迫られます。女性はこの辺り共感するんじゃないかなと思います。

 

ポール巡査に関しては、正直私はサムほど印象的ではないんですが、誠実な警察官です。志願兵として戦争に行っていましたが、片足を失い、退軍して復職。フォイルの部下で、サムと共に頼りになります。戦時下という特殊な状況で、人々の善悪の規範が揺れ動く中、ポールは若い分迷うことも多いと思うんですが、フォイル警視正を信頼してついていく中で警察官として成長していっている気がします。

同僚のサムとはいいコンビと言えましょう。

 

このドラマの見どころは、社会の規範が大きく変わっていく中、人々の犯罪に対する感覚もグレーゾーンが広くなってしまっている状況で、犯罪を取り締まる側のフォイルはブレずにそれまでの仕事を続けているところです。

 

それまでの日常を変わらず続けていくためには、善悪の規範が滅茶苦茶になってはいけないということなんだと思います。

戦時下という非常事態で国民全員が何らかの形で負担を負い、協力を強いられています。

だからと言って、不正に物の価格を釣り上げて売りさばいたり、自分が犯した殺人を人のせいにしたり、他人の財産を不当に奪ったり、他人に暴力をふるってけがを負わせたりすれば、犯罪です。

だけどこの状況下では、敵国と通じていると噂のある人物に暴力をふるってそれを正当化する人もいれば、空襲に乗じて殺人を事故に見せかけて罪を逃れようとする人もいます。多かれ少なかれ、「非常事態だから、戦争中だから、こんな小さなことにかかずらってないで、戦争に勝つために協力しようじゃないか…。」という論法で罪を逃れようとするのです。

そんな中でも粛々と自らの役目を果たすフォイルの誠実な姿勢が、私は好きです。

 

戦時下でみんな不安です。パニックの手前でみんなで踏ん張っている。このドラマでは、犯罪を犯した人間が必ずしも悪人とは言えないというケースが、他のドラマに比べて陰影が濃く感じられます。それは、戦争を憎む気持ちが登場人物全体の根底にあって、観るものにも様々な問いかけをしているからではないかと私は思います。

 

シーズン前半の戦時中の部分についてばかり書いてしまいましたが、戦後になると今度は国を立て直すためにいろいろな政策が打ち出されて人々の暮らし向きがまたがらりと変わっていくので、ここでもまた混乱に乗じる輩が出てきて、ドラマとして面白いです。

 

刑事フォイル、今だとミステリーチャンネルで観られるみたいです。

契約されている方、ぜひおすすめいたします。(*^▽^*)