2024年4月のテーマ

「私が30年手放していない漫画」

 

第二回は、

「エロイカより愛をこめて」(全39巻)

青池保子 作、

秋田書店プリンセスコミックス、1977年~発行

 

 

 

です。

 

今回は、あらすじというよりは、作品の概要を書きたいと思います。

男色の美青年、ドリアン・レッド・グローリア伯爵(以下"伯爵"とします)は、気障で華麗な泥棒貴族。窃盗グループを率いて、自らの美意識に適う美術品だけを盗みだします。彼の泥棒家業と、北大西洋条約機構(NATO)の将校・クラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハ少佐(以下"少佐"とします)の作戦行動がかち合ったとき、両者と敵勢力が絡み合って巻き起こる騒動を描いた漫画です。作品前半は東西冷戦の頃。国際的なスパイが暗躍する諜報活動が少佐の携わる作戦行動であり、任務自体はとてもシリアスな内容のものが多いのですが、そこに伯爵が絡んでくると事態はドタバタ喜劇の様相を呈してくるわけです。

 

この作品の第一話は三人の超能力少年少女が主人公で、そこに伯爵が登場するといったお話だったのですが、第二話で"鉄のクラウス"こと少佐が登場して伯爵VS少佐のお話があった後は完全に伯爵と少佐が主人公になっています。

少佐は伯爵とまるっきり対極のキャラクターで、硬派な軍人、任務一筋(猪突猛進)、風雅を解さず、よく言えば質実剛健、悪く言えば唐変木。情報将校らしく頭は切れますが、よく感情的に怒鳴っているので、直情型とみられることもあります。

対して、華麗な美青年の泥棒で美術品を愛する伯爵はどちらかというと狡猾な頭の良さを持っていて、かっこいい怪盗の必須条件ともいえる変装の達人。少佐の裏をかくこともしばしばです。

 

作品の魅力は何といってもこの二人のキャラクターにありますが、脇役もとても個性的。ソ連の大物スパイ・コードネーム"仔熊のミーシャ"はスキンヘッドにサングラスの強面おやじだし、伯爵の部下で経理士のジェイムズ君はお金が大好きで尋常ではない節約家。少佐の部下はアルファベット名で呼ばれていて部下Aから部下Zまで26人います。

また、お話自体のスケールが大きいところも魅力です。国際的な軍事諜報活動は「007」「スパイ大作戦」…もう少し新しいところなら、「ジェイソン・ボーン」とか「ミッション・インポッシブル」の世界です。

前半は東西冷戦時代に連載されていたので、少佐の任務もリアルに感じられました。

1986年に作品NO.14「皇帝円舞曲」が完結(19巻)したのち、約10年のブランクを経て連載が再開され、冷戦終結後の世界で変わらず任務に励む少佐と相変わらず美しい伯爵の活躍をみた時には感動で胸がいっぱいになりました。

 

私が十代の頃愛読していたのは前半の部分で、実家からコミックスを持って出て、社会人になってから連載再開後のコミックスを買いました。

この作品はただのスパイコメディ漫画ではなく、実際の世界情勢、実在の国を舞台に、架空の諜報活動が描かれています。

絵柄も書き込みが細かく緻密で、ギリシャ、トルコ、ロンドン、バチカン市国、スイス、ドイツ、エジプト…たくさんの国の風景や遺跡が絵で見られます。

十代の私はこの作品で、北大西洋条約機構(NATO)とはどういう組織なのかとか、ドイツ語でA~Zまでのアルファベットをどう読むのかだとか、ヨーロッパにはリヒテンシュタインという小さな国があるんだとか、"ヴォルガの舟歌"というロシア民謡があることとか、フェルメールの贋作を描いたファン・メーヘレンという画家がいたのだとかいうことを知りました。

もちろんここに書いたこと以外に外国に関するちょっとした知識をすごくたくさんこの作品から教えてもらいましたし、それをきっかけとしてもう少し詳しい本を読んでみたり、後々作品から読みかじった事柄を全然別のところで知る機会があったり、その後の人生でいろんなことに興味を持たせてくれた漫画だと思っています。

 

これから初めて読む方は、19巻までの東西冷戦時代のお話はその頃の世界のかたち、危機をコメディを挟みつつ感じていただけるのではないかと思います。20巻以降は、冷戦終結後の新たな世界の問題を取り上げているので、こんなころあったなあと懐かしく感じられる場面もちょこちょこあるかもしれません。

 

でもやっぱり、いつまでも変わらぬ少佐と伯爵のドタバタ喜劇に、一度読めばはまるんじゃないかと思います。

ちょっと長いですけど、「エロイカより愛をこめて」おすすめいたします。(*^▽^*)