2024年4月のテーマ

「私が30年手放していない漫画」

 

第一回は、

「笑う大天使(ミカエル)」(全2巻)

川原泉 作、

白泉社文庫、1996年発行

 

 

 

 

です。

 

タイトルの"大天使"を"ミカエル"と読みます。

花とゆめコミックス(白泉社)で1987年~1989年にかけて全三巻で刊行されたものを後に文庫化したものになります。

私はコミックス版を持っていましたが、実家を出て後に文庫版を買いそろえました。

コミックス版はまだ実家にあるはず。(でもだいぶ傷んでるかもな~。)

十代の頃の愛読書で、今読んでもやっぱり面白い。

内容的にも古さをあまり感じさせない漫画です。

 

それはさておき、あらすじをば。

ごく普通の高校生だった司城史緒(しじょうふみお)は、父の死後婚家を追い出された母親が亡くなって天涯孤独になったのち、父方の家に引き取られ、キリスト教系お嬢様学校・聖ミカエル学園に転校することになる。亡き父の家といっても残っている身内は小説家の兄一人。母一人子一人でつましく暮らしていた史緒の環境は一変、これまで一度も会ったことのなかった実の兄との気づまりな豪邸暮らしの上、転校先は超・お嬢様学校で常に猫をかぶるストレス生活に…。

やがて更科柚子(さらしなゆずこ)斉木和音(さいきかずね)という気心の知れた友達を得て、学園ライフを楽しめるようになります。

一言でいうと、この三人の少女達の学園青春コメディ漫画です。

ちなみに、2006年に実写映画化もされています。

 

 

 

この漫画の面白さを語るには、川原泉さんの漫画の魅力について書かなくてはなりません。

なぜなら、私がこの漫画をおすすめしたいと思うのは、川原泉さんの漫画の傑作のひとつで、尚且つ初の長編(中編?)連載された作品だからです。

この作品以前の川原泉さんの漫画は読み切りや短期連載の作品ばかりで、コミックスになったときに続刊になったものがなかったのです。でも川原泉ファンの私としては、もっと長い作品も読みたい!(そもそも小説でも長編好きなので。)と思っており、その願いが叶えられた作品第一号だったというわけです。

 

そもそも、川原泉さんの漫画と出会ったのは小学校低学年くらいのときで、友達の家で親戚のお姉ちゃんから借りたという川原泉さんの漫画を読ませてもらったのが最初でした。忘れもしない、花とゆめコミックスの「ゲートボール殺人事件」

まず、当時の少女漫画のタイトルっぽくないですよね。

加えて内容が、町内のゲートボールクラブのメンバー五人が練習場の空き地を所有するやくざの親分の家に空き地を取り壊さないでと頼みに行ったら組長が自室で死んでいた…というお話。少女漫画なのにやくざだとかゲートボールだとか、そぐわない感じがしますが、登場人物全員が基本的にのんきもので、全編ほぼコメディ。設定からストーリーから話の運び方まで、それまで読んでいた少女漫画の枠に収まりきらない面白さでした。

そこからコツコツと川原泉さんのコミックスを集めて今も変わらずファンなわけです。

(ちなみに、「ゲートボール殺人事件」のお話は、文庫版では白泉社文庫「甲子園の空に笑え!」に収録されています。)

 

川原さんの漫画は、まず絵がシンプルにかわいらしいです。

おじいちゃんやおばあちゃん、やくざや殺し屋、はたまた宇宙人ですらかわいらしい。

それから、とにかく字が多い。漫画なんだけれど、かなり読ませます。そこには結構なトリビアがぎゅうぎゅうに詰まっています。

「ゲートボール殺人事件」にはゲートボールのルールもちゃんと書いてありますし、「美貌の果実」というワイナリーを舞台にした作品ではワインに関する知識が得られます。

今回おすすめする「笑う大天使」では、源氏物語のワンシーンについて論じる場面が出てきたり、元素周期表を作ったメンデレーエフについて書いてある箇所もあります。

どの作品をみても、作者の知識の深さと広さを感じます。

登場人物のセリフにも独特のリズムがあって、訳の分からないつぶやきやツッコミもウィットに富んでいます。

ユーモアがある…という言い方では、作品から感じる作者の知性と節回しの妙を表現しきれません。

 

また、川原泉さんの漫画の主人公には、若くして辛い経験をしている場合がよくあります。

「笑う大天使」にしても、主人公の史緒さんは、生まれる前に父は亡くなって母は婚家を追い出され、生まれた時から母一人子一人。大人になったらえらくなって母に楽をさせてあげたいと願って猛勉強していましたが、その母が亡くなって…というところから物語がスタートしています。

コメディ漫画ではありますが、楽しさ一辺倒なわけではなく、つらいことや哀しいことがあっても今ある現実をのんきに生きていけばいいこともあるよという気分にさせてくれる作品でもあるのです。

 

「笑う大天使」はそんな川原泉節が存分に発揮された作品です。

知的好奇心を刺激してくれ、ウィットに富んだユーモアで笑わせてくれ、主人公たちと同じようにのんきな気分でリラックスして読める漫画。

川原泉作品は、子供の頃から何度も読んで、多分思春期における人格形成にも影響を与えられた作品だと思っています。

大人になってから初読だと、お嬢様学園という設定自体にちょっとファンタジーな感じを覚えるかもしれませんが、川原泉さんの作品ならばやはりこれを一押ししたい!

ぜひ一度読んでいただきたいです。おすすめいたします。(*^▽^*)

 

 

 

 

 

 

 

 

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【訂正】

史緒さんの生い立ちを間違って書いておりましたので、記事を訂正いたしました。

史緒さんの父母は離婚したわけではなく、"父が亡くなった後、母が婚家を追い出されたため兄と生き別れていた"が正しいです。

大好きな漫画と言いつつ、あやふやな記憶をきちんと確認しないままアップしてしまい、申し訳ございませんでした。

(2024.4.5訂正)

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