2024年2月のテーマ

「モヤモヤしたときにいいかもな本」

 

第三回は、

「女の子どうしって、ややこしい!」

レイチェル・シモンズ 著、鈴木淑美 訳、

草思社、2003年 発行

 

 

です。

 

アメリカの思春期の女の子たちやその保護者達からたくさんの聞き取りを行った著者が、女の子のいじめについて書いた本です。

アメリカ社会で起きている女の子同士の人間関係をめぐる本ではありますが、日本においても同じようなことは毎日身近に起きています。取り上げられている実例はアメリカの話だけど、世界中どこででもありそうな話です。

 

日本社会では、"いじめ"という言葉はとても強い言葉だと思われています。

例えば、人の命が失われるだとか傷害事件や恐喝、金品を奪い取るなどの「もうそれは犯罪でしょ」というような場合でないと明確に"いじめ"だと認定していないように思います。

しかし、例として挙げたような内容であるならば、それはもはや"いじめ"ではなく"犯罪"です。

子供たちの間で起きたこととして、犯罪にあたるようなことでもいじめという言葉で穏便に済ませようとしているのが日本の社会だと思います。

 

ちょっと本題から外れてしまいましたが、日本で"いじめ"という言葉の持つイメージがとても重いので、この本の内容もとても重いのだという印象を抱かれると思い、ここで扱われている"女の子のいじめ"はそういうものではなくもっとありふれたどこにでもある友達同士の情緒攻撃の話なのだということが言いたかったのです。

 

具体的に言うと、無視をするグループ内で特定の子を下に見てマウントを取る「あの子としゃべるなら私はもうあなたと友達をやめる」などと脅して行動をコントロールしようとする「私たちは親友」と言いながら別の子と仲良くしているところを見せつける…そしてそういった行動をとがめられた時には「冗談なのに本気にしたの?」とか「悪気はなかった」という言葉で自分には責任がないことをアピールする、などです。

著者はこういった行動を"裏攻撃"と定義し、当事者以外には気づきにくいような攻撃を女の子たちは互いに仕掛けあっていると言います。

実際に、聞き取りに協力してくれた女の子たちのほとんどがこういった裏攻撃をされたこともやったこともあると言っています。そして、されたことは長く心に傷として残り、大人になってもその時の苦く悲しい気持ちがよみがえってくるのです。

 

著者は、こういった裏攻撃が女子の間で起こるのは、生物的に女子であるということが原因ではなくて(つまりホルモンなど何らかの肉体的な原因が脳に作用してそのように振舞わせてしまうわけではない)、社会的な女性の扱いが原因だと言っています。

 

アメリカ社会において、男の子に望まれるのは力強さであり、活発な子は歓迎される傾向にあります。だから、教室で男子が騒いだって、先生はそういうものと思っているからあまり本気では注意しない。男子が取っ組み合いのけんかをしたって、けがをしなければ問題ない。

 

これが女子の場合は、違います。女の子が取っ組み合いのけんかをしていたら、先生はすぐに割って入るし、授業中に騒いだらすぐに注意される。なぜなら、社会的に女の子には優しさや協調性が求められているから。友達に暴力をふるうなんてもってのほか!というわけです。

 

男女ともに成長期に起きる体の変化の影響を受けて情緒が乱れるのは同じ。

男子はそれを暴力という形で発散する場合が多く、しかもそれは仕方のないことと黙認されている。

でも女子にはそれは認められていない。だから女子は咎められない方法で情緒の乱れを発散する。

それが裏攻撃というわけです。

ターゲットに心理的ダメージを与えることで自らのイライラを発散する。

ここでは暴力にも裏攻撃にも善悪のレッテルは貼りません。どちらが良いとかいう問題でもない。ただの"違い"です。

男の子が暴力という形で身体的に衝突しあって情緒問題を解決しようとする場合が多いのに比べ、その方法を封じられている女子は心理的攻撃によって衝突しあっている…というのが大まかなこの本の主張です。

 

昨今、多様性が叫ばれて、"男だから"、"女だから"、"男らしさ"、"女らしさ"という思い込みを打破しようとする動きが活発化しています。基本的には私もこの動きに賛成です。それでも女子特有の人間関係があることは実感していますし、男女平等という言葉に対しても、"平等"の定義をしないことには前向きに進んでいくことはないんじゃないかなと感じています。

肉体的なしばりがある以上、得意なこと、不得意なこと、できること、できないこと、などは発生してしまうので、完全に区別をなくすことは不可能なのではないかと思っているからです。差別はなくせても区別はなくせないのではないかと。

 

今月のテーマでこの本を選んだ理由が、男女間で違いのある問題を考えた時に、肉体のしばりによってその違いが発生しているのか、社会的な役割分担を変えたくないがために違いが起きているのか、わからなくてモヤモヤしてしまうことがしばしばあるからです。

シンプルに男女間の違いなんかない!と言い切る方もいらっしゃるかもしれませんが、私は肉体的なしばりというものを考えるとそうは言い切れないケースも存在すると思っているので、問題について考える起点の段階でそこがぐらついているのはすごくモヤモヤします。

女子特有の人間関係についてそのモヤモヤを吹っ切ってくれたのがこの本でした。

"裏攻撃"をしてしまうということが、女性の持つ"性質"として長く語られてきていたのを、社会的役割分担の産物であると理論的に説明していたからです。

 

この本では、目に見えにくい、女の子同士の裏攻撃の実例がたくさん載っています。

裏攻撃をする女の子が邪悪か?というとそうとは限らなかったりします。

見えにくくて、当事者以外にはよくわからない女の子同士の人間関係について書かれているので、男性にも是非読んでいただきたいです。"女同士って陰険"、"ドロドロしてる"なんて一括りに単純化しないでほしい。女の子に優しさを求める社会が女の子たちにそうさせているんだという新しい視点で見てほしい。

自分も女性ですので、そんな気持ちになるのです。

男性も、女性も、興味を持った方にはぜひ読んでいただきたい。おすすめいたします。(*^▽^*)