2024年1月のテーマ
「時代小説でありファンタジー!王朝小説」
第二回は、
「陰陽師 夜光杯ノ巻」
夢枕獏 著、
文藝春秋、2007年 発行
です。
文庫も出ているのですが、私は単行本版の方がカバーや装丁が和風な感じで作品と合っていて好きです。
作品の説明としましては、村上天皇の御代、陰陽師・安倍晴明とその友で音楽の才能に恵まれた貴族・源博雅があるときは怨霊や鬼のような妖、あるときは神の引き起こしてしまった不思議な事件を解決していく、平安オカルトファンタジー小説です。
私は以前にも記事で夢枕獏さんの「陰陽師」(シリーズ第一作目)について書いたことがあります。
映像化や漫画化されていて有名なシリーズですし、ご存じの方も多いと思います。
昨年12月にNetflixで「陰陽師」シリーズを原作としたアニメが配信されました。
私はこのシリーズの本は途中まで買って集めていたのですが、ここ十年ほどはご無沙汰しており、知らない間に読んでいない巻の方が多くなってしまっていたので、実は今、アニメをきっかけに再読しつつ未読の本を集めています。
改めて読むと、止まらなくなってしまい、年末年始はどっぷり「陰陽師」の世界に浸かっておりました。
その中で、「陰陽師 夜光杯ノ巻」をおすすめしたいと思ったのは、博雅の魅力が詰まった一冊であり、恋のお話が多めな気がして印象深かったからです。
そもそも「陰陽師」シリーズは基本的に短編集です。
長編の「生成り姫」(映画の原作)も、「瀧夜叉姫(上)(下)」も、一気読みするくらい面白いですし、長編好きの私としては推したい作品なんですが、「陰陽師」は短編でたくさん読みたい作品でもあります。
いろんな怪異が出てくる話をたくさん読みたい。
事件そのものはそんなに大ごとでなくてもいいんです。
「夜光杯ノ巻」は、博雅がどんなに楽を愛しているか、そしてどんなに楽に愛されているかを表しているお話がそれぞれに入っています。
中でも"月琴姫"はちょっとロマンスの香りがして、私はお気に入りです。
源博雅という人物は、高貴な血筋で身分も高い貴族で楽の才に恵まれていたという資料も残っている平安時代に実在した人物だとシリーズの最初の方に説明があるのですが、作中の博雅は女性にとんと縁がありません。
博雅の恋愛がらみのお話もなくはないのですが、長いシリーズの中で数えるほど。
とても素直で感受性が高くて優しい"よい漢"なのに、なぜかモテない(密かにモテているのかもしれませんが、本人が恋愛に疎いとも言えます。)ので、少しでも女性からの好意が感じられると、なんだかうれしくなってしまう自分がいます。まるでおせっかいな保護者みたいな気持ち…いや、物見高いおばちゃんですけども…。
"龍神祭"も博雅の楽の力のすごさを見せつけられる一遍で、もしも絵画や映像にしたならばどれほど美しいだろうかと想像してワクワクしてしまいます。
そして、本の最後に入っているお話も、悲しくてでもなんだかよかったと思える恋のお話。しかも「瀧夜叉姫」で登場した徳の高い法師・浄蔵の若い頃の恋とあっては、それまでのシリーズを読んでいる人には意外な思いをした方もいらっしゃるだろうと思います。
私としても、あの浄蔵にも人生でこのようなことがあったのかと人間の不思議というか、完璧に一つの面しか持たない人間はいないと思ってみたり、だからこそ博雅という人間が稀有な存在なのかもしれないと考えてみたり、いろんな思いがよぎりました。(博雅は自然そのままのような人間で、彼が下した決断やとった行動は何事も彼らしいと思えてしまうような人物です。)
そういうわけで、「陰陽師」シリーズの中から「夜光杯ノ巻」をおすすめいたします。
とはいうものの、このシリーズはどの巻から読んでも差しさわりがないですし、どの巻も面白いと思います。
個人的には初期の頃や「瀧夜叉姫」の辺りはちょっとグロい描写もあるなと思いますが、段々とそういうのも少なくなっている気がしています。
古典の資料から設定を取っているお話などでは、元ネタの伝説や昔話を知っていて、怪異の原因が予測できる場合もしばしばありますが、清明と博雅のやり取りや、二人ならどういうやり方で収めるのかなというところがファンとしては魅力です。
このシリーズをとりあえず一冊読んでみようかな、と思われたなら、「夜光杯ノ巻」で。おすすめいたします。(*^▽^*)