2021年3月のテーマ
「和製ファンタジー」(第二弾)
第二回は、
「陰陽師」
夢枕獏 著、
文芸春秋 1998年発行
です。
漫画化、映画化、舞台化もされている有名な作品です。
平安時代を舞台に、陰陽師・安倍晴明と貴族の源博雅が主人公のオカルトファンタジー小説です。
オカルトホラーと分類する方もいらっしゃると思いますが、私的にはオカルトファンタジー。
ちなみに野村萬斎さんが晴明役の映画は観たことありますが、漫画は読んだことありません。私の知っている漫画は岡野玲子さんのものですが、表紙を見る限り、原作の妖しい雰囲気がよく出ている絵柄で、美しいな~と思っているので、機会があれば読みたいです。
陰陽師というのは、古代日本における国の官職の一つです。
陰陽五行思想に基づいた陰陽道で占いや祈祷などを行う神職に近いお仕事をしていて、朝廷には中務省(なかつかさしょう)陰陽寮という部署がありました。
源氏物語なんかを読んだことある方ならわかると思いますが、平安時代って占いが貴族の生活にすごく影響しています。
例えば、"物忌み"といって、人と会ったり出かけたりしてはいけないので閉じこもる時期があったり、"方違え"といって不吉な方角を避けてお引越ししたり目的地の方角を変えるために遠回りしたり…陰陽道の結果が人々の行動を左右していたのです。
そんな陰陽師の中で、抜群に知名度が高いのが安倍晴明。
『今昔物語』や『大鏡』に登場し、狐の血を引いているだとか、式神を使役していただとかの逸話が残っています。
そんな安倍晴明が主人公のこの小説は、夢枕獏さんの文体がゆらりゆらりと揺蕩うようなリズムで物語を語ってゆき、私にとっては、読書でありながら昔語りを聞いているような雰囲気がする作品です。
おどろおどろしい怪奇現象や、人外の生き物が登場し、主人公たちが問題を解決する。
そういう作品はたくさんありますが、激しい戦いがあって相手を倒すという作品とは違って、『陰陽師』の物語には静謐さを感じます。
戦いがないとは言いませんが、安倍晴明のたたずまいや怪奇現象と対峙する時の姿勢が"動"というよりも"静"なのです。
反対に、もう一人の主人公・博雅は素直で心根の美しい直情型(?)で、どちらかというと"動"の担当かなあ…と思います。
超人的な晴明に対して、博雅は読者に近く感じられる人物なんですが、気持ちが素直なので、うれしい、悲しい、腹が立つ、といった感情の動きを出してくれるところが、おどろおどろしい事件や妖しい生き物たちが出てくるオカルト色の濃い作品のなかで、爽やかさを感じさせてくれていると思っています。
また、この本の中で、百人一首の短歌にまつわるエピソードが出てくるのですが、私はそれがいたくお気に入りです。
古典資料からのエピソードが盛り込まれているのも、この作品の魅力の一つです。
シリーズがたくさん出ていますが、一番最初の『陰陽師』は短編集なので、さらっと読んで作品の雰囲気を知るにはちょうど良いと思います。
蛇足ですが、私が一番好きなお話は"梔子の女"です。
漫画や映画で知ってるよ、という方も一度元祖の小説を読んでみてはいかがでしょうか。おすすめいたします。(*^▽^*)