2024年1月のテーマ

「時代小説でありファンタジー!王朝小説」

 

第一回は、

「後宮の烏」

白川紺子 著、

集英社オレンジ文庫、2018年 発行

 

 

 

 

 

です。

 

ライトノベルの作品です。中華風後宮ファンタジーとでも申しましょうか。

アニメ化されているものをちょっと観て、以前に友人から勧められたことがあるのを思い出して読んでみたら、予想以上に面白かった。そしてすでにシリーズ完結しています。今回はそのシリーズ一作目をおすすめしたいと思います。

 

まずは、あらすじを…。

後宮の奥深くに、妃でありながら皇帝のお渡りがない「烏妃(うひ)」と呼ばれる特別な妃がひっそりと住んでいる。姿を見たものはほとんどおらず、その姿は老婆だとも少女だとも伝えられている。烏妃は不思議な術を使って人を呪ったり失せもの探しをしたりすると言われている。

時の皇帝である高峻が烏妃の元を訪れてある依頼をしたことをはじめに、烏妃の後宮での生活が少しずつ変わっていく。

 

昨今流行りの後宮を舞台にしたファンタジーというジャンルでは、ほぼ間違いなく"中華風"の世界観だと思っています。

"後宮"という言葉の指す場所がそもそも古代の中国や日本の平安時代のもので(江戸時代の大奥なんかも呼び名は違っても後宮なんでしょうが…)、これが平安時代の後宮を舞台にしてしまうと時代小説的色合いが嫌でもついてしまって、ファンタジー作品としては制約が多くなってしまうので中華風になってしまうのかなあ…なんて個人的には思っています。

 

"後宮"と聞くと、女ばかりの閉じられた世界でどろどろとした陰険な戦いが繰り広げられるイメージがどうしてもついて回ると思うのですが(偏見なのは否めません。)、「後宮の烏」についてはドロドロとはほぼ無縁といっていいと思います。

どちらかというと、哀しいお話が多い気がしますし、色恋の舞台としてではなく政治の場の一つとして"後宮"を描いてあります。一作目ではあんまり政治色出てないけど…。

 

主人公の烏妃は妃という呼び名がついているものの、実質は巫女のようなもので、訳あって人との交流をほとんど持っていません。

一方の皇帝・高峻は先帝の皇后一派を倒して帝位についてからそう長くはない人物で、政権安定のためとても忙しい。

こう書くと、若い皇帝と権力争いの範疇外の立場にいる妃なんて、恋愛小説まっしぐらな展開が予想される気がするのですが、そういうお話ではないというのが、私のおすすめポイントなのです。

 

いや、恋愛感情が全くないとは申しませんが、この二人にとっては恋愛よりも大事なことがいろいろあって、立場に伴う役割やら責任やらもあって、もっと言うと、自分がどう生きていくかというような、現代の若者に通じるような悩みについても、シリーズの後の巻で自分なりの答えを出していくので、そこが今の時代を反映しているような気がします。

 

もしかしたら、他の後宮もののライトノベルもドロドロの女の闘いなんてものではなく、閉じられた世界で一生懸命自分らしく生きる女性を描いているのかもしれません。

まあ、他の作品に関しては読んでいないので、推測ばかりでものをいうのはやめておきます。

 

また、ファンタジー小説なので、幽霊であったり、妖のものであったり、神様であったりが存在するという世界観になっており、シリーズが進むにつれて神様同士の喧嘩みたいなスケールの大きな話にもなっていくので、最初の巻であるこの本を読んでみて、相性が良ければぜひ続きを読んでいってほしいです。

閉ざされた世界で自分の役割を全うして生きて死ぬ…と考えていた主人公が、人との交流をきっかけに、そうではない生き方もあると考えるようになり、では自分は何をしたいのか・どうすればそれは叶うのかと模索していく物語は、現代的であり、ただ好きな相手と結ばれてめでたしめでたしで終わる恋愛ものとも、順調ではない恋愛から妬み嫉みのドロドロバトルが繰り広げられる人間劇場ものとも違って、私には前向きで好ましく感じられました。

 

もっとも、このような感想はシリーズ全7冊を読んで得たもので、今回おすすめしている第一巻だけ読んだ後ではまた違ったことを感じていたはずなのですが、今その時のフレッシュな感想を思い出すことは不可能なので、読んでみたけど書いてあったこととかみ合わないと思われましたらお許しを。ていうか、文章を振り返ってみれば、第一巻のおすすめに全然なっていない!もうシリーズ自体のおすすめになっている!!

 

…というわけで、合うか合わないか…ライトノベルを手に取った経験のない方にはちょっとハードルがあるかもしれませんが、一度お試しいただきたいです。おすすめいたします。(*^▽^*)