2023年12月のテーマ

「クリスマスには日本のクリスティーを!」

 

第二回は、

「大阪国際空港殺人事件」

山村美紗 著、

新潮文庫、1990年 発行

 

 

です。

 

今月のテーマの"日本のクリスティー"とは言わずと知れた山村美紗さんのことです。

アメリカ人女性のキャサリンを探偵役としたシリーズが私はお気に入りですが、今月はあえてキャサリン・シリーズではない作品をおすすめしたいと思っています。

 

この「大阪国際空港殺人事件」は、三篇収録されている短編集(短編にしてはちょっと長い気もするので中編集かも)です。

主人公の今井陽子は大阪国際空港に勤務する税関検査官。一話目の"大阪国際空港殺人事件"では、グアムから帰国した若い女性が高級時計を隠し持っていたのを発見し、一時間後にその女性が空港の敷地内で死んでいたことから警察に協力することになります。

女性は京都在住で、警察官には山村作品ではお馴染みの京都府警の狩谷警部と橋口刑事が登場します。

二話目以降も、空港の税関で不正に持ち込まれる海外の品を発見した主人公が、持ちこもうとした人が関与した事件の謎を警察に協力しながら解いていくといった趣向になっています。

 

この作品では、"税関で不正に品物を持ち込もうとする人たちやその方法を見破る"という主人公の仕事の描写の面白さと、推理小説としての事件の謎解きという面白さが二つ楽しめるようになっていて、私としてはそこが推しです。

陽子は20代の女性で、おしゃれも楽しみたいし恋だってしたい。

そういった普通の女性としての顔と、怪しい人や嘘をついている人を見抜く目を持つ職場での顔を同時に持っています。

 

それでも私からすると、他のシリーズものの主人公…例えば、キャサリンだとか検視官・江夏冬子、ドラマ<赤い霊柩車シリーズ>でおなじみの葬儀屋探偵・石原明子、前回おすすめした作品の舞妓・小菊などと比べると、今井陽子は割と普通の女性というか、個性的とは言えないヒロインです。

逆に言うと、職業は税関検査官という司法の側に立った仕事で、一般的な女性の職業とは言い難いのに、読者からすると親近感のわきやすいキャラクターだと感じるのです。

 

今井陽子を主人公とした作品が他にもあるのか、私にはわかりません。

この記事を書くにあたってWikipediaでざっと見た限りでは、今井陽子シリーズとして載っていたのはこの本だけでした。

が、ひょっとしたらまだ読んでいない短編集の中に彼女を主人公にした作品が入っているかもしれないので、この三篇だけとは言い切れません。

私としては、もっと彼女を主人公にした物語を読みたいところです。

 

ちなみに、私は山村美紗さんの小説のほとんどを文庫本で読んでいますが、文庫本の表紙には"○○シリーズ"と書いていない本がほとんどで、キャサリンのシリーズを優先的に買いたい私は毎回判断に困ります。

しかも、本のタイトルは"○○殺人事件"というのが多いし、何しろ作品の数がものすごく多いので、自分がどれを読んだことがあってどれを読んだことがないのかわからなくなってしまうこともしばしばです。

なので、いつも、表紙の絵の女性が金髪碧眼だったら、キャサリンが主人公のシリーズだろうとあたりをつけたり、あとは裏表紙のあらすじを読んでシリーズものかノン・シリーズものか、読んだことあるものかないものかなど判断しています。

そのうち、早川書房から出ているクリスティー文庫のように、山村美紗さんの作品もどこかの出版社が整理して出してくれないですかね。

紙媒体の本が書店から消えているというのに、さすがに無理かなあ…。

 

だいぶ話がそれてしまいましたが、税関検査官が主人公のミステリー…テレビの二時間ドラマで様々な職業の素人探偵が活躍した時代を彷彿とさせます。おすすめいたします。(*^▽^*)