2023年12月のテーマ
「クリスマスには日本のクリスティーを!」
第一回は、
「都おどり殺人事件」
山村美紗 著、
新潮文庫、1988年 発行
です。
徳間文庫からも出ているようです。
今月のテーマの"日本のクリスティー"とは言わずと知れた山村美紗さんのことです。
アメリカ人女性のキャサリンを探偵役としたシリーズが私はお気に入りですが、今月はあえてキャサリン・シリーズではない作品をおすすめしたいと思っています。
「都おどり殺人事件」は祇園の舞妓・小菊と日本画家の沢木潤一郎を探偵役としたミステリーの短編集です。
全部で5編あり、舞妓だけを狙う連続通り魔事件のお話"舞妓殺人事件"や、都おどりの舞台で舞妓が死んでしまうお話の"都おどり殺人事件"など、祇園を舞台に舞妓たちが絡んだミステリーとなっています。
華やかな色街で起こる事件だけに裏で動く欲望や駆け引きなんかの暗い部分もありますが、それよりも、作中で祇園の街の様子や、舞妓さんや芸者さんの世界が描かれているのが興味深く、引き付けられます。
祇園のお茶屋さんでの振舞い方、舞妓さんたちへのご祝儀、舞妓さんたちは月ごとに季節を感じさせる衣装を着て、髪に挿すかんざしの花が月ごとに決まっているだとか…随所に京の気配り・わびさび文化を感じさせられます。
舞妓さんは昼間は踊りや三味線のお稽古、夜はお座敷でとても忙しく、恋愛は禁止。
祇園独自のルールというものがあり、たまにお客さんがひいきの舞妓を遊びに連れていくこともありますが、所属する置き屋の女将に許可を取らないとしけないし、基本的に単独では行かせないので他にも何人か連れていくことになり、こりゃあ財力がないとお茶屋さんの常連さんにはなれないなあ…という感じです。
まあ、1980年代の物語なので、今では多少は変わった部分もあるかもしれませんが…。
私は個人的にはキャサリンの次に小菊がお気に入りのキャラクターです。
彼女は真面目でとてもかわいらしい舞妓です。
この作品の第一作目で17歳と言っていて、とても若い。
一方、主人公の沢木は40代で高名な日本画家です。絵が好きな小菊をひいきにしていて、彼女をはじめとする舞妓の絵を描いて人気を得ています。
小菊と沢木はこの作品では付き合っているというわけではないですが、年の差カップルと言ってもよく、小菊の年齢を考えればロリコンと言われてもおかしくない(相手は未成年!)ので、私は始めは沢木というキャラクターがあまり好きではありませんでした。
年の差カップルを批判する気持ちがあるわけではなく、"権力を持った大人"が"接待する側の若い娘"に惹かれるという構図が対等な立場での恋愛とは違う気がして好きではないので…。
ただ、主人公を舞妓にするという時点で年齢は十代にせざるを得なかったのだろうし、祇園の常連さんともなると財力がいるわけで、そんなに若い男性にするわけにはいかなかったんだろうなというのは理解できます。
多分、男性の作家さんが書いた作品だったら、この設定には嫌悪感がわいたと思います。
なんとなく、若い女の子にモテたいという男性の願望が反映されているような気がして嫌な気持ちになったと思うのです。
作者の山村美紗さんが女性であるがゆえに、沢木を爽やかに描いているのだと思うし、女性読者の反発心も起こりにくいのではと感じます。
このコンビが主人公の物語(長編小説も含めて)の中で、沢木は小菊に様々な気遣いをしています。
17歳の若い娘なのに知り合う男性は祇園に来るお客さん…つまり社長なんかの成功した大人ばかりで、まともな恋愛もできないからかわいそうだと思ったりもします。
小菊の方は絵が好きということもあり沢木を慕っていますが、素直にそれを喜べないという気持ちも描かれていたりします。
また、舞妓の小菊の美しさを絵にしたいという純粋に芸術的な気持ちもあり実際に舞妓の絵をたくさん描いている画家なので、私も徐々に沢木に対する好感度が上がっていきました。
祇園のお茶屋さんで舞妓さんの踊りをみたり、おしゃべりしたり…私には縁がない世界が垣間見られるのがこの作品の魅力です。
小菊の舞妓らしい心遣いや機微を心得たふるまいと、現代っ子・小菊のエネルギッシュなかわいらしさはどちらもキャサリンに通ずるものがあります。(キャサリンも恋人への気配り半端ない。)
そういう意味で、キャサリン・シリーズをご存じの方には、一度お試しいただきたい作品です。
山村美紗のホームグラウンド"京都"の祇園を舞台にしたミステリー短編集、おすすめいたします。(*^▽^*)