2023年9月のテーマ
「月といえば…な本」
第一回は、
「月の立つ林で」
青山美智子 著、
ポプラ社 2022年発行
です。
2023年本屋大賞ノミネート作品。
作者の青山美智子さんの作品は、2021年、2022年にも本屋大賞で2位に選ばれたとか…今、旬の作家さんのようです。
たまたま貸してくださった方がいらっしゃったので、私にしては珍しく最新作の部類の本を読む機会になりました。
作品のことも作者のことも全く知らず、普段あまり読まない現代小説ということで、正直、それほど期待せずに軽い気持ちで読み始めたのですが…良かった!
こういう驚きをもらえる本との出会いが、読書って楽しい!!と思う原動力かもしれません。
それはさておき今回は、あらすじというか、作品の説明をしながら感想も書いていこうと思います。
この作品の何がいいのか、うまくエッセンスを抽出して説明することが私には難しいからです。
長いこと勤めた病院を辞めた元看護士、夢をあきらめきれない売れない芸人、娘の結婚により家族関係の変化に戸惑う二輪車整備工場経営者、早く家を出て自立したいと願う女子高生、家庭と仕事のバランスについて悩むアクセサリー作家、、、という五人の主人公の目線で描かれた短編小説集…のように構成された一つの物語です。
年齢も立場もばらばらの主人公たちは、それぞれに悩みを抱えています。
とびきり深刻で今すぐに全力で対処しなければ破滅するというような悩みではないけれど、自分の人生の方向を決めるための決断だったり、行動を起こす勇気を奮い起こすためにはどうすればいいのかというような、誰もが抱えた経験がある"自分の気持ちと向き合うが故の悩み"をです。
主人公たちはちょっと人生につまづいているなというタイミングで、ポッドキャストの「ツキない話」という配信を聞いています。その配信はタケトリ・オキナという男性が月にまつわる雑学を披露するというもので、「竹林からおとどけしています。かぐや姫は元気かな?」という言葉が毎回添えられています。(手元に本がなく、言葉の細部が違っていたらごめんなさい。)
月についての雑学は、主人公たちの悩みを直接解決するものではないけれど、彼らは、配信者がどんな人なのか想像したり、配信者の月に対する興味・情熱を感じたりと思い思いに心を寄せています。
何気ない日常の風景の中で、それぞれが足搔いて生きていて、配信を通じて"しゃべったこともなく名前も知らない人"と緩やかに繋がっているという感覚を持っている…。
とても現代的です。
今を生きる私たちには共感できる部分が多いと思います。
そして、最後まで読んだとき、私には一つ一つの別々の物語が緩やかにまあるく繋がっていると感じられました。
"月"を中心にして。
この物語にはとても優しい印象を受けました。
現代では、リアルな人間同士のつながりのほかに、ネット上でゆるくつながった人間関係というものがあります。
昔より人間関係が希薄になったとか、リアルの人間関係でコミュニケーションをとるのが苦手な人が増えているとか、ニュースや記事で書かれているのを読んだりすると、リアルに人とうまく付き合えていないと感じた時に、私はすごくへこんでしまいます。
しかし、この作品ではゆるいネット上のつながりが温かく心に作用して、主人公たちの葛藤を突き破る一助になっているように感じます。見ず知らずの人のちょっとした行動が自分に勇気をくれたり、落ち込んでいる気持ちを和らげてくれたりする。
世界は優しいと感じられる物語だと思いました。
月、のモチーフにかぐや姫や竹取の翁は日本人特有かなと思いますけれど、"月"が徹底して作品の象徴になっているところが美しいなと思いました。
月は常に満ち欠けを繰り返し形を変えているので、「人生には浮き沈みがある」という意味でも物語の象徴としてぴったりでした。
おすすめいたします。(*^▽^*)