2023年8月のテーマ

「熱い勝負を体験できる本」

 

第一回は、

「マルドゥック・スクランブル」[改訂新版]

冲方丁 著、

早川書房 2010年発行

 

 

 

です。

 

ハヤカワ文庫で刊行されているSF小説「マルドゥック・スクランブル」(第24回日本SF大賞受賞作品)…のシリーズ三冊分をまとめて大幅に加筆修正したバージョンの本です。

 

「マルドゥック・スクランブル」は賞を取ったタイミングでなのか、それ以前だったのか、記憶は定かではありませんが、本屋さんで常に平積みされているのを目にする本でした。(私がまだ頻繁に本屋さんで新刊をチェックしていた頃なので、かなり昔の話です…。)

表紙の絵が少女がロボットのパイロットが着るようなぴったりしたスーツを着て背景にメカ(?)がある絵柄だったので、SF小説に興味のなかった私は、「ガンダムみたいなロボットに少女パイロットが乗る話なのかな」と勝手に想像していました。

そのまま手に取るきっかけもなく十数年…(もっとかも)。

少しはSF小説も嗜むようになり、ブログで書いたりもするようになったタイミングで図書館で[改訂新版]を発見して、読んでみるに至りました。いやー、人生ってわからない。

興味がない時は自分にとって縁がないものでも、きっかけとタイミング次第でこうやっておすすめしたいと思うようになるとは。

 

前置きが長くなりましたが、あらすじを…。

貧富の差が激しい弱肉強食の世界で、少女バロットは権力者でギャンブラーのシェルに罠にかけられて命を落としかけるが、シェルの犯罪を捜査する捜査官イースターとネズミ型万能兵器ウフコックに助けられ、一命をとりとめる。

彼女はその結果手に入れた高度な電子干渉能力(スナーク)とウフコックの能力を使い、イースター達と協力してシェルの犯罪を追うことになる。

一方、シェルの方も委任事件担当捜査官ボイルドを雇い、バロットを消そうと目論む。

 

 

…というわけで、ロボット関係ありませんでした。

我ながら偏見はいけませんね。

といっても、すべての本のあらすじをチェックするわけにもいかないので、今後もこう言った勘違いで損しちゃってるなってことあるんだろうな。

 

ともあれ、バリバリのSF小説で用語やなんかが私にとってはついていくのが大変でした。

ただ、すっごく読むの疲れたけど、すっごく面白かったです。

 

まず、バロットが能力を手に入れて自身のためにも戦う決意をするまでの境遇が壮絶です。

SFだからとか関係ない。

自分の生命が脅かされている以上、戦うしかないところまで追い詰められているのだから、腹をくくるしかない。

アクション映画なんかでもこういうシュチュエーションありますけど、この小説ではそれがただ戦うための理由付けに感じられないのです。主人公に肩入れしたくなってしまいました。

お話が進んでいく中で、いくつものピンチを潜り抜けて主人公が成長していく様子が描かれていますが、極限状態の必死さというものが常に傍らにあるような感じがして、強くなっていく主人公を見ているのに、私はちょっと哀しい気持ちになったりもしました。

 

また、ボイルドとの戦闘シーンやカジノで大金をかけた勝負するシーンがあるのですが、どちらも緊迫感とドラマが織り交ぜられていて、読んでいて息詰まる展開が熱いです。

戦闘シーンにしろ、カジノでの勝負にしろ、文章でその緊迫感を伝えるのはとても難しいことだと思います。

それらをものすごい緊張感で描き切ってあるのがこの作品のすごいところだと私は思います。

(SFとしてのすごさは私にはわかっていないと思いますので、発言内容が薄いのはご容赦を。)

 

ちなみに、カジノのシーンは長いので、私は集中力が続かなくて休み休み読みました。

ギャンブルの場面は知らないことが多すぎて読みながらの理解が追い付かなかったのと、ずっと緊張していられなかった、というのが主な理由です。

もともと三冊分を一冊にしたそうなのでそもそも長いし、情報量がすごく多いので疲れてしまいました。

その上、この緊迫感!

疲れるけど見逃せない。

主人公の必死の戦いがそこにあるから。

 

この物語の根底には哀愁が漂っています。

どこかハードボイルド小説のようなSF小説だなあと私は感じました。

というわけで、「熱い勝負を体験できる本」としておすすめいたします。(*^▽^*)