2023年5月のテーマ

「衝撃を受けた第一巻」

 

第二回は、

「愛からはじまるサスペンス」

藤本ひとみ 著、

集英社コバルト文庫 1985年発行

 

 

 

 

 

です。

 

1980年~90年代にコバルト文庫で大人気だった<漫画家マリナシリーズ>の第一作目です。

 

作品の説明の前に、ちょっと当時のコバルト文庫について書きたいと思います。

ライトノベルの先駆け的なティーンズ向け(主に中高生女子)の文庫で、当時は講談社が発行していた"ティーンズハート"という文庫とコバルト文庫が二強でした。

私が中学生の頃に読んでいたのがティーンズ(女子)向けのものばかりだったので、ライトノベルの文庫はほかにもたくさん種類があったのでしょうが、知りませんでした。後に「アルスラーン戦記」やガンダムのシリーズ、今回おすすめする作品の作者・藤本ひとみさんが少年向けに書かれた、カズマという高校生がタイムスリップするシリーズなんかを別のライトノベル文庫で読んで、このジャンルがすごく広い世界だということを知りました。

 

それはさておき、当時のコバルト文庫は毎月10冊近くの新刊を出していて、人気作家の作品は大体三、四か月に一度は出版されていました。その中でも藤本ひとみさんはたくさんのシリーズを抱えた大人気作家さんで、冒険、謎解き、歴史ロマン、そしてイケメンとのロマンスとサービス精神旺盛な作風で一世を風靡していました。

 

中でも一番人気だったのが今回おすすめする<漫画家マリナシリーズ>です。

先に挙げた要素をすべて含み、かつ、主人公マリナの一人称で進むストーリーは読みやすく、毎回彼女を助けてくれる相棒としてイケメンが登場するので、当時の読者は大体そのうちの誰かを推してました。

また、毎回作品のテーマがガラッと違っていて、ある時はローマ時代にタイムスリップする話、またある時はかつての同級生に頼まれていじめを解決するために全寮制のお嬢様学校に潜入する話、フランスの富豪の家で起こる殺人事件の話…など、非日常的な舞台でおなじみの主人公がコミカルかつ一生懸命に事件に取り組むのが楽しいシリーズでした。

 

その<漫画家マリナシリーズ>の第一作である「愛からはじまるサスペンス」

主人公マリナは17歳の売れない漫画家。漫画のネタを探して行った先で男装の麗人・響谷薫と再会し、バイオリンの名器ガダニーニの演奏をめぐる事件に巻き込まれていきます。事件は楽器のすり替えや殺人事件にまで発展。スリリングなミステリー作品です。

 

私がこの作品を最後に読んだのは20代後半のことでした。中高生の頃は大好きだったコバルト文庫も読まなくなって久しい頃、実家にしまってあったこのシリーズを見つけて懐かしさのあまり再読したのです。

主人公マリナの一人称語りの文体が、大人になってから読むとなんだか子供っぽく恥ずかしくも感じたのですが、改めて読むとストーリーに驚愕しました。

 

まず、重い。10代の子たちが読むには話が重すぎでしょ。なんで当時気にならいで読んでたんだか不思議でなりませんでした。まるで火曜サスペンス劇場みたいな展開。マリナの口調がだいぶ内容を和らげてるけど、結構ドロドロしてるぞ、これ。

自分が大人の視点に立つようになったからこそ、気になってきちゃったのかなと思いました。

また、この作品には悲哀も感じられるんですが、それも火サスっぽいなーと思ったり、以前よりも強く悲哀を感じたりもしました。

中高生の頃は正直ミーハーな気持ちで買い集めて読んで楽しんでいたのですが、大人になってから読むと作品の奥まで読めるようになったのか…侮れませんでした。

 

そもそも、藤本ひとみさんの作品からは、歴史のエピソードや、絵画の技法、日本文化など、中高生の頃にも学ぶことが多かったです。

というわけで、今回この作品を取り上げた理由は、"中高生のときには気づかなかった、事件の内容が重すぎる衝撃"を私がその後もずっと忘れられなかったからです。

 

考えてみれば、子供はそんなに気にしていないけど、大人からするとちょっとこの作品の表現は…ということは今も昔もたくさんありますよね。

最近のアニメは、ちょっとグロい描写が多くて、子供に見せたくないなーなんて私も考えてしまうのですが、自分が子供のころに観ていた「北斗の拳」だって相当グロかったし、うちの子供は絵を見ただけで怖いと言っていたりします。

絵が可愛ければグロい描写がオッケーってわけではないのですが。

 

案外、成長過程で少しずつ耐性をつけている段階では、大人の視点であれもダメこれもダメと純粋培養しなくてもいいのかもしれませんね。あ、もちろん、規制は必要です。大人でも不快な過度な描写は子供にとってもいいものとは思えませんので。

 

私の大好きなクリスティーの作品だって、基本的には殺人事件の話で、捜査の過程で関係者の嫌な一面が暴かれていくわけで、はっきり言ってドロドロしてます。ただ、海外の、一昔前を舞台にしたものなので、ちょっと身近ではなく、自分とは距離を置いて読めるお話ではあると思います。そういうところがドロドロ感を和らげているのかもしれません。

 

というわけで、今回は作品に関する記述が少なめでしたが、今でも忘れられないインパクトがあった作品です。

古本でしか手に入らないかもしれませんが…おすすめいたします。(*^▽^*)