2022年9月のテーマ
「山村美紗再発見!」
第三回は、
「京都・十二単衣殺人事件」
山村美紗 作、
2005年発行、講談社文庫
です。
まず、この本は1992年に光文社文庫として刊行された本です。
講談社文庫で刊行されたのが2005年。山村美紗さんが62歳で亡くなったのが、1996年。
作者の死後9年経ったこの時期には、まだ紙の本で山村美紗作品は発行されていたということを知った一冊でした。
それはさておき、作品のお話にまいりましょう。
この本は名探偵キャサリンシリーズの短編集になっていまして、主人公のキャサリンと浜口一郎のコンビによる謎解きというのが、まずシリーズのファンには嬉しいところだと思います。
私にとっては、初の山村美紗の短編集ということで、長編小説で二時間ドラマのように盛りだくさんの展開を得意とする作者が短編を書いたときにどうやってコンパクトにお話をまとめているのかがとても気になり、興味深く読んだ作品でした。
全部で6篇の短編が詰まっているのですが、どれもトリックが工夫されていて、短編だからといってミステリーとして長編よりも見劣りするというようなことはありませんでした。
短編にするにあたって、工夫されているな~と感じたことがいくつかありましたので、ちょっと挙げてみたいと思います。
一つ目は、「1篇辺りの殺人数が少ない」ということ。
長編のときのように、次々と関係者が殺されるという展開は紙数的に無理ですからね。
二つ目が、「推理する段階で、容疑者が大体3,4人に絞られている」ということ。
長編でもこれは良くありますが、後から思いもかけない人物が共犯者として浮かび上がったり、容疑者の関係者を調べたりと捜査対象が広がっていくなんてことも長編ではできます。
短編では最初に挙がった容疑者の中で、誰が犯人かという流れになっていて、「名探偵コナン」と同じ方式だなーと思いました。これもコンパクトにまとめる工夫ですよね。
三つ目が、「盲点をついたトリックをスピーディーに暴くので、解決が長編よりも鮮やかに感じる」ということ。
短編だからこそ、ミステリーの持つパズル的な要素が際立つということを、すごく考えてお話を考えているんだなあと感じました。
三つとも、特に山村美沙さんだからやっているということではなくて、短編でミステリーを書こうとするとどれも必要なことだと思います。
しかし、長編であれだけストーリーに凝り、トリックに趣向を凝らし、京都の魅力も満載に詰め込んだ作品を得意とする作者が、短編でも鮮やかなミステリーを披露しているのを見事といわずしてなんと形容すればよいのかわかりません。
しかも、短編の中でもさりげなくお話に絡めて京都の観光地や鴨川の料亭などを描き、京都の魅力を作品に取り入れることをちゃんとやっています。自身の作風を変えることなく、短編でもその長所を活かしているのです。
私は基本的に長編小説が好きなので、短編は物足りなく感じてしまうことが多いのですが、この短編集に関しては、山村美紗ミステリーのファンの方に是非読んでいただきたいと思いました。
おすすめします。(*^▽^*)