2022年9月のテーマ

「山村美紗再発見!」

第二回は、

「京都大原殺人事件」

山村美紗 作、

1987年発行、新潮文庫

 

 

です。

 

前回はシリーズ物の一冊でしたが、今回はシリーズ外の長編です。

京都・大原の旧家水尾家の嫁である悠子と知り合った主人公の名木麻由子は、京都旅行の際には立ち寄ってと招待されて水尾家に泊めてもらいます。水尾家は一族の名がすべて百人一首からとられており、過去に何度も家族が事故で亡くなっているといういわくつきの家でした。そうとは知らず軽い気持ちで泊めてもらった麻由子でしたが、その夜家族の一人がなくなったのを皮切りに、呪われた家で次々と殺人事件が起こっていきます。

 

まだ5,6冊しか山村美紗ミステリーを嗜んでおりませんが、この本は今まで読んだものとちょっと毛色が違うと感じたので今回取り上げてみました。

 

山村美紗さんのミステリーといえば、主に京都を舞台に歴史や文化、古い風習、グルメなどもふんだんに紹介しつつ、次々と起こる殺人事件、一筋縄ではいかないトリック、と読者を飽きさせないサービス満点のミステリーだと思います。

「京都大原殺人事件」では、それに加えて"呪われた一族で次々と人が死ぬ"という横溝正史作品のようなシュチュエーションが一風変わった演出になっていると思います。

 

この本が出版された昭和後期に、大きな家に家族と親せきが一緒に住み、住み込みの使用人までいるなんてお話は全然一般的ではありません。にもかかわらず、ミステリー小説の世界ではこういうシュチュエーションの話が今でも少なくはないと思います。

個人的には横溝正史さんの作品の影響が大きいのではないかと思っています。

 

山村美紗さんの小説は舞台が京都という古いものを大切に継承していく街であるのに、現代的な主人公がミステリーを解決していくというイメージが強かったので(主にキャサリンのイメージが影響しているかもしれませんが)、"伝統"というポジティブな意味での古さを感じることはあっても、"旧態依然"というネガティブな意味での古さを作品を通して感じることは今までありませんでした。

 

しかし、この作品の舞台になっている水尾家はまさに"旧態依然"とした家で、人間関係も複雑。現代人の感覚からすると異様な家です。本当に横溝正史の「犬神家の一族」とか「悪魔の手毬歌」の舞台みたい。

そこに居合わせてしまった主人公は普通の大学生で失恋の痛手を癒したくて京都に一人旅で来たという設定で、新しいラブロマンスも進行していったりと、ストーリーの方も気になる展開が楽しめます。

私が知らないだけで、こういった旧家を舞台にした山村ミステリーが実はたくさんあるのかもしれませんが、前回の「花の棺」とはまた違った雰囲気の作品もあるのだということで、おすすめいたします。(*^▽^*)