2022年9月のテーマ
「山村美紗再発見!」
第一回は、
「花の棺」
山村美紗 作、
1986年発行、光文社文庫
です。
私が見つけて読んだ本は、この光文社文庫を底本として発行された、<大活字シリーズ>のものとなります。
この<大活字シリーズ>というのは、「社会福祉法人 埼玉福祉会」というところが出版していて、小さい字では本が読みづらいという方に向けて、名作の文庫本などを底本に大活字で本にしたというものです。
発行数は限定500部。図書館に置いてあります。
シリーズには、池波正太郎、松本清張、司馬遼太郎などの人気作家の作品がそろっています。
私が普段通っている図書館では<大活字シリーズ>の山村美紗作品は『鳥獣の寺』しかみたことがないのですが、他の図書館で見つけた「花の棺」が今月のテーマを決めさせたと言っても過言ではありません。
大量に出版されているわけではないシリーズなので、やはり作品が厳選されている!
すごくすごく面白かったです。
さてと、あらすじはと言いますと、来日したアメリカ副大統領が連れてきた娘のキャサリンは、アメリカで見た生け花展をきっかけに日本で生け花を習いたいと希望しています。そのため、副大統領の訪問が終わった後も日本に残り、生け花を習うことにします。
そこで、生け花の各流派が彼女を弟子にしようとアピール合戦を繰り広げます。三大流派の家元たちが作品を披露したり、大きな生け花のイベントに招待したりする中で、殺人事件が起こって、キャサリンと日本でのエスコート係の青年・浜口の二人は事件へとのめりこんでいきます。
事件の間隔に規則性があったり、密室殺人の謎や、死体移動のトリックなど、これでもかと次から次へと謎が提供されるうえ、生け花の流派間の権力争いなど人間関係でも盛大にもつれた糸を解きほぐしていかねばならず、読者を退屈させない作品でした。
また、ストーリー、トリックの両方が凝っているだけでなく、主人公のキャサリンがとにかく魅力的で良いです。
私はこれまで山村美紗さんの作品をほとんど読んだことがないので、どちらかというとテレビの二時間ドラマのイメージの方が強いのです。
みたことあるのはほとんどが片平なぎささん主演の<赤い霊柩車シリーズ>。
でもテレビシリーズでかたせ梨乃さんがキャサリン役をやっていたことくらいは知っています。
大抵ドラマの途中から観ていたので、「日本人なのにキャサリンなんだ~。ハーフなのか、ニックネームなのかな~。」と疑問に思いつつも、謎解きにはそこが重要ではないのでスルーしていました。
しかし、小説を読んでみると、キャサリンは金髪のアメリカ人で、行動派の美人。
日本の文化に興味があるけれども、日本人ではないので、日本人が常識と思っていることが彼女にとっては不思議。
そこが着眼点の違いを生み、事件解決の糸口となる…というわけで、アメリカ人である必然性がちゃんとあるんです。
相棒役の浜口青年は外務大臣の甥でアメリカに留学経験があり年も近いということで、来日中のキャサリンのエスコート役に選ばれます。日本の事情をよく知らない彼女にそのあたりを解説する役割とみえて、自己主張の少ないキャラクターだなーと思います。
ただ、女性からすると、知的で気遣いができ、やりたいことを制限したりしない(キャサリンは行動派なので)、スマートなエスコート役なので私としては好ましい印象をもてるキャラクターでした。
キャサリンのイメージは森博嗣さんのS&Mシリーズの主人公・西之園萌絵に近い感じです。(森作品の読者でない方にはわからないですよね。すみません。)
二十歳前後の美人でお嬢様。行動的で殺人事件となると積極的にかかわっていく。自分で実験したり、聞き込みをしたり、刑事さんにも連絡したり。普通なら図々しいと嫌な顔をされそうなものだけど、チャーミングで気遣いもできる社交的なタイプで容疑者たちの懐に入るのが得意。
他の山村美紗作品を2,3冊読んでみましたが、今のところ、キャサリンが一番キャラが立っていて魅力的でした。
この「花の棺」はキャサリンシリーズの一作目にして、作者のデビュー後二作目の長編小説だそうで、解説で知ったときには「デビュー二作目でこのクオリティですか!」と驚きましたし、シリーズの他の作品を読みたくなってしまいました。
最後にもう一つ。
私が読んだ本の解説で、山村美紗さんのことを"日本のG・K・チェスタートン"と評してあったのですが、私は"日本のクリスティー"だと思っていたのでちょっと驚きました。
ちなみにG・K・チェスタートンは1900年代初頭にデビューし活躍したイギリスの推理小説家で、ブラウン神父シリーズの作者です。トリックの創案にかけては推理小説界随一という評判の作家だそうで、山村美紗さんがトリックメーカーとして名を馳せていたことからそう呼ばれていたようです。
私はブラウン神父シリーズは本で読んだことはありません。しかし、イギリスBBCのドラマ「ブラウン神父」を字幕版で観ていまして、これもまた面白いです。
最後の最後で脱線してしまいましたが、キャサリンシリーズ第一作「花の棺」、おすすめです。(*^▽^*)