2022年9月のテーマ
「ちょっと古典文学」
第三回は、
「三銃士(上)(下)」
デュマ 作、生島遼一 訳、
1970年発行、
2008年 49刷 改版
岩波文庫
です。
今までに日本でもアニメになったり人形劇になったりして有名なフランスの小説です。
作者のアレクサンドル・デュマは1802年フランスに生まれ、小説や戯曲をたくさん世に生み出しました。
別名"大デュマ"と呼ばれています。
ナポレオン軍の将軍だったお父さんの名も"トマ=アレクサンドル=デュマ"というのでややこしいのですが、"大デュマ"という呼び名がお父さんと区別するためのものなのかは不勉強な私にはわかりません。
作者の代表作「三銃士」は実は三部作の第一作目で、「二十年後」「ブラジュロンヌ子爵」と合わせて「ダルタニヤン物語」と呼ばれるようです。
「三銃士」はガスコーニュの田舎から立身出世を夢見てパリへ出てきた青年ダルタニヤンとアトス・ポルトス・アラミスの三人の銃士たちとが友情で固く結ばれ、彼らを主人公に、王宮の権謀術数や恋愛も絡めた冒険活劇の物語です。
この四人が剣を合わせて団結を示す名文句『ひとりはみんなのために。みんなはひとりのために。』は、アニメや映画なんかで象徴的なシーンとしてよく登場するんですが、私が読んだ本の中にはズバリこの訳どおりのセリフは見当たりませんでした。
同じような意味の言葉、「俺たち四人は何をするにも一緒さ」みたいなセリフは確かにチラホラ出てくるんですが、剣を合わせて宣言するというようなシーンは見つけられず…。
今日では日本語の翻訳であの名文句が定着しているのはなんでなのかなー。
元々フランス語でなんて書いてあるのかわからないので、何とも気になるところでした。
それはさておき、「三銃士」の舞台は1620年代、ルイ13世の時代です。
この作品が書かれたのは1844年で、この頃は歴史小説が流行っていたようです。
実際の史実にたっぷりフィクションを絡めて恋と冒険と友情を描いて大ヒットした作品なのです。
ちなみに、主人公、ダルタニヤンは実在の人物らしいです。
史実のダルタニヤンはルイ14世時代に活躍した武人で、同時代人のクールチルスという人が当人の死後30年くらい経って「ダルタニヤン回想録」という『回想録風の小説』を書いたものをデュマが素にして「三銃士」が出来上がったそう。
クールチルスという人は『回想録風の小説』を他にも書いているらしいですが、彼が生きた時代の歴史的挿話を色々と盛り込んで波乱万丈の物語を創作したようで、「ダルタニヤン回想録」にはアトス、ポルトス、アラミスという名も出ているとか。
(この辺りのことは岩波文庫「三銃士」(下)のあとがきに書いてあります。)
私は子供の頃に「アニメ三銃士」を観て、おぼろげながらだけど「わんわん三銃士」も記憶にあり、2009年のNHK教育テレビで放送されていた三谷幸喜脚本の「連続人形活劇 新・三銃士」、海外ドラマの「マスケーティアーズ/三銃士」…と結構いろんな映像化された三銃士を観てきたのですが、原作を読んだことは一度もありませんでした。
たくさんの「三銃士」それぞれに違いがあって、例えば、「アニメ三銃士」のアラミスは女性でしたし、「連続人形活劇 新・三銃士」のルイ13世は少年でした。
設定がいろいろなので、原作ではどうなっているのかなあと気になっていたのですが、如何せん長すぎて読む気力とタイミングがなかなか合わなくて、いつかいつかと思っていましたが、やっと最近読むことができました。
で、原作を読んでみて一番イメージがひっくり返ったのが、ミレディー。
ダルタニヤンたちと敵対関係になるリシリュー枢機官の懐刀ともいえる女スパイで、陰謀の裏でいつも暗躍している美貌の女性です。
アニメやドラマでは敵ながらカッコいい描かれ方をされていることも多く、子供心にルパン三世の不二子ちゃんみたいなイメージだったんですよね。
ダークなキャラクターなので、妖艶な美女で髪の色も暗い色か情熱的な色といったイメージでした。
(「アニメ三銃士」では青緑みたいな色、「連続人形活劇 新・三銃士」では赤毛でした。)
それが原作だと金髪で26歳。
自分の魅力を知り尽くしていて天使のように見せることも上品な伯爵夫人に見せることもでき、凶暴な顔も持っている。何より悪そのもののような行動の数々が明らかになって、私の中の"かっこいい女スパイ"像は崩れました。
読んでいる最中はどこかでミレディーのとった行動の理由(例えば悲しい過去とか)が出てくるに違いないと期待していたのですが、そう都合よくはいきませんでした。
前半は海外ドラマの「マスケーティアーズ/三銃士」が一番原作に忠実だったように感じます。
このドラマも途中から原作とは違う方向に物語が向かっていくのですけどね。
何度も映像化されて、原作とは違うそれぞれの"三銃士"が描かれている。
それもある意味すごいことだと思います。
シャーロック・ホームズでも同じようなことが起こっていますし。
でも、というか、だからこそ、一度原作を読んでみてよかったと思います。
皆さんも、一度はどこかで「三銃士」の物語に触れたことがあるんじゃないかと思います。
一度原点を確かめてみるのも面白いと思います。
おすすめします。(*^▽^*)