2022年3月のテーマ

「コーヒー×ミステリーな本」

第二回は、

「ブラック・コーヒー[小説版]」

アガサ・クリスティー 作、 チャールズ・オズボーン小説化、

中村妙子 訳、

クリスティー文庫、2004年発行

 

 

です。

※早川書房さんのサイトで検索してみたところ、現時点では新訳版は出版されていないようです。

 

アガサ・クリスティーが書いたエルキュール・ポアロ物の推理劇、戯曲だったものの小説版です。

クリスティーの戯曲を別の作家さんが小説化したものですが、戯曲形式よりも小説の方が好きなのでこちらをおすすめさせていただきます。

 

元が戯曲なので舞台の場を意識した構成の物語になっています。

具体的に言うと、物語のほとんどの場面が、とあるお屋敷の読書室(お客がくつろげる部屋で主の書斎に通じるドアや庭に出られるフランス窓がある)になっていて、そこに新たなシーン(例えばポアロのところに依頼の電話がかかってくるとかちょっとした散歩のシーンとか)が加えられたのかなーという感じになっています。

戯曲版の方も読んだことあるし持っているはずなのですが、何故か見つけられず今回は比較できませんでしたので、あやふやな表現になっております。お許しを。

 

さて、内容の方ですが、爆発物の研究をしている著名な科学者からポアロに、研究の要となる化学式を何者かが盗もうとしているのでこの機密を国防省に渡す役を引き受けてほしいと依頼があり、彼の田舎の屋敷へ赴くことになります。

科学者の家には秘書や息子夫婦、妹親子、外国人の客などが集まっており、食後のコーヒーに毒が…というお話。

 

元が舞台で演じられることを前提に書いたものなので、観ている人に観ていてわかるヒント(おかしな動き)を与えるよう意識したんだろうなとわかる文章になっています。

例えば物の位置を細かく書いていたりだとか、コーヒーカップを誰が誰に手渡してどこに置いて…というような動作だとか、いつものクリスティーの小説ならさらっと書いてあるようなことが詳しく書いてあるなあという印象です。チャールズ・オズボーンさんが元の作品をなるべく忠実に小説化しようとされたためでしょう。

 

ストーリーの方は、ポアロ物らしさがちゃんとあって、ただポアロを使った推理劇になってしまっていないところがさすがだと思います。

かつて、クリスティーの小説はメロドラマ的だという批評が多くあったそうですが、演劇はメロドラマ的なものだと思いますし、相性良かったのでしょうね。

クリスティーの戯曲は他の作品も読みましたが、舞台を想像しながら読めてどれも面白かった記憶があります。

でも小説派の私が戯曲の作品も読もうと思ったきっかけは、「ブラック・コーヒー[小説版]」を読んで戯曲版も読んでみたいと手に取ってみたから。(私は小説が好きなので、普段はあまり戯曲は読みません。たまーーーにシェイクスピアの作品とかは読みますけども。)

 

表題の「コーヒー×ミステリー」の作品として「ブラック・コーヒー」が思い浮かぶのはタイトルのせいもありますし、戯曲でありながら小説版もあってクリスティーの新たな面を見られた作品であったことも関係しています。

 

また、コーヒーは苦みがあって味の濃い飲み物なので、ミステリーの作品では毒物の味をかき消してばれにくくする飲み物として登場するイメージが私にはありました。

お茶に毒、よりもコーヒーに毒の方が犯人の心理としては安心できるのかもしれないと思っていたのです。

この作品ではコーヒーに毒が入れられ、飲んだ人間は「今夜のコーヒーはばかに苦い」なんてことを言っています。

私の中の"コーヒーに毒"の典型的なパターンの作品だったのです。

 

もっとも、クリスティーの作品で飲み物に毒(もしくは薬物)というとパターンは多岐にわたたります。ワインなどのアルコールだったりお茶だったりコーヒーだったり…。私の中の"コーヒーに毒"のイメージがいったいどこでインプットされたものなのか全くわからないのですが、ひょっとしたらテレビの刑事ドラマとか他の作家さんの作品だったりするのかもしれませんね。

 

戯曲版と小説版の二つのバージョンがあるこの作品。

早川書房のクリスティー文庫で、戯曲の方も出版されているので、ご興味ある方は読み比べてみてはいかがでしょうか?おすすめいたします。(*^▽^*)