2021年12月のテーマ

クリスマスにはクリスティーを!

第三回は、

「ポアロとグリーンショアの阿房宮」

アガサ・クリスティー 著、羽田詩津子 訳

ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 2015年発行

 

 

 

です。

 

この本は近年になって発見されたクリスティー作品、幻の中編です。

この作品の長編版が、1956年発表のポアロ物、「死者のあやまち」です。

 

 

 

 

あらすじとしては、田舎のお屋敷で犯人捜しゲームが行われ、被害者役の女の子が本当に殺されてしまう、というもの。

さらに、屋敷の持ち主の夫人も行方不明になり、ポアロの友人である推理小説家のアリアドニ・オリヴァがゲームの筋書きを担当した縁からポアロが事件の捜査にのりだします。

 

まず、このお話の舞台となった田舎屋敷が実際に存在するアガサ・クリスティーが休暇を過ごした別荘をモデルにしています。

現実に存在する人物や場所をクリスティーがモデルとして作品を書くことは少なく、それだけに貴重な作品だと思います。

現在はナショナルトラストが管理していて一般の人が見学できるようになっているとか。

是非とも一度行ってみたい場所です。

 

内容としては中編も長編も基本同じになりますが、もともと教会のチャリティーのために中編が執筆されていたものの、事情があって出版できず、後にこの中編を原型とした長編が生まれたという経緯があります。

両者の間に差が少ないことは、中編を執筆した段階で物語として完成していたことがうかがえます。

 

私は大体において長編が好きなので、前回、前々回と長編作品を推してまいりましたが、今回はやはり幻の中編の方を読んでいただきたいと思います。

「死者のあやまち」は大変面白い作品ですし、長編になって肉付けされている部分というのがもちろんあるのですけれど、先ほども述べたとおり、中編の時点で完成形といっていい物語なので、そこを味わっていただきたい。

そして何よりも、リアルタイムでクリスティーの作品を読むことができなかった世代が、新しく発見された未発表の作品を読めるという幸運に感謝したいです。(なにせ、リアルで読んでいた世代が目にしたことのない作品なわけですから。)

アガサ・クリスティーの残した資料が発見、整理されていく中で、他にも未発表の作品というのはまだあるようなので、作家の意志に反していない範囲で今後も我々が読む機会に恵まれたらいいなあと思っています。

 

というわけで、新たに発見された中編「ポアロとグリーンショアの阿房宮」、おすすめいたします。(*^▽^*)