2021年11月のテーマ
「感情が揺さぶられた戦争ノンフィクション」
第二回は、
「戦場のピアニスト」
ウワディスワフ・シュピルマン 著、佐藤泰一 訳
春秋社 2003年発行
です。
ポーランドのピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン氏の戦時中の体験記です。
ナチス・ドイツのポーランド侵攻によりユダヤ人ゲットー(ユダヤ人居住区)へ強制移住させられ、家族はバラバラに。ポーランドでのユダヤ人迫害にさらされた筆者の体験記は、日本で2003年公開の映画、「戦場のピアニスト」の原作となりました。
ロマン・ポランスキー監督、エイドリアン・ブロディ主演のこの映画は、戦争の残酷さや迫害されたユダヤ人たちのそれでも持ち続けた誇り、逞しさと、悲しくも美しいピアノの旋律の対比が見事で、私の心に深く刻まれた映画でもあります。
元々映画の方を先に観て、原作を後から買って読んだのですが、映画は原作にほぼ忠実だったと記憶しています。(今原本が手元にないので確認不能です。)
本と映画の違いとして私が感じたのは、本の方は"本人の言葉"で綴られているということです。
直接本人の言葉を読むと、重みが違いますし、映画では何気ないシーンとして描かれていた場面も、本人にとってはこんな意味を持ったシーンだったのかと気づかされたりしました。
また、原作の本は戦争直後のポーランドで「ある都市の死」という題名で1946年に刊行されたそうです。その後ポーランド政府によって絶版となり、再版も妨害にあってポーランド国内外で長きにわたり復刊されることがありませんでした。
1998年、シュピルマンの息子、アンジェイ・シュピルマン氏の尽力でドイツにおいてドイツ語版が出版され、日本版は2000年に刊行されました。当初のタイトルは「ザ・ピアニスト」だったものを、映画公開に合わせて改題したものが、今回のおすすめ本です。
戦後すぐに、当事者によって発表された体験記ということで、本当に生の声が聞ける本ではないかと思います。
ちなみに、当時、映画を観た後にもう一冊関連本を読みましたので、こちらもおすすめしたいと思います。
こちらの本は、シュピルマン氏の息子、クリストファー・ウワディスワフ・アントニ・シュピルマン氏が書いた本です。
日本人の妻と結婚し、自らも日本の近代思想史を研究する歴史学者で、この本も日本語で書かれました。
息子の視点から見た、父・ウワディスワフ・シュピルマンの物語が綴られており、戦後彼がどのような生涯を生きたか興味のある方におすすめです。
読後二十年近く経っていますが、今も忘れられないエピソードとして、父シュピルマン氏は当時の男性としては遅い40歳くらいで結婚したこと。息子たちに音楽家になることを強要しなかったこと。クリストファーが15歳のときピアニストになりたいからレッスンしてくれと頼んだとき、もう遅すぎると言われたこと、なんかがあります。
戦時中に20代で、戦争が終結してから何年もたってから結婚したという話は、戦争が彼に及ぼした心の傷は大きかったんだろうなと読んだ当時に思った記憶があります。
また、子供には自由にさせていたということと、自らは音楽と真摯に向き合っていたのだろうなということも、彼の人物像を知りたいと思っていた私にとっては、興味ある情報でした。
これら二冊の本と映画を通じて、私は一時期ウワディスワフ・シュピルマンという人物の体験した戦争とその後の人生に思いをはせていました。
映画で描かれた、廃墟を背景に奏でられる旋律の美しさに感動したのかもしれません。
きっかけはそんな単純なものかもしれません。
しかし、20年近くたっても心の中に残っている映画であり本たちなのです。
これらの作品をご存じの方にも、ご存じでない方にも、是非ともおすすめしたいと思います。(*^▽^*)