2021年9月のテーマ
「空を感じる本」
第二回は、
「夜間飛行」
サン=テグジュペリ 作、二木麻里 訳、
光文社古典新訳文庫、2010年発行
です。
サン=テグジュペリはフランス生まれの飛行士であり、作家。「星の王子さま」の作者としても有名です。
「夜間飛行」は1931年に作者が31歳のときに出版された作品で、長編の二作目となります。
作者が生きた時代、飛行機はまだまだ危険な乗り物でした。生涯現役の飛行士だったサン=テグジュペリは、自らの経験をもとに小説を書いており、「夜間飛行」でも飛行中の描写や航空会社の業務など、当時の様子をリアルに表現しています。
さて、「夜間飛行」はタイトルの通り夜の飛行業務にまつわるお話です。
舞台は南米大陸で夜間郵便飛行という新事業に挑む航空会社です。大陸の南側から郵便を運ぶパタゴニア便、北側からはパラグアイ便、アンデス山脈の西側からはチリ便が、アルゼンチンのブエノスアイレスに向かって夜間飛行を行い、集荷された荷物はその夜のうちに欧州便でヨーロッパへと運ばれます。
飛行機は小型のプロペラ機で、コクピットは無蓋(上が覆われていない)。操縦席にパイロットが、後部座席には無線通信士や整備士が同乗することもあったようです。操縦が飛行士の勘と経験を頼りに行われていた時代に、今と比べれば照明も少ない中、夜間に飛行機を飛ばすというのは相当危険な仕事だったということが、作品からひしひしと感じられます。
私が素晴らしいと感じたのは、サン=テグジュペリの空の描写です。
飛行中の飛行士から見た空の表情は素晴らしく美しい顔と、恐ろしく凶暴な顔の両方を持ち合わせています。
その美しい顔を作者は実に多彩な表現で描いています。
空の描写だけでなく、空から見た地上の描写も素晴らしいです。ちょっと引用はできませんが、夜の空からぽつんと光る地上の明かりを見つけたパイロットが、明かりをともしている家の住人はただいつもの生活をしているだけだが空から見るとそれは地上の星であり、愛の営みの光だ、と感じる・・・というようなシーンがあって美しいなーと思いました。(実際の文章はこんなにだらだら書いてなかったと思います。私の解釈で書いてますのでお許しを。)
また、この作品ではブエノスアイレスの基地ですべての航空機のスケジュールを管理する社長の、重圧に負けない冷徹さや航空郵便事業を人類の進歩の一歩として推し進めるという不屈の闘志も描かれています。
空の描写ばかり取り上げたのでパイロットの話が長くなりましたが、本当のところを言うと、この社長こそメイン主人公といっていいと思います。
命を懸けて危険な任務を遂行するパイロットたちの物語というだけではなく、その航行に携わる地上の人たちをも含めて命の重さや愛の大切さまで語られていると思います。
たった一晩のうちに起こったある事柄をめぐるストーリーはいたってシンプルですが、読後に様々な感情を呼び起こさせる作品です。
ちなみに、光文社古典新訳文庫では、訳者によるこの作品の解説やサン=テグジュペリの生涯年譜も載っていて、こちらも面白かったです。解説では物語の構成や登場人物の対比、話を盛り上げるために時間の経過と章の順序が入れ替わっているというような話まで詳しく述べられていて、興味深いです。
おすすめいたします。(*^▽^*)