2021年7月のテーマ

「大人気SF小説」

 

第一回は、

「三体」

劉慈欣(りゅう・じきん/リウ・ツーシン) 作、

大森望、光吉さくら、ワン・チャイ 訳

立原透耶 監修

早川書房、2019年発行

 

 

 

です。

 

三部作の第一部。

2015年にケン・リュウによる英訳版がヒューゴー賞を受賞して以来、世界中で読まれている注目作です。

この賞を受賞したことにより、中国国内での評価も決定的なものになったそうです。

というのも、この作品、1967年の文化大革命から物語が始まります。

中国国内で、学者などの知識人たちが弾圧されていた様子が描かれているのです。

『三体』は共産党の一党独裁体制で、政治批判に厳しい中国に住んでいる作者が、中国国内で発表した小説だそうです。

解釈次第では政府から目をつけられてもおかしくはないと思います。

(さすがに中国版の初版はオープニングから文化大革命ではなく、章を入れ替えたようですが。)

でも世界的なSF文学賞をアジア人で初めて受賞したことによって、国内で認められた。

本当に良かったと思います。

ちなみに、この作品には政府批判の要素はありません。

歴史的転換期として文化大革命を書くことが必要だっただけで、その後の物語において、各国の政治的駆け引きや国連なども出てきますが、中国政府がそこでどうしたこうしたという話は出てこないし、そもそも特定の国の政府の動きもあんまり出てきません。

 

話がそれましたが、この作品はSF小説なんだけれども、私がイメージしていたSF小説というものとはかけ離れていました。

まず、前半は読んでいて何がSFなのかわかりませんでした。

登場人物の経験や感情に関する描写が丁寧にされていて、人物を深く掘り下げて描いているなーという印象でした。

そのうちに科学者がたくさん登場し始めるとミステリー調になってきて、SF小説だと知っていなければ、オカルトなのかな?とも思いそうでした。

科学技術の説明がたくさん出てきて、やっぱりSFやなーという感じではありますが、ストーリーは陰謀?オカルト?な事件の謎を追うミステリーの趣が強く、私には先の展開が想像できませんでした。

この本を読み終わったとき、『三体』というタイトルの意味が分かります。

 

スパイ小説のようなスリリングな場面もあったりして娯楽的な要素にも引き付けられます。

登場人物は中国人が多いですが、物語がグローバルになっていきますし、様々な国籍の人物が出てきます。

とにかくスケールが大きい。

一見関係あるのかないのかわからないようなエピソードに含まれた小さな謎が、後でそうだったのかーと思うこともしばしば。

科学技術の細かい話は私としてはふーん…と流し読みしましたが、専門的な知識のある方ならば、そこもまた面白いところかもしれません。

私個人としては、想像力の追い付かないストーリー展開が一番の魅力でした。

SF小説は物語の前提となる科学的な理屈についていけなくて挫折しちゃうことが多かったのですが、この小説は科学的な理屈の部分がすごく多いにもかかわらず読めてしまいました。

紛れもない大作です。

長いですけど、これでまだ第一部。おすすめします。(*^▽^*)