2020年10月のテーマ
「短編集を読んでみよう」
第二回は、
「シャーロックホームズの冒険」
コナン・ドイル 著、延原謙 訳
1953年発行 新潮文庫
です。
新潮文庫での初版が昭和28年(1953年)で、平成元年(1989年)に第76刷で改訂し、私が持っているのは平成12年(2001年)の第97刷ですから、最新版は軽く100刷を超えて120?いや150刷に届いているかもしれません。
驚異のロングセラーといえるでしょう。
世界中で愛されているコナン・ドイルのシャーロック・ホームズの短編集なので、それもまた納得なのですが。
この本のお話をする前に、ちょっと前回の作品との形式の比較をしたいと思います。
今回の本にはタイトルに"短編集"と銘打ってありません。
中身は短編集、すなわち、短編のお話を集めた本です。
出版業界で何らかのルールがあるかどうかはさておき、この本には"短編集"と銘打たなくても問題なく感じます。
なぜなら、主人公が同じシャーロック・ホームズだから。
ホームズものとして一貫性があるので、一つ一つのお話が短かろうが長かろうが本を買う人にはあまり関係ないのです。
ホームズ物が読みたい人が読むわけです。
先日の「紙の動物園」のように、○○短編集と銘打ってある本は、主人公も設定もばらばらの物語を集めて一冊にまとめてあることが多く、本を買う側としては、作者である○○さんの作品がいろいろ集まっている本なんだなーとわかるので、その作家さんに興味があれば読むという感じになるのではないでしょうか。
ちなみに、ホームズ物は長編が4冊、短編集が5冊ありますが、長編作品の本のタイトルに"シャーロック・ホームズの"と銘打ってあるものはありません。(あくまで日本での出版物に限っての話です。)"シャーロック・ホームズシリーズ"とは書いてあるかもしれませんが。
ホームズ物はイギリスでストランド誌という雑誌に掲載されていたので、読み切りの長さのものがたくさんあるのでしょう。
雑誌に掲載されている作品では、長いお話が途切れずに続いていくタイプのものと、短いお話としては一話で完結しているけれど全体でみると同じ主人公のお話が時間の経過とともに続いているというタイプのものがありますが、後者のタイプの物語が本にまとめられた時、短編集だと認識する人はいないと思います。
以前紹介した「剣客商売」なんかもホームズ物と同じ後者のタイプです。
長くなってしまいましたが、『短編集だと意識しないで読んでいる短編集』がこのタイプの本だということが言いたかったのです。
それはさておき、ホームズ物はほかにも短編集があるのですが、この作品を推したのはそれなりに理由がありまして。
まず一つ目が、ホームズ物の短編集の第一号だということ。
ホームズ物をシリーズを通してなるべく時系列で読もうとすると、全集でもない限りどこから手を付けようか悩ましいと思いますが、この本の訳者、延原謙さんおすすめなのが、原作発行順です。
原作発行順については延原さんが、「緋色の研究」、「四つの署名」、「シャーロック・ホームズの冒険」・・・とこの本のあとがきで説明してくださっています。
一番目と二番目が長編で、長編大好きな人には何の問題もありませんが、テレビドラマやアニメなどのホームズのイメージから原作読んでみようかなという方には、短編集の方がドラマやアニメと同じように一話完結でいろんな事件がたくさん楽しめるところが最初のイメージに近くて読みやすいかなと思います。
二つ目は、ホームズ物として有名なお話は数多くありますが、この本には名作が多いと感じること。
「ボヘミアの醜聞」、「赤毛組合」、「唇のねじれた男」、「青いガーネット」、「まだらの紐」などはホームズ物を読んだことないという人でもタイトルだけは聞いたことあるという作品だと思います。
ホームズの推理も鮮やかだし、殺人事件ばかりではなくてちょっと奇妙な事件、意表を突く事件がたくさんあって、ウィットに富んだ作品集だなと思います。
シャーロック・ホームズの魅力についてはここで改めて語ることもないと思うので、第三の理由としてくどくど書くのはやめておきます。
(^▽^)/
ちなみに、私が一番印象に残っている短編は「シャーロック・ホームズの思い出」に収録されている「入院患者」です。
ホームズファンの方以外にはあんまり名の知れ渡っていない作品なんじゃないかなーと思いますが、"意表を突かれた作品"だったのと、ジェレミー・ブレッド主演のテレビドラマ、シャーロック・ホームズでこの回のラストシーンがクスリと笑っちゃうユーモアある物語の締めになっていたので、大変印象深く残っています。
皆さん、ホームズ物が好きな方は多いんじゃないでしょうか?
秋の夜長に、久しぶりにホームズ物を読んでみてはいかがでしょうか。(*^▽^*)