2020年3月のテーマ
ハードボイルド小説を読んでみた!
第二回は
「さよなら、愛しい人」
レイモンド・チャンドラー 作、村上春樹 訳
早川書房 2009年発行
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さよなら、愛しい人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
1,028円
Amazon |
です。(2011年6月発行のハヤカワ・ミステリ文庫版しか見つからなかったので、こちらで失礼します。)
アメリカの小説家、レイモンド・チャンドラーが生み出したハードボイルドな私立探偵、フィリップ・マーロウを主人公にした長編小説です。
原作は1940年に刊行されました。
「さらば愛しき女(ひと)よ」のタイトルで邦訳されているものがポピュラーかもしれません。
二つの大戦の狭間の時代に描かれた小説です。
小説の中の荒々しい世界の背景には、そうした時代の影響があったのかなと感じます。
物語は、刑務所を出たばかりの大男、ムース(大鹿)の通り名を持つマロイが、かつての恋人を探しに酒場を訪れたところから始まります。
求める情報が得られなかった彼は暴れだし、またしても殺人を犯して逃亡。その場に居合わせた探偵フィリップ・マーロウも巻き添えになり、警察に尋問されたところから、ムース・マロイに関わっていくことになります。
(マロイの恋人)ヴェルマとマロイの二人を探す一方で、用心棒の仕事が舞い込んだり、フィリップ・マーロウ自身の命が狙われたり、真相に近づくにつれてスリリングな展開が待っています。
フィリップ・マーロウは元々地方検事局の捜査官をしていたのですが、命令違反で免職になり、ロサンゼルスで私立探偵を始めたという設定です。どこかけだるげなキャラクターに感じるのは彼が常に酒とたばこを欲するところに加えて、アウトローな存在だからなのかもしれません。
彼は特別力が強かったり、頭がよかったりするという印象はありません。
タフで抜け目がなく、容易に他者に屈しない強さを持った人物として描かれていると思います。
銃を持っていても滅多に撃つことはなく、弱い者に優しいところがあります。
荒々しい連中と渡り合う上で、情を捨てられないことは時に弱点ともなり、つけこまれることもあります。
私は、フィリップ・マーロウが主人公の長編をこの本を含めて三冊読んだことがありますが、どれも読後に哀愁を感じて、この哀愁感がハードボイルドの醍醐味なのかも・・・と思いました。
ほかの作者の小説を読んでみると、ハードボイルド=哀愁がすべてではないと思いましたが、私が読んだチャンドラーのフィリップ・マーロウものに関して言えば、どの作品にも哀愁が漂っていて、読後に残るのです。
この探偵が読者に愛されて、何度も映像化されてきた所以かもしれません。
三冊読んだフィリップ・マーロウ物のうち、私の中ではこの「さよなら、愛しい人」が一番良かった。
どの作品も哀愁を感じたのですが、この作品を読んだ後、猛烈に悲しくやりきれなくなったからです。
ハードボイルド小説には、理不尽なこと、やりきれないこと、というのがストーリー上で必ず浮上すると私は思っているのですが、この作品ではそれを強く感じました。
あくまで個人的な感想ですが、それがお勧めしたい理由です。
ほかにもチャンドラーの名作はあるでしょうが、私的には現在一押しです。読んだことのない方、ぜひ手に取ってみてください。(*^▽^*)