2019年12月のテーマ
クリスマスにはクリスティーを!
第一回は、
「ひらいたトランプ」
アガサ・クリスティー 著、加島祥造 訳
ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 2003年発行
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ひらいたトランプ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
924円
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です。
ポアロ物の中でもちょっと変わった趣向の一冊です。
何が変わっているかというと、ポアロを含めた4人の探偵達が、過去に起きた4つの死の真相を調べるというもの。
ポアロやミス・マープルなどのシリーズ物ではないクリスティー作品に登場するキャラクターがポアロと共演します。
事の起こりは「悪魔的な人物」シャイタナ氏にポアロがディナーに誘われたこと。
シャイタナ氏は特異な風貌の人物で、自らを悪魔のように見せるよう工夫しています。大変お金持ちで社交的、素晴らしいパーティを開くことで有名ですが、意地の悪い意味ありげな発言や噂話が好きで、おそらく他人の秘密を探るのが得意。ゆえに人々は彼を内心恐れています。
そんなシャイタナ氏に誘われてポアロが出向いたディナーにはホストを除いて客が8人、いずれも年齢や職業などバラバラで共通点のなさそうな面子です。
このうちの4人は過去に殺人を犯して逃げおおせた人、とシャイタナ氏が考えている人物で、ポアロを含めた残りの4人は犯罪者を捕えたり、犯罪を見抜く力があると彼が判断した人物。つまり犯人役が4人に探偵役が4人集められたパーティだったのです。
果たして犯人役とされた4人は本当に犯罪者なのか?(シャイタナ氏がそう思っているだけという可能性もあるわけです。)
これだけでも興味深いですが、この悪魔的なホストが殺されてしまい、結果的に4人の探偵役たちは真相を調べることになります。
ここで、4人の探偵役をご紹介します。
ご存知、エルキュール・ポアロ。
ポアロシリーズに度々登場する女性推理小説家、アリアドニ・オリヴァ夫人。
クリスティのスパイ物に登場し、ポアロ物の「ナイルに死す」にもゲスト出演(?)を果たす、レイス大佐。
同じくスパイ物に登場、バトル警視。
後半の二人は、クリスティーのノン・シリーズ作品を読んでいると出会える探偵達です。
残念ながら、ミス・マープルとの共演はありませんが、クリスティーファンとしてはテンションあがる一冊です。
過去に起きた別々の事件と、様々なタイプの容疑者たち。
現在に起きた殺人事件。
盛りだくさんで、私は好きな作品です。
ただ、盛りだくさんであるがゆえに、推理小説としては薄いと感じられる方もいらっしゃるかもしれませんし、この小説のキモとなっているトランプゲームのブリッジが、日本人にはあまりなじみのないものなので、ちょっとわからないなと思われるかもしれません。
先に解いてやるぜ!と意気込むと面白くない小説ではないかと思います。
実際はブリッジというゲームのルールや面白さなどよく知らなくとも楽しめるストーリーとなっていますので、普通に読んでいってもらえれば充分面白い小説です。ポアロと他の探偵達との共演をお楽しみいただきたい作品です。おすすめします。(*^▽^*)