2019年10月のテーマ
「赤毛のアン関連本」
第一回は、もちろん、
「完訳 赤毛のアンシリーズ(1) 赤毛のアン」
L・M・モンゴメリ 作、掛川京子 訳
山本容子 絵
講談社 1990年発行
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赤毛のアン (完訳 赤毛のアンシリーズ 1)
2,200円
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です。
カナダのプリンスエドワード島を舞台に、マシューとマリラのカスバート兄妹のところへ孤児院から引き取られた10歳の少女、アン・シャーリーが16歳になるまでの物語です。
この物語は世界中で読み継がれていてファンも多く、一部では、『「不思議の国のアリス」のアリスに次いで二番目に世界で名の知れた女の子』とも言われているそうです。(「オズの魔法使い」のドロシーとかもランキングに入ってそう…個人的見解です。)
日本では1979年に高畑勲監督によってアニメ化されたテレビシリーズが大人気になりました。このアニメは原作にかなり忠実で、本を読んだ後アニメを見ると、頭の中でアンの顔がアニメの顔にすり替わって固定化されてしまいます。(言いすぎかしら…。)
アンの容貌、作中でのファッション、プリンスエドワード島の自然描写など、作品をよく読みこんでいるだけでなく、当時の文化やカナダの風景などもきちんと調べて描かれているところがすごいです。本のおすすめのはずですが、合わせてこのアニメもおすすめしたい!!!
さて、本題に戻ります。
「赤毛のアン」のおすすめポイントはたくさんあるのですが、今回はこの作品で描かれている友情と愛情について触れてみたいと思います。
一つ目はアンとダイアナの友情について。
ダイアナ・バリーはアンの住むカスバート家の隣の敷地に住む同じ年頃の女の子で、アンの幼友達。アンと心の友になるという神聖な誓いをして、生涯の親友になります。
アンは孤児院育ちで一時的に里親の家で子守の仕事をしていたこともあり、同い年の友達に飢えていました。なんでも相談し合える親友がいたらと夢見てきたのです。ダイアナと出会ってすぐに、「私たち親友になりましょう。」と持ちかけて二人で誓いをし、二人は真の友達になるわけですが、現代の観点から考えるとこれはずいぶん乱暴な話です。アンとダイアナの友情にあこがれた小学生が、同じような事をしてもうまく行くはずがないと思います。相手を束縛してしまうわけですから。
ではなぜ、アンとダイアナがうまくいったかというと、ダイアナもまたずっと同じ年頃の友達がいなくて、欲しいと思っていたから。そして何よりもアンとダイアナの相性が良かったからに他ならないと思います。
アンとダイアナの家は広い農場で、子供が遊びに行ける範囲に他の家がなかったのです。互いが互いを必要としていた。二人だけで遊ぶ時間が長く、十分に友情を育む時間があったということです。
学校に通い始め、成長してからは他の友達とも行き来しますが、それでもアンとダイアナの友情は変わりません。二人の同級生で親友同士のジェーンとルビー(だったと思いますが、別の子かもしれません)は普段は「私たち親友よね」と仲良くしていますが、一人になると互いの文句を他の子に言っています。それに対してアンとダイアナは互いに忠実でそんなことはしません。
成長してアンが進学クラスで勉強するようになり、ダイアナと一緒に帰ることができなくなってしまって過ごす時間が減ってからも、寂しさこそあれ、二人の友情は変わりません。シリーズ2「アンの青春」で、アンがクイーン大に進学することになってアボンリーの村から離れることになった際、ダイアナはアンに「大学へ行ったら、新しい友達がたくさんできて私のことなんか忘れてしまう」と寂しい気持ちを打ち明けますが、アンは「これから先どんな友達ができてもあなた以上の友達はいない。女の友達であなた以上に愛する人はきっと現れない。」というようなことを言い切ります。
実際、二人の忠実な友情はずっと続き、シリーズ3「アンの愛情」でダイアナがアンを喜ばせようとして秘密で行ったあることがアンをひどく傷つけるのですが、アンはそのことでダイアナを一切責めず、悲しい気持ちも飲み込んで、ダイアナの好意に応えます。また、ダイアナは結婚後に生まれた子供に「コーデリア」という名をつけますが、この名前はアンが幼い頃憧れていた名前で、ダイアナはちゃんとそのことを覚えていたのです。
彼女たちの「忠実な友情」は、互いに裏切らないというようなことではなく、互いに大事にしあう、尊敬しあうということで、これは友情に限らず親子間でも夫婦間でも大切な事なのではないかなと思います。
次に、アンに対するマリラの愛情も見どころの一つです。
そもそもカスバート家では農業の手伝いをする男の子が欲しかったのに間違って女の子のアンが来てしまった。マリラは困ったわけです。しかし、アンと直接話をするうちに、アンを引き取ろうと決めます。敬虔なキリスト教徒でもあるマリラは、これは私の仕事。投げ出さないでやり通す。という覚悟のもと、はじめは試練のひとつととらえているかのようにも見えます。
しかし、カスバート家がアンの居場所と定まってから、アンの喜びようは尋常ではありません。長いこと思い描いていた自分の居場所がやっと手に入った。浮かれて周りを困らせることもありますが、引き取ってくれたマシューとマリラの望むような子になりたいという思いも強く、感謝の気持ちもふくめた好意を二人に示します。
マリラは厳格できちんとした人なので、アンの破天荒ぶりに怒ることも嘆くこともしばしばですが、学校でアンが侮辱されたと聞くや「そんな先生には教わらなくていい」と学校を休ませたり、アンに愛情を持っていることがはしばしに見えます。そしてついには、アンがいなければ生きていけないくらいアンを愛していることに気付くのです。
もともとそれほど子供が好きだったわけではなく、きちんとしたことが好きなマリラにとって、アンはコントロール不可能な存在。でもアンと出会ってマリラには新しい世界とのつながりができたのだと思います。
今回、物語の根底に流れる愛の側面ばかりを取り上げましたが、「赤毛のアン」には他にも楽しめる要素がたくさんあります。アンと激しい喧嘩をして何年も口を利かなくなってしまう少年、ギルバートとアンの関係やら、憧れの先生に出会ったアンが、影響を受けて勉強に励むようになったり、女の子の心の成長が見事に描かれています。
当時のプリンスエドワード島の自然や文化の世界にどっぷりつかるのも、癒されて楽しいと思います。
まだアンの世界を堪能してみたことがない女性の皆様、今まで興味なかったわ―という男性の皆様、多感な思春期の少年少女の方々、「赤毛のアン」の世界を一度体験してみてください。彼女たちの日常には、今の私たちから大事件と呼べるものはあまりないかもしれませんが、その日常からこそ感じるものがきっとあると、私は思います。(*^▽^*)
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アンの青春 (完訳 赤毛のアンシリーズ 2)
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アンの愛情 (完訳 赤毛のアンシリーズ 3)
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