2019年3月のテーマ

「心揺れる季節、青春小説にふれよう」

第三回は、

「グラスハート」

若木未生 作、コバルト文庫、1993年発行

 

です。

 

現在は、コバルト文庫版は新たに出版はされていないようで、

 

幻冬舎バーズノベルス、2010年発行

の方が手に入りやすいと思われます。

幻冬舎版の方は、コバルト版の「グラスハート」と続編の「薔薇とダイヤモンド」の合本となっています。

 

若木未生(わかぎみお)さんは、早稲田大学在学中にコバルトノベル大賞というコンテストで佳作入選、作家デビューをされた方です。コバルト文庫は1990年代に十代の少年(?)少女を対象にした文庫本で、今でいうライトノベルの先駆けだと言えば分りやすいでしょうか。

多分現在もコバルト文庫自体は出版されていると思いますが、対象年齢からすっかり離れてしまった身としては、現在のものに関してはよく知らないというのが正直なところです。おすすめしておいてなんですが、若木未生さんに関しても、最近の作品については暗いことを白状しておきます。

 

若木未生さんは当時、学園ファンタジー物や、終末後の世界を描いたSF物など、いろんなジャンルの小説を書かれていましたが、この「グラスハート」シリーズは厳然たる音楽青春小説です。超能力もアンドロイドも一切なし。女子高生の朱音がロックバンドグループに勧誘されて結成したグループ"テン・ブランク"の物語です。「グラスハート」はその第一作目で、彼らがデビューするまでの音楽青春ストーリーです。

 

グループのリーダーでボーカル兼ベースの藤谷は、音楽業界で若くして作曲家として活躍して天才と呼ばれていた人物。ギターの尚は別のバンドで既に活躍していたが解散後フリーになって活動中。ドラムorキーボードの坂本は無名の新人だけど作曲で才能をみせる。そんな連中になぜ勧誘されるのかさっぱりわからないが、音楽一家で育った朱音は音楽がやりたい、ロックがやりたい、と思ってやれる場所を探している。かといって、いきなりメジャーデビューの決まっているグループに入ってついて行けるかわからない。尻込みする彼女だが、結局、やるか、やらないか、どちらかしかない。

 

主人公・朱音の一人称、一人語りで書かれているので、とても読みやすいです。私がこの本を読んではまったのは、まあ、若い頃なわけですが、いまさらその頃のノスタルジィでこの本をおすすめしようと思ったわけではなく、青春してるなあ…と今でも素直に思うことができる小説だからです。でも、音楽ものですけど、夢に向かって突き進む!という意味で青春してるわけではないんですよね。

 

彼らはもうメジャーデビューが決まっているグループなんです。そこにぽんと放り込まれた女子高生。初対面の人ばかりのグループで、自分の立ち位置もわからず、事務所の人だとか、大人の都合だとか、そういう世界に触れていくので、若者らしい戸惑いや迷いなんかがぼろぼろ頭の中でわいてきます。しかし一方で、音楽に対する情熱というものを熱くたぎらせてもいます。この熱が、若者らしいまぶしいエネルギーになって読んでいる側に伝わってきます。年をくった今では正直言って、「まぶしいなー。青春っていいなー。」と感じますし、そういうエネルギーに触れることは、どこかむずむずするような恥ずかしいような、落ち着かない気分にさせられることでもあります。ですので、どちらかというと若い方におすすめしたいですね。

 

このエネルギーが作品の文章から特に強く感じられるのは、「グラスハート」「薔薇とダイヤモンド」の二作品で、シリーズ第一作目と二作目です。自分が読んだ年齢が若かったということも多少関係しているかもしれませんが、作者が若い時に書かれた作品なので、そのエネルギーがそのまま作品に込められたのではないかなと、個人的には思っています。

なんだか恥ずかしい気持ちがしますが、それが青春なのかも。(//^_^//)おすすめします。(*^▽^*)