2019年3月のテーマ

「心揺れる季節、青春小説にふれよう」

第一回は、

「夜のピクニック」

恩田陸 作、新潮文庫、2004年発行

 

です。

 

第二回本屋大賞受賞作品で、2006年に映画も公開されました。

著者の恩田陸さんは、ミステリのほか、独特の世界観を持った作品を数多く書かれています。私が読んだことがある本は、たまたまですが、ティーンエイジャーがが主人公のものが多く、少女期特有の不安定さと、現実世界の認識をわざと曖昧にしてある感じが相まって、ふわふわと浮いているような不思議な感覚を味わいました。

 

しかし、「夜のピクニック」は、地に足の着いた現実世界の物語です。

高校三年生の融(とおる)と貴子にとって、高校生活最後の大きな行事「歩行祭」。全校生徒が80キロを夜通し歩くというその行事の初めから終わりまでを描いただけの小説です。とにかくずっと歩いている。

 

歩きながら、高校生活を振り返ったり、仲良しの友達と夜通しおしゃべりして思い出を作ろうとしたり、運動部のメンバーはゴールまでのタイムを競ったり、好きな子にちょっとでも近づこうとアプローチを仕掛ける子もいたり。何のことはない、高校生たちの様子が丁寧に描かれています。特別な事件とかは一切なし。でも、なんだか心に残るんです。

 

高校生たちの中に身を置いて、雑然とした雰囲気を感じながら読んでいると、自分が高校生だった頃のことを思い出すのかもしれません。主人公の二人が、かわるがわる語り手となって、ゴールまで私たちを導いて行ってくれます。大人になることを急いでいる感じのある融と、ややおっとりしているかな?という貴子。二人の性格の違いは、どちらも思春期の高校生らしい悩みや葛藤を違った形で表現してある気がして、『不安定な』少女期のお話をたくさん書かれている作者の力量を存分に発揮されている気がします。

 

長々書きましたが、この小説は、青春小説と聞いてイメージするような、キラキラしたまぶしい少年少女のお話でも、ちょっとしたことで傷つきやすいピュアでナイーブな若者の内面を書いたお話でもありません。

『自身が抱える不安定さと折り合いをつけようとする』少年少女の物語ではないかなと思います。

高校三年生。大学に進学する子もいれば、社会に飛び出していく子もいます。高校までの、クラスメイトと同じ教室で勉強し、学校全体でのイベントに参加するという、"集団の中のひとり"から、"自分"というひとりにもうすぐ変わらなければならない。意気込みを感じるとともに、不安なのは当然のことでしょう。

 

この作品を大人の方が読むと、ノスタルジィを感じる方が結構いらっしゃるんじゃないかなと、私は予想しています。

自分の青春時代とまるで接点のないお話です。共感するような出来事も特に起きるわけではないと思います。しかし、青春時代に抱える不安は、誰しも共通している物ではないかなと思います。

お恥ずかしながら、私は社会人になってからこの本を読んで、何度も再読しています。

魅力が『コレだ!』とはっきりわからないけれど、なんだかもう一度読みたくなる。そんな本です。

大人のみなさま方、もう読んだ方もたくさんいらっしゃるかもしれませんが、おすすめいたします。(*^▽^*)