2019年1月のテーマ

 

"和"を感じる本

第三回は、

「剣客商売」〔新装版〕

池波正太郎 著

新潮文庫 2002年発行

 


です。

 

実は私が持っているのは1985年発行の旧版なので、ひょっとしたら解説などは私の知るものと違う内容になっているかもしれません。表紙のデザインも変わって、発売当時、新装版を買い揃えようかと本気で悩んだのを覚えています。

そう。この「剣客商売」は、池波作品の中で私の最も愛する作品。シリーズ全16巻に番外編が2作品あります。

それだけに、今回はちょっと感情が入りすぎてしまうかもしれませんが、ご容赦ください。(^ ^)>

 

今月のテーマは「"和"を感じる本」ですが、池波正太郎さんという作家さんは、江戸時代、江戸の町の暮らしというものを実に生き生きと表現した作品を多く描かれた方です。その中でも「剣客商売」はピカイチだと、私は思っています。

これは、好みの問題でもあるので、別の方に言わせると「鬼平犯科帳」のほうが優れている!ということもあると思います。

(私も鬼平シリーズは大好きです。)

 

「剣客商売」の主人公は一介の剣客、つまり武家社会ではなく江戸市中で庶民の暮らしをしています。

そのため、江戸の町の四季の移ろい、庶民の生活風景が、物語の背景としてふんだんに描かれています。

庶民の金銭感覚、食事の風景、町で評判の菓子屋で飴や餅を買って旧友を訪ねる、碁を打つ…なんてことはない日常生活が目に浮かぶようです。

主人公の一人、秋山小兵衛は世の中の酸いも甘いも噛み分けて、清濁あわせのむ度量を身につけた古強者。

剣の名人で、作品中では彼の動きを目にした人に、天狗に例えられるほど俊敏な老剣客です。

息子、大治郎はシリーズが始まった当初、駆け出しの道場主。父や父の師匠・盟友に鍛え上げられた若武者です。

剣客として生きていく以上、数々の勝負を経験し、時には敗れたものの恨みを背負わねばならない。

物語は厳しい勝負の世界や、世間を脅かす無頼との戦いを描いています。

そんな中でも、庶民の生活の営みを鮮やかに感じさせてくれる作品です。

 

一方、「鬼平犯科帳」は、主人公は武家社会の人間です。"火付け盗賊改め方長官、長谷川平蔵"ですから。

鬼平は武家社会の人間といっても、下々の世情に通じていますし、自らも浪人に化けたりするので、庶民の世界に頻繁に出入りします。武家社会の鬼平と、庶民に交る鬼平の両方が描かれていますが、ウェイトとしては、やはり武家社会の暮らしぶりの描写が多いように感じます。

こちらは悪人を捕まえるのが仕事ですから、盗賊一味との頭脳戦や死闘が物語の醍醐味といえましょう。

 

ここまで長々と書いてきたので、察しのいい方はもうお分かりのことと思いますが、、今回のおすすめポイントは"江戸の生活をいきいきと感じてみよう!"です。というわけで、私的にはこのテーマに関しては、「剣客商売」に軍配を上げ、おすすめしたいと思います。

 

ところで、「剣客商売」にしろ、「鬼平犯科帳」にしろ、これまでに何度も映像化されています。

近いところでは、正月時代劇として、北大路欣也さんが秋山小兵衛を演じた「剣客商売」がありました。

もうだいぶ昔になってしまいますが、私は藤田まことさんが秋山小兵衛役のテレビドラマをみていました。

鬼平なら、中村吉右衛門さん。

どちらかというとテレビが先で、後から池波正太郎さんの小説を読んだクチです。

山崎努さん主演の「雲霧仁左衛門」をみて、池波さんの小説を買ったのが、最初でした。

 

今は以前に比べると、時代劇のドラマが少ないように感じます。

 

私の子供時代は祖父母と同居していたこともあり、ゴールデンタイムに時代劇をよくみていました。

 

・月曜: 水戸黄門

・火曜: 長七郎江戸日記

・水曜: 遠山の金さん

・木曜: 暴れん坊将軍

・日曜: NHK大河ドラマ

 

遠い記憶なので、曜日はいい加減ですが、こんな感じ。

加えて夕方の再放送も…。

だから、江戸時代が舞台の小説を読んでも、ドラマから得た知識で、すっと頭の中に映像が浮かんできました。

 

今も面白い時代劇のドラマは作られていると思いますが、昔と比べて量が圧倒的に少なくなったと思います。

江戸時代は、平和な時代が長く続いて、庶民文化の華開いた時代です。

その頃の空気を感じられる時代劇には、一度はまるとやめられない面白さがあります。

勧善懲悪、ヒーローが悪い奴を懲らしめる。というのが昔の時代劇のお決まりのパターン。

これはこれで面白い。

ちょっと子供向けの童話みたいなところがあります。だから子供でも面白く見れたのかもしれません。

 

でも最近の時代劇はちょっと違う。ストーリーはそう単純じゃありません。

視聴者に大人を想定しているからだと思います。

それに、最近のテレビドラマの時代劇は原作に時代小説があります。

水戸黄門なんかは、原作ってなかったんじゃないかな?

 

それはともかくとして、池波さんの小説もストーリーは大人向けといっていいでしょう。

大人のみなさま方、今一度、時代劇、時代小説を見直してみてはいかがでしょうか。

なかでも私は「剣客商売」を強くおすすめいたします。(*^▽^*)