2018年10月のテーマ

ちょっと怖い魔女が出てくる本

第四回は、

「魔使いの盟友ー魔女グリマルキンー」

ジョセフ・ディレイニー 著、田中亜希子 訳

東京創元社 2013年発行

 


です。

第三回でご紹介した「魔使いの弟子」シリーズの9冊目に当たります。

シリーズ本編で語り手が主人公のトムではなく、別の人物であるというのはこの作品が初めてです。

しかもトムはほとんど出てきません。

この物語は魔女グリマルキンの物語なのです。

作者のジョセフ・ディレイニーは、シリーズの全作品を読まずにいきなりこの本を読んでも楽しめるように、作中で度々グリマルキンが弟子のソーンに対して過去の経験を語るという方法で彼女のたどってきた人生や彼女の考え方が読者に伝わるように工夫しています。

しかしこの物語はシリーズ8冊目「魔使いの運命」と続き物になっていて、読む側としてはやはりシリーズを順を追って読んだほうがより深く楽しめると思います。

 

では魔女グリマルキンというキャラクターについてまず説明させていただきます。

グリマルキンは、このシリーズでの魔女の分類(前回の「魔使いの弟子」で少し触れました)では<邪魔女>となります。

つまり邪悪な魔女です。魔女のほとんどはここに分類されます。

魔女にはいくつもの<一族(クラン)>というものがあり、出身によって所属する<一族>が決まっています。

グリマルキンはマルキン一族の魔女の暗殺者。<一族>の敵を殺すための戦士で、最も戦闘能力の高い魔女です。

彼女は敵を倒すとその親指をはさみで切り取り、遺体の近くの木にはさみのマークを刻みます。

"グリマルキンがやった"ということをアピールする意味と、ここは自分の縄張りだと宣言する意味を込めているのです。

 

グリマルキンがこのシリーズに初めて登場するのは4冊目の「魔使いの戦い」において、主人公のトムを殺すための暗殺者として放たれた時です。その後もたびたび本編に登場しますが、魔女のお話を集めた外伝「魔女の物語」でも語り手として登場し、そこで初めて彼女の過去が明らかになります。

グリマルキンは恐ろしい魔女で残酷なことも平気でやってのけますが、他の<邪魔女>と違ってその過程を楽しむことはしません。

根っからの戦士であり、戦いが生きがい。

ある意味では高潔な精神を持っていて、非常にストイックです。

残酷で恐ろしい敵として登場した彼女ですが、そのキャラクターに読むほうはだんだんと魅了されていきます。

 

本来敵対関係であったはずのトムたち魔使いとグリマルキンは、「魔使いの運命」で共通の目的のために同盟関係を築きます。

その続編、「魔使いの盟友」は、目的達成のためにグリマルキンが恐ろしい敵たちから"あるもの"を守って逃亡生活を送るお話です。全編グリマルキンの語りによる作品となっているのはそういう理由からです。

私は初めてこの本を手に取ったとき、"やったーーーーーーー!!"もしくは"きたーーーーーーー!!"という気持ちでわくわくしたことを覚えています。

邪悪な魔女で暗殺者。しかも主人公の敵であるにもかかわらず、グリマルキンというキャラクターが好きだったからです。

彼女の容姿に関しては美しいとは書いてありません。

むしろ敵に恐怖を与えるためにわざと歯を削って尖らせ、自らすすんで恐ろしさを演出しています。

しかし彼女はアスリートのように身体的な鍛錬を積み、冷静に状況を分析する能力もあり、常に自分の能力を最高に保つために自らにいくつもの決まり事を課しています。

身体能力の高さと精神力の高さを兼ね備えているのです。

この物語の中で、苦境に陥った時、彼女は何度もこういいます。

『あたしを信じな。あたしはグリマルキンだ。』

『今言ったことはすべてやってやる。あたしはグリマルキンさ。』

『勝つ見込みがほんのわずかだろうと、あたしは勝つ。あたしはグリマルキンだ!』

"あたしはグリマルキンだ。"このセリフには自身への信頼からくる誇りが込められています。

私のとても好きなセリフです。

危険で残酷な魔女の暗殺者ではありますが、グリマルキンはきっと多くの人を魅了するキャラクターだと思います。

そんな彼女が主人公の長編をおすすめしないわけにはいきません。

 

前回に続き、<魔使いシリーズ>の作品で、1作目から大分先のお話ではありますが、あえてこの本をおすすめさせてください。

魔女の出てくるお話で、グリマルキンを外すわけにはいきませんから。(*^▽^*)