2018年9月のテーマ

読書の秋、世界文学に親しもう

第五回は、

「パルムの僧院」

スタンダール 著、生島遼一 訳

岩波文庫、 1952年発行

 

 

です。

 

作者のスタンダールはナポレオン時代のフランス人で、軍に入ったり官僚として働いたりしながら小説を書いた人物です。また、若くしてナポレオンに従軍してイタリアに行って以来、イタリアの魅力に取りつかれてしまったという人だそうです。

スタンダールには「赤と黒」という有名な小説がありますが、この「パルムの僧院」も「赤と黒」もナポレオンの時代のお話です。

「パルムの僧院」は、イタリアの小国パルム公国の宮廷を主な舞台としています。舞台は"僧院"ではありません。

主人公の一人(とあえていいます。)であるファブリスという青年が聖職者の道を歩むので、関係なくはないですが・・・。

この物語は非常に魅力的な青年ファブリスの生涯をつづった物語なんですが、ジーナというファブリスの美しい叔母の物語でもあります。

ジーナ(ピエトラネーラ伯爵夫人、サンセヴェリーナ公爵夫人と呼び名が変わっていきますが)は大変品があって美しく、誰からも称賛されるような魅力的な女性なのですが、実は甥のファブリスを愛しているのです。

年齢もかなり年上で、初めはかわいい甥っ子と思っていたのが、愛に変わってしまうわけですが、当然許される恋ではありません。彼女はそれを胸に秘めたまま自分にふさわしい恋人をつくり、パルム公国の宮廷でその魅力をもって政治的駆け引きの世界で生きていきます。

ジーナの甥、ということでファブリスも政治闘争の駒とされピンチに陥ったりするのですが、ジーナは何とかして彼を助けようとします。

と、ここまで書いてきて、私がジーナのことばかり書いていることにお気づきの方もおられると思います。

 

そうです。今回のおすすめポイントは、このジーナです。

"禁断の恋は切なく献身的・・・でもそこが魅力!"なのです。

ファブリスは魅力的な青年なので大変モテます。聖職者といっても、この時代は出世の一つの手段としてとらえられているので、恋愛ご法度!というほどではないようで、ファブリスも恋をします。

ジーナは彼が遊びの恋愛をする分には心を動かされませんが、本気の恋をしたときは狼狽します。

作者は登場人物の心の声を逐一といっていいほど代弁してくれているので、ジーナの胸の内がよくわかります。

"許されない恋"の物語の場合、主人公たちは障害を越えるべきか越えないべきかで悩んだり、どうやって障害を越えるか苦心したり、越えてしまった後世間と戦ったり、といった物語になっていくものが多いように思いますが、「パルムの僧院」の場合、ファブリスはともかくジーナの愛はそういう物語とは違うのです。

また、不思議なことなんですが、ジーナもファブリスもそれぞれに苦しい恋をしますが、なぜだか読んでいて悲壮感を感じません。

むしろ二人はそれぞれにいつも輝いて見えるというか・・・うまく表現できませんが、作者はこの二人のキャラクターをとても好きだったんだなと感じます。舞台も作者の好きなイタリアですしね。

特にジーナに関しては、"理想の魅力的な女性"としてこの人物を動かし、しゃべらせているという気がとてもします。

作者はジーナをこそ書きたかったのかもしれないなと私は思っています。

私にとって「パルムの僧院」は、"許されない恋"をした魅力的な二人の人物の物語であるにもかかわらず、至極心地よい印象を受けるという不思議な物語なのです。

 

ぜひ、1800年代のイタリア、パルム公国の宮廷でジーナの魅力に触れてみてください。(*^▽^*)