2018年9月のテーマ

読書の秋、世界文学に親しもう

第一回は、

「海底二万海里」

ジューヌ・ベルヌ 著、清水正和 訳

福音館古典童話シリーズ 1972年発行
 

 

です。

 

1869、1870年に二部に分けて刊行された作品とされています。

ジューヌ・ベルヌはフランスの作家で、冒険小説をたくさん書いた作家です。

日本で有名なところとしては、「十五少年漂流記」も彼の作品です。

(原題は「二年間の休暇」で、こちらも福音館古典童話シリーズにて原題のまま出版されています。)

自然科学に詳しく、科学的な事実を小説に取り入れて書いたため、SFの父とも言われているようです。

「海底二万海里」は文字通り海底探検のお話です。

船に大きな角のようなもので穴があけられてしまうという事件が立て続けに起こり、大きな海洋生物の仕業ではないかと仮説を立てた生物学者のアロナックス博士と助手のコンセイユ、銛打ちの名人であるネッド・ランドの三人が調査のさなかその謎の海洋生物によって船が襲われ海に投げ出されてしまいます。

三人は、謎の人物ネモ船長の最新式潜水艦、ノーチラス号に助けられますが、そのノーチラス号こそが船体に穴をあけていた怪物の正体でした。そしてそのままノーチラス号で世界中の海を旅することになります。

この作品のすごいところは、"当時まだ潜水艦というものが存在していなかった"というところにあります。

当然、海底探査なども行われていませんし、現代のように海の中の様子が映像で見られるわけでもありません。

 

旅行体験が少々あるほかは、大部分が未知の世界への憧れを糧にした作者自身の想像力が生み出した物語なのです。

にもかかわらず、海底を探検していくこの物語で描かれている、海中の様々な生き物や美しい情景、伝説の遺跡、または危険な海域でのスリリングな航海の様子などは冒険譚として面白いだけではなく、現代の私たちが知り得ている海中の知識と重なる部分も多くあり、本当に想像の産物だったのか?と作者の慧眼に感心させられます。

また、

ネモ船長とはどういった人物なのか?

何の目的があってノーチラス号という潜水艦で海底を旅しているのか?

といった謎もあって、それらが徐々に明らかになっていくあたりも、この小説の魅力です。

 

この作品をおすすめしたい訳をざっくりまとめると、

SFの古典として、潜水艦のない時代に描かれた海底の旅をその時代の人たちの目線で読んでみよう!

ということになります。

そうすると、この小説の魅力がきっと何倍にも感じられると思います。

ネモ船長やノーチラス号の名前は、色んな小説や映画でちらほらと出てきます。

この小説を愛する人がたくさんいる証拠ではないかと私は思います。

 

ちなみに、1990年代にテレビアニメとして放送されていた、庵野秀明監督の「ふしぎの海のナディア」はこの「海底二万海里」と「神秘の島」(こちらもジューヌ・ベルヌ作)が原案とされていますが、ネモ船長やノーチラス号のモチーフ以外は全く別の物語なので、どちらかというとオマージュ的な作品かなという風に私は感じています。

 

古典的な世界文学の本を探す場合に、私はよく児童書のコーナーにいきます。

良いものは子供にこそ読んでほしい、ということでしょうか。ラインナップが豊富なのです。(*^▽^*)

ところで、この物語に限らず、古い時代に描かれた世界文学はその当時は子供向きに描かれたものではない作品もあり、現代では児童書にするにあたって読みやすい翻訳で、内容も簡略化されているものが多くあります。

私は、現代語として読みやすく翻訳することには大賛成なのですが、物語を簡略化されているとものすごく損をした気持ちになるので、児童書として並んでいる本の中から古典的な世界文学の本を探す場合にはなるべく完訳版を探すようにしています。

児童書と侮るなかれ。

有名すぎてタイトルは知っているけどちゃんと読んだことはない、っていう本誰にでもあると思います。

児童書の古典名作コーナーは私にとってそんな本の宝庫です。(*^▽^*)