2018年8月のテーマ
熱いぜ!○○
第四回は、
「太陽の戦士」
ローズマリ・サトクリフ 作、猪熊葉子 訳
岩波少年文庫 2005年発行
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太陽の戦士 (岩波少年文庫(570))
821円
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です。
岩波少年文庫にふさわしく少年の成長を描いた作品ではありますが、決して若者向けの本にとどまりません。
作者のローズマリ・サトクリフはローマ時代のブリテンを題材にした小説を多く書いており、大変有名な作家です。
サトクリフの有名な作品では、主人公は舞台となる時代において成人しているものが多く(つまり青年ですね)、少年が主人公というものはあまり多くはありません。(私がぱっと思いつくのは「ケルトの白馬」くらいです。)
舞台は古代も古代の青銅器時代。
片腕の不自由な少年ドレムが試練を乗り越えて一人前の戦士を目指す物語です。
部族の男は皆、試練を経て一人前の戦士と認められます。
戦士になれば今度は戦わなければなりません。
当然、片腕が使えないということはものすごいハンディです。
"戦士になる儀式としての試練"どころか、ドレム君にとってはありとあらゆることが試練として降りかかってきます。
作者は歴史に造詣が深く、私たちにとっては遠い古代の世界の部族の生活風景を、臨場感豊かに描き出してくれています。
それゆえ、ドレム君が生きている時代のとてつもない厳しさが伝わってきます。
はっきり言えば、弱い個体は生き残れないのです。
しかし、一方で人間は一人で生きる動物ではありません。集団で助け合って生きています。
部族という集団の中でどのような人間として生きていくか、少年が大人になる過程で自ら選択し、運命と戦ってひとつひとつ勝ち取っていくしかないのです。
この物語を、少年の成長物語と呼ぶことに私は抵抗を覚えます。"少年の成長"という言葉の中にある明るくて前向きな響きが、私に反感を覚えさせ、"そんな単純なものじゃないんだ。彼の覚悟はそんな言葉では表せないんだ。"という気分にさせるのです。
にもかかわらず、この物語は紛れもなく"少年の成長物語"なのです。
作者の実に繊細な心理描写が、少年から大人へと成長していく過程を巧みに表現しているからです。
この作品には"少年の成長物語"でありながら"青春物語"とは全く別物の熱を感じます。
その理由は、この物語が"命の輝き"を描いた物語だからだと、私は思います。
"青春時代の輝き"ではなく、"命そのものの輝き"を描いた、熱い熱い物語なのです。
少年少女、若者の皆様のみならず、大人の皆様にもぜひぜひおすすめしたい一冊です。(*^▽^*)
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ケルトの白馬
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