自由気ままな下手くそ小説 ~第二弾 マーチングバンドが舞台 「見えない手と手」~ -7ページ目

第160章―今さら……

 寝巻きに着替えた秀樹は、ベッドに仰向けになり、ぼうっと天井を見つめていた。

『私は秀樹の事が好きなの、大好きなの――。』

 頭の中で、何度も千尋の声がこだまする。帰り道でも千尋の事ばかり考えていて、危うく側溝に足をつっこむところだった。食欲も湧いてこず、夕食はほとんど残してしまった。

「そういえばあいつ、何回か俺に聞いてきてたよな……『私のことどう思う?』って。北陸大会の前のあれも、冗談じゃなくて本気だったのか……。」

 考えれば考えるほど、思い当たる節が出てくる。あいつはいつから、自分のことを好きだと思っていたのだろう……。

「でも、あいつはもう兄妹みたいになってるし、今更そんな風には見れないって……。」

 それは千尋もおんなじだと思っていた。けれども実際は違っていて……。一体どうすればいいのか分からない。でも、自分の鈍感さで千尋をずっと苦しめてきた事に関しては、心が猛烈に痛んだ。

「なんで、気づかなかったんだろうな、俺……。俺が、男っぽいとか胸が小さいとか言うたびに、あいつは傷ついていたんだろうな。あいつだって、女なのにな。そんなこと言われたら、傷つくのは当たり前だよな……。」

 そんな事に今更気づいたって遅い……。あの時千尋は泣いていた、そしてすごく怒っていた。千尋があんなに自分の感情を爆発させた姿を、秀樹は今までに見たことが無い。

「俺……あいつに対してとんでもない事しちまった……。」

 千尋の事を考えれば考えるほど、秀樹の心は後悔で一杯になっていく。そして、それが募れば募るほど、身体が重くなって、体調まで悪くなっていく気がした。けれども秀樹は、わざと自分の心と身体を痛めつけるかのように、自問自答を繰り返した。そしていつの間にか眠りに落ちていた――

つづく